おれとおまえの花束/いちばんの栄養剤「んん〜。やっと終わったぁぁ。」
背もたれを思いっきり倒して背伸びをする。
フィレンツェでここ数ヶ月かさんでいた仕事のほとんどがやっと終わった。あと残ってるのは締め切り期限期限がだいぶ先だから一旦切り上げても大丈夫。しばらく日本には帰れてないし、今から帰る準備しようかな。
あ、でも最後にお風呂入ったのいつだったっけ。確かセナがパリに仕事に行く前に無理やり入れられたはずだから、3日前?
下着を用意してシャワーを浴びて、お腹すいたしお昼でも食べようかなとリビングに行った時、ブーっと玄関のチャイムが鳴る。はいはーいと玄関を開けると勢いよく抱きしめられた。桜のような匂いに柔らかい身体、赤い髪とアメシスト。紛れもなく絶賛遠距離恋愛中の可愛いおれのブーケ。
「うぇっ。スオ〜?どうしてこっちに。」
「どうしても我慢できなくって。身体が渇いてかわいて仕方なかったんです。」
奪うようにスオ〜にちゅーされて、舌が口の中を味わうように動く。
「ん、ちゅっ。んんっ。」
「んっはっ…。すお。」
いつもより長めに舌が絡まって、さすがに息が続かなかったのかぷはっと口が離れて銀の糸が垂れる。ごくりと喉を鳴らしてスオ〜が唾液を飲み込んだ。
「久しぶりのレオさんの味、とっても美味しいです…♪」
むせかえるような花の香りとスオ〜の色っぽい表情に一気に全身が熱くなってくる。いきなりだったけど、おれも長いことスオ〜に触れられなくて溜まってたし、そっちから誘ったようなもんだから、おれもスオ〜のことたくさん食べてもいいよな……?
スオ〜を担いで寝室のベッドに倒す。
「後でお花もらうけど、その前にスオ〜自身を食べさせて。」
「はい。司のナカにたくさん栄養くださいね?」
お腹に当ててるスオ〜の手を絡めとって、今度はおれから深いふかいちゅーをした。
□□□
ベッドに散らばる花々とスオ〜の身体に散らばったちゅーマークがまるで花畑みたいにシーツを彩っている。しばらく満たせてなかった独占欲が満たされる心地。
しばらくスオ〜はこのベッドに籠ることになりそうだし、ちゃんと片付けておかないとな。それに、結局お昼も食べれてないから、夜ご飯も作らないと。スオ〜用のは消化のいい食べやすい料理にするとして、おれは花食べたしコーヒーと軽食でいっか。
起こさないようにベッドを慎重に降りる。まずは花をと手を伸ばすとスオ〜の目がぱちっと開いた。
「ん…。れおしゃん。」
「ごめん起こしちゃった?」
すっかりかすれちゃってる声をしてるスオ〜にベッドサイドに置いたペットボトルの水を含んで口移しする。
「ふふ、レオさんのでココいっぱいになって司の身体潤いました…♪」
嬉しそうに微笑むスオ〜をまた襲いたくなったけど、グッと堪えてそのまろい頭を撫でる。
「おれもスオ〜のお花食べれて元気になった。」
スオ〜から定期的に渡される匂い袋は常に身につけてるけど、やっぱり生み出されて時間のたってない花から得られる活力は大きい。
「晩ごはん今から作るから、それまで寝てていいよ。」
「いえ、私も手伝いま……。うっ。」
「こら、久しぶりな上にたくさんしちゃったんだから無理しないの。」
近くにあったタオルケットをスオ〜に掛けて目元に手を当てる。
「~~~♪」
スオ〜が寝る時に聴いてるって前に言ってたおれが贈った曲を口ずさむ。1分もしないうちに寝息を立て始めて、完全に寝たのを確認してから花を集める。大きめの瓶いっぱいに詰まった花。会えない間、スオ〜が花を生み出す度に寂しさを募らせてたことを想像して心が痛くなる。ブートニエールであるスオ〜と離れてフィレンツェに拠点を移すと決めたのはおれだし、スオ〜もそんなおれを送り出してくれた。もっともっと有名になって、スオ〜の相手として誰にも反対されないくらいの男になれたら、その時は日本に拠点を戻して書類上もスオ〜とパートナーになるっていうのはずっと前から決めてた。だからどんなに仕事が大変でもスオ〜のとの将来のためって思えば頑張れちゃう。
「愛してるよスオ〜。いつか必ずここに永遠の愛の証贈るから待ってて。」
左手の薬指に軽くちゅーをして、リビングに向かった。
「んもう…。そういうのはちゃんと起きてる時に言ってくださらないと。」
実はスオ〜が寝たフリをして聞いてたなんて全く気づかず、おれはキッチンで鍋を手に取ったのだった。