留守 頬に風が当たって気づく。オレの頬を伝うのは涙か。
ヒュンケルが死んだ。
懐かしい仲間をはじめ、これまでにこの世界で縁を紡いでくれた人々が集まり、それぞれの想いを込めて、ヒュンケルにお別れを言ってくれた。奴はそれを静かに聞いていた。それから火葬して、奴は自分の父親と似た形になって、オレのところに帰ってきた。
二人で住んでいた家はそのままに、オレは今、奴の遺骨と共に、あの頃と同じように旅をしている。
この海で、当時、オレはなんとなく母の思い出を話し始めたのだった。そのうち日が沈むと、それに引きずられるように、母が死んだときの、この世の全てに母が殺されたような気持ちが甦ってきて、オレは少し取り乱した。
986