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    つつ(しょしょ垢)

    @strokeMN0417
    げんしんしょしょ垢。凡人は左仙人は右。旅人はせこむ。せんせいの6000年の色気は描けない。鉛筆は清書だ。
    しょしょ以外の組み合わせはすべてお友達。悪友。からみ酒。
    ツイに上げまくったrkgkの倉庫。
    思春期が赤面するレベルの話は描くのでお気をつけて。

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    POIPOI 33

    無事にお祭りが終わったので、ある方に空リプした際に浮かんだしょしょ。
    「見たことない婚約者に嫁ぐことを決められた仙人、婚約者の先生に一目ぼれ」をテーマにしたifしょしょ。

    ##小話

    未見 未見
     
     岩の魔神モラクスは妖魔による災禍や疫病、無慈悲な魔神による命の搾取に苦しんでいた璃月の民たちを救い、岩王帝君として統治し安寧を築き上げた。
     戦うことしか知らず、あらゆる魔神に苦役を強いられた夜叉一族とて例外ではなく、岩王帝君により救われたものたちは少なくない。
     その恩義に戦うこと以外で返せるものはないかと思案し、考えあぐねた結果、美しきものを捧げることとなった。
     一族の中で最も美しいものは誰かと、白羽の矢が立ったのはまだ幼い翡翠色の羽を持つ仙鳥、金鵬であった。
     雄型ではあるが仙人にとってはさほどの問題ではない。
     美しきものを愛でることを殊の外好むという噂の帝君に骨董品のごとく気に入られれば重畳、護衛として傍仕えでもいい。
     夜叉たちはあらゆる教養と戦い方を彼に仕込んだ。
     時に奏楽の師匠として名高い仙人を招き、時にかの帝君に引けを取らぬという武人を招き、帝君のためにと教え育てた。
     そうして教えに来るもの、世話をするものはみな顔を仮面や布で覆っていた。
     まかり間違っても仙人が帝君以外に恋慕の情を抱かぬように、この世には帝君以外の番は存在しないのだと魂の髄にまで染み込ませるがごとく。
     
     ほとんど生まれ落ちた時からそのように生きてきた彼は自身のことを誉とも感じたが同時に生贄とも感じていた。
     書物でしかその偉業を知らぬ魔神の番となる。
     もし寵愛を賜ることができなければその時は。
     その時は。
     
     
     幾重にも結界が張り巡らされた洞天で、金鵬はひとり庭先で歌を口ずさんでた。
     色とりどりの花々、清らかな川、精密に配置された調度品や庭石などすべて帝君の好みどおりに配されたものらしい。
     美しいとは思っても、物心ついた時から変わらないそれらに心が動くことは最早ない。
     近々岩王帝君のご生辰の日を迎える。
     そろそろ頃合いだろうと世話人の一人が告げてきた。
     ああ、ようやくこの心地よく単調な牢獄から出られるのだ。
     その先にあるのが生か死かは定かではないけれど、最後に一回だけでも自由に空を翔けることができるだろうか。
     学びや鍛錬のため外に連れ出されることはあっても、羽ばたくどころか自由に歩むことさえ許されなかった。
     歌に合わせてひらひらと翡翠色の翼が揺れ、羽が舞い散る。
     
    「美しいな」
     
     ひゅっと思わず息をのんだ。慌てて仙獣の証たる翼を仕舞い込む。
     聞いたことがない低い男の声。
     恐る恐る振り返ると男が感心したように目を見張り、ほうと驚いたような口を開いたのが見えた。
     そう、見えたのだ。
     軽く流れる茶褐色の前髪から覗く切れ長の石珀色の目、すっと通る鼻梁、さきほどまで驚いて軽く開いていた唇はいまは軽く笑みの形を作っている。身に着けている服は質の良さが見て取れるものの凡人がごく普通に着ているような普段着で、だからこそ場にそぐわない。ここに来るものはみな「帝君の捧げもの」である自分に敬意を払い、礼服で来るのが普通なのだ。
     不意に男が表情を曇らせた。
    「どうした。もう歌わないのか」
     飄々と、そして心底不思議がっているような声音に金鵬はますます混乱した。
     
     何故、どうして、ここには夜叉のものしか立ち入ることはできない。
     結界が破られた様子もないということはしかるべき手順通りに入ってきたことになる。
     しかし一族のもの以外が入っているときには必ず一族のものが一緒のはず、なにより、顔を覆っていない…!
     洞天の入り口には護衛のものたちがいる。無断で立ち入るとはできない。まさか。
     
