そこに耳があるので「……君はなぜこれが好きなんだ」
「はい?」
これだ。と、やや面倒くさそうに自分の耳を指差し、ヨモツザカは隣のサテツを睨め付けた。耳朶から耳穴にかけてしっとりと濡れたそこに、PCモニターの光が僅かに反射している。つい先程まで、サテツが嬉々として舌を這わせたからだった。
「あ、いや、その、好きと云うかなんというか」
「は? 貴様は道楽で俺様の耳をわんちゅ〜るみたいにベロベロベロベロ舐めているのか?」
ヨモツザカが食い気味に不機嫌さを露わにした。
「ち、違いますっ、道楽なんかじゃないです!」
サテツは掌を左右に振ってそれを否定したが、ヨモツザカは白衣の袖で耳を拭いながら、納得いかない様子である。
「あの、ですね」
「なんだ」
「き、キスが……しにくくて」
「は?」
「仮面が顔に当たるんで、避けたら、その、目の前に耳が有って……つい、ペロリと」
「貴様はそこに山があれば登る登山家か何かか?」
「うわぁぁぁ! すみませんホントすみません!」
目の前に胸があったら舐めてしまうサテツには言い訳のしようも無いが、つまりはその通りなのだった。赤信号は止まるし、カレーがあったら食べるし、耳朶があったらしゃぶってしまう。
「それに……ヨモツザカさん、すごい気持ち良さそうなんで」
「……は?」
以来ヨモツザカはキスのタイミングで仮面をずらすようになったが、サテツの耳舐め癖は結局治らなかった。
「そこに耳があるから仕方ない」
とはサテツ本人の談だ。