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    samao

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    samao

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    冬と志摩ちゃんと伊吹の藍ちゃん
    意外とずぼらな相棒

    カイロの残骸あ、と小さく声を上げた志摩の懐から黒い革の手帳がぽとりと落ちた。使い古されたそれは、いつも志摩が事件のことを事細かに記しているものだった。
    「だいじょーぶ?」
    伊吹は足元に落ちた手帳を拾い上げて、志摩の顔を下から覗き込む。
    「ああ、すまん。手がかじかんでて」
    カサついた志摩の手は指先がほんのりと赤くなっていて、見ているだけで痛々しい。寒がりのくせに首元は無防備だし、手だって荒れ放題の志摩はやっぱり少し自分のことに対して色々とおざなりだ。伊吹だってそこまでマメな方ではないが、志摩ほどではないと思う。むすっと眉間にシワを寄せてメモ帳のページが捲りにくいと舌打ちをしている志摩にこっそり息を吐き出した。
    「志摩」
    「うん?」
    「ちょい待って」
    「結構です」
    「まてまて、まだ何も言ってないでしょーが!」
    ジャケットの左ポケットをごそごそとあさりながら拗ねたように唇を尖らせると、志摩は小さく肩を揺らしてひひっと小さな子供のように笑う。そういう顔は悪くないんだよなあ、と伊吹はサングラスの奥の瞳を細めて、ポケットから取り出したものを志摩の手に握らせた。
    「はい、あげるー」
    「…カイロ?」
    「あったかいっしょ」
    「いい、返す。お前のだろうが」
    「ふっふっふっ、ジャーン!」
    ポケットの中にカイロを返そうとしてくる志摩を躱しながら、伊吹は右ポケットからもうひとつカイロを取り出して誇らしげに鼻の穴をふくらませる。
    「もうひとつあるから遠慮すんなよ、志摩ちゃん」
    「うわあ」
    「その顔やめよっか!」
    若干引いたような、引き攣った顔で伊吹を見上げてくる志摩の肩をドスッと突く。
    「まあ、なんだ、あれか…?ちゃんとしたニンゲンってのはカイロ2個持ちは普通な感じか」
    「うーん、どうかな?どっちにも入ってた方が両手あったかくて良くね?つーかあ、志摩ちゃん自分が色々大ざっぱなニンゲンだってこと気がついてる感じ?志摩もカイロくらい持っておいでよ」
    「まあ、うん、明日からな」
    「それぜったいやんない人が言うやつじゃん」
    「うるっせえな、薬局行ったら忘れんだよ。もうすぐ家ですよーってところで大体あ〜ってなるから明日でいいかってなるだろ」
    手のひらの中でカイロを弄びながら拗ねたように言い訳する志摩はやっぱり今日も薬局に行ってもカイロを忘れるのだろう。いや、薬局に行くこと自体忘れそうだなあ。
    志摩持ってねえだろうなあ、と思って実はカイロを2つ忍ばせておいたなんて言えば、何とも微妙な顔をするだろうから黙っておく。
    「伊吹」
    「うん」
    「サンキューな」
    「うん」
    こくりと頷いた伊吹に小さく笑みを零して、カイロをジャケットのポケットに入れた志摩に、たぶん、ほんとにたぶんだけど、3日に一度のローテーションでこのジャケットを着てくる志摩は、3日後カチカチになったカイロの残骸をポケットの中から見つけて難しい顔をするのだろうなあ、と思うと仕方ねえやつ、と笑うしかないのだ。

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