     手をかざすと練習用の粗末な槍が現れる。凡人と見て取れる男を追い払うぐらいはできるはずと構える。
    「いかにしてこの洞天を見出したかは問わぬ。ここにいることがすでにお前の罪だ」
     グル…と夜叉の闘争本能むき出しの唸り声をものともせず、男はふむと悠々とした態度で腕を組む。
    「夜叉の里に空洞の如く何も感知できない場所があったゆえ、調査に来ただけなのだが罪に問われるとは思わなかったな」
     さてどうしようかと男はじっと金鵬を見つめる。
     その視線は書物でしか見たことがないが、石珀色だというのに底知れぬ深い海のようだ。じっと見つめられ「呑まれる」という感覚に足がすくむ。しかしそれが厭な感覚ではない。不思議と気持ちがどこか高揚する。
     よし、と一言、男はためらうことなく間合いに入り、あっという間に金鵬の槍を取り上げてしまった。
     くるくるっと何度か回したり振り下ろしたり…何気ない所作だというのに金鵬は目が離せなかった。否、帝君の護衛として恥ずかしくないよう鍛えられた金鵬の目から見ても無駄な動き一つない、力強さと優美さのある槍捌きだ。
     男は一通り槍を検分すると、地面に落ちていた金鵬の羽を数枚拾い上げ、懐からは翡翠を取り出す。
     ふわりと男の手から槍、羽、翡翠が浮かびあがり、男からはまばゆいばかりの岩元素が溢れ出す。
     あまりの力と眩さに金鵬は顔を覆う。ほどなくして光が止むと涼やかな風が流れた。
    「詫びにこれをやろう」
     そこにあったのは粗末な練習用の槍ではなく、翡翠色に輝く美しい槍だった。
     吸い込まれるように金鵬の手の中に納まる。油がしたたり落ちるのではないかというほどの艶やかな輝き、大きさも重さも重心も、金鵬のために誂えたとばかりに一部の狂いもない。
     思わずもれたため息と、幼子のような目の輝きを認めた男は相好を崩す。
    「気に入ったか」
     男の声に完全に油断していたと金鵬ははっと息を呑み男を見上げる。
    「お前は何者だ」
     打って変わった出会い頭のような警戒心むき出しの声音とは裏腹に、気に入ったと見て取れる槍はしっかりと握りしめたままであることに、男は機嫌よさそうに応えた。
    「しがない武器職人だ。岩元素を扱えるのでな、村ではそれなりに重宝されている」
     屈託のない笑顔に耳朶を打つ心地よい声。しかし底知れなさは拭えない。
     金鵬はじっと男を観察する。
     
     そして、気づいてしまった。
     
     小さなため息が落ちる。
     明らかに落胆した様子の少年に、男は不釣り合いなほど無邪気な仕草で小首を傾げる。
     どうしたと声をかける間もなく、少年の姿は洞天から掻き消えた。
     
     目を開けると眼下にはいくつもの岩槍が突き刺さる暗い海が広がっていた。
     足元からビリビリと震え上がるような邪念を感じる。
     何百年何千年と岩神モラクスが封じてきた魔神たちが眠る孤雲閣。時折炎のように揺らめき立ち昇る怨嗟は凡人には秒として耐えられるものではないだろう。
     書物で教えられただけの場所だったが、ちゃんと飛ぶことができてほっと胸をなでおろす。
     それにしても…これが海なのかと足がすくむ。
     先ほどの男の視線を、雰囲気を、まるで海のようだと感じたがまったく様相が違う。改めて考えると、同じ雄大さでもあれはこの璃月の岩山のごとき雄大さであったのだと悟る。
     握りしめたまま来てしまった槍は、彼の仙力を補うには余りあるだろう。それほど精緻で強大な力を秘めた槍を作り上げたあの凡人は何者だったのか。
    「名前…を聞けば、余計に未練となったか」
     ぎゅっと握りしめた手が白くなる。
     
     初めて己の顔以外のものを見た。
     そしてその顔立ちは様々な芸術品を見せられて審美眼を磨かれた自身でもわかるほど整っていて、どんな音楽よりも美しい響きの声だった。
     均整の取れた体躯は武器職人を名乗っていたが武人たる夜叉の目から見ても戦場の先頭に立ち皆を鼓舞するに違いない堂々たるものだ。しかし同時に微かに香る霓裳花の香膏は嫌味がまるでなく、言葉を選ばないなら色気が引き立つようで閨であれば言葉を失うだろうことは容易に想像がつく。
     ぞくっと体が恐怖以外で震える。
     
     知らない。分からない。
     
     知ってしまった。分かってしまった。
     
     ふるふると首を振ると、海を見下ろす。
    「皆、すまぬ…我は、我は役目を果たせなかった。しかし残された最後の役目は果たしてみせよう」
     軽く跳躍し、そのまま身を任せれば自然と海へと落ちる。
     
     しかし身を包むのは絶海の冷たさではなく黄金に輝く糸のような光だった。
     
     死を一瞬で迎えたのかと恐る恐る目を開けば、金糸が縫い込まれた白衣と不動玄石の冠を身に着けた男が自分を見下ろしていた。
     状況が飲み込めずわずかに幾度か瞬きをする。
    「可惜命を散らそうとするとは何事だ」
     ぞっと背筋が一瞬で凍り付いた。
     低く威厳に満ち溢れた声。体が重くなるほどの岩元素。背中から特に伝わってくるのは当然だ。抱きかかえられているのだから…!
     応えようにも威圧で言葉が出ない。
     間違いない、この男、いや、この方は。
     
     ―――岩神モラクス―――!
     
