南水のようなもの。ねえ、肥前くん、この感情はどうしたらいいんだろうね。好かれて嫌な相手はいないと思うけど僕がこの感情を抱いているのは…
その日肥前忠広は自分とほぼ同時期に顕現した南海太郎朝尊と話をしていた。話と言ってもただの雑談だ。初対面は可も不可もなかったが肥前の出自を知ると南海はそこに興味をそそられたのか肥前の性格や元主のことについて聞きたがった。最初はなんだこいつだったが一緒に過ごすにつれ少し変わったやつという認識に落ち着いた。
最近の南海の話は先日顕現したばかりの南海の師匠である水心子の話ばかりだ。ちなみに初対面はとても最悪だった。仕事が一段落していたら政府職員に南海を捕まえてくるように言われてそして彼らと引き合わされた。
「南海くん、こちら新しく顕現した水心子正秀くんと源清麿くん」
「お師匠もいずれこちらにとは話を聞いていたけど随分と可愛らしい姿で顕現されたものだね。でもお師匠にはこの姿がとっても合っていると思うよ」
これが水心子の逆鱗に触れた。まあそりゃそうだろう。会ってすぐかつての弟子に可愛らしいなんぞ言われたら師匠としての面子が立たないだろう。言った本人は逆鱗に触れたことなど知る由もなく。
「まさかあんなに怒るとはねぇ、やはり見た目に引きずられるものなのかな」
「引きずられるも何もあんた、会ってすぐに自分がなんて言ったかおぼえてるか?」
「肥前くん、僕はその手のことに関してはあまり覚えていなくてね、僕は何かお師匠を怒らせることを言ったかな」
南海の言葉に肥前は大きくため息をつく。これはなんと言えばいいのだろうか。すごい困る。ここで無関係だといえば楽なのだが一度あることは二度あるのだ。南海が繰り返さないという保証はない。そこまで考え肥前はめんどくさいと言わんばかりに考えを放棄した。
今日もどこをほっつき歩いてるのかと探しに行けば訓練場を一望できる場所にいた。視線の先を見ればそこには水心子の姿が。
「なあ、先生、そんなにあいつと話したいのか?」
「話したいのかな、よく分からないね。あぁ、でもこうしてみてるとなんとも言えない気持ちになるんだよ」
「はあ…」
「お師匠は古刀の復活を望んでいたからね。そのための努力ならなんだってする人なんだ。まあそんな人だから僕も…って」
「なるほどな。悪くないんじゃないか」
「君ならそう言うと思ったよ。それにしても僕はさっき何を言おうとしてたんだろうね」
何をって。そこで肥前は察した。南海が水心子に抱く感情に。コレは教えてやるべきか否か。初対面は最悪。まあそれは無理もない。それ以降は一方的に南海が水心子を見てるだけだ。水心子がどういう刀はさておきあんな言葉を言われて次会った時にないものにできるだろうか。自由人な南海の師をやっていたのだからちょっとやそっとのことではと思わなくもないが自分には関係ない話だ。巻き込まれるのは申し訳ないが願い下げだ。これならまだ男女のいざこざのがマシだと肥前は晴れた空を見上げ思った。
その頃の水心子はと言うと。
「そうだね、酷いね。水心子はすごい(可愛らしいのに)のに全くもってみる目がないね」
「全くだ!私とて望んでこのような姿になった訳では無いのに南海のやつ!何度思い出しても腹立つ」
「その割には南海先生のこと気にしてるみたいだけど」
「あいつも一応弟子の一人だからな。それに血の繋がりはないと言え弟子は身内と言っても過言じゃないからな」
身内。水心子の言葉を清麿は心の中で繰り返す。水心子にはそんなつもりは無いがまるで自分の入る隙間がないと言われたようで清麿は胸が痛んだ。なんだかんだ言いつつ水心子は南海の事を弟子として見ているのだ。仲良い師弟とは程遠いけれど自分の知らない彼を南海は知っているのだ。最初は師弟だから、久々の再会だからと思っていたが気づけば水心子の口なら南海の名前が出るのが嫌になっていた。
「私も南海のような成熟した姿にっむぐ」
あぁ面白くない。次の瞬間清麿は水心子の唇に自分のそれを重ねていた。