     モラクスはその強大な力で璃月に巣食う魔神を打ち滅ぼした武神。時に友でさえも手にかけた無慈悲の神。
     震えが止まらない。神の怒りに触れたのだ。自ら命を絶とうとしていたというのに、これから神の責め苦に遭うのかと想像さえできない。
    「あ、あう・・あ…」
     赤子のように喘ぐ金鵬に憐れみとそして自身がどのように見られているのか察したモラクスは近くの岩場にゆるりと腰を落とす。そしてまた赤子をあやすようにやんわりと頭を撫でる。
     ひっと上ずった悲鳴についぞついたことのないようなため息が漏れる。
    「俺の怒りがわかるか? お前は璃月の命の一つ。理由もなく無駄に散らすことは赦さない」
     声音とは裏腹に、強張った手をほぐし、幾筋も流れる涙をぬぐい、金鵬が落ち着くのをじっと待つ。
    「何故ここに来た。何故身投げなど…」
     ひゅーひゅーと長細い息に仮面の下のモラクスの眉は顰められる。
     横抱きにしていたが、埒が明かないとばかりに膝に抱えなおすと肩に乗せるように抱きなおし背中を軽く叩く。
     視線から外れたことで次第に呼吸が整い、金鵬はぽそぽそと応え始めた。
    「我は…我はあなたへの供物でした…あなたの天寵を賜ることができなければ、この孤雲閣にて業障を封じる要石となり、あなたの璃月を護る…つもり、でした」
     ぐっと押しのける仕草を感じたが、モラクスはそれを無視して力強く金鵬を抱きしめる。
     力では叶わない、ましてこれ以上力任せに押しのけることも不敬と諦めて金鵬はそのまま言葉を紡ぐ。
    「一族のものは我の容姿であればモノとして愛でられることもあろうと…我には分かりませぬが…それであればモノとしてお傍にあることも考えました…我には帝君しかいないと、そうであるようにと育てられましたし疑うこともありませんでした…ですが」
     少し力が緩んだのを察し、金鵬はゆるゆると体を下ろした。
     強い意志を持って、伝えねばならないことがある。仮面の主をじっと見上げた。わずかにうるんだ金色の瞳の中に岩神が映り込む。
    「我は今日、誰かに心を奪われるということを知りました。そしてその心をほかの何者かに…たとえモラクス様であっても差し上げることができぬと知ってしまいました。二心を持ってモラクス様にお仕えするわけには参りませぬ。ゆえに」
    「理由なく、命を散らすことはまかりならぬ。たとえ理由があっても、命とはそのような使い方をするものではない」
     明確な拒絶に金鵬の端正な顔が歪む。
    「ですが、我は、一族のものたちの期待を、望みを…一方的に押し付けられた役目とはいえそれが璃月のためと、モラクス様のためと思えば辛くはなかったのです。あの男に逢うまでは…そうだったのです…」
     再びぽろぽろと涙が零れる。
     なんと脆弱な、惰弱な、誇り高き仙人の貴族ともいうべき夜叉でありながら、ひと時の感情に任せて泣くなど…だがしかしと押し寄せる感情を処理できず、岩神の衣装を濡らしているという事実を感じながらも、どうせ処罰を受ける身であればと諦めの心地がしていた。
    「どうか、どうかモラクス様、ご慈悲を。我に残された役目を果たさせてください」
    「…わかった」
     ほっ安堵の息を吐く。夜叉の誇りを帝君に示すことができる。きっと一族の者たちも喜ぶだろう。
     それではと立ち上がろうとした金鵬の腕を力任せにぐいっと引くとすっぽりとその身を抱きすくめた。
    「モラクス様…?!」
    「役目を果たすのだろう。存分に果たせ」
     威厳がどこか抜け落ちた飄々とした物言いに金鵬の動きが強張る。
    「あ…」
     驚きが理解を超える。
     モラクスは仮面に手をかけるとそれは岩元素の欠片となって散っていく。その下から現れた顔に金鵬はその愛くるしい金色の目を零れ落ちんばかりにまんまるにし、ひとしきりモラクスの哄笑を浴びることになった。
     
     
     曰く夜叉一族が秘匿している美しい宝があるらしい。
     いまは平穏とはいえ時に強欲な魔神が現れかねない不安定な璃月にとって甘美な響きを持つそれは同時に危険でもある。
     念のため用心しておくに越したことはないと偵察がてら里を訪れたその人は、持ち前の好奇心を抑えられず夜叉たちが制止するのも聞かずに洞天へと侵入した。
     夜叉たちの目論見は結果として成功したわけだが、それから先数百年と極上の骨董品さえ土塊に見えるなどあらゆる礼賛の言葉を尽くしても足りぬ者だと豪語し、自ら与えた槍とそして番として誓いの名前について事あるごとに惚気られるようになったというのはたいそう誤算であったという。
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