挨拶ロン・ベルクの厳しい修行から解放された二人は、近くの井戸で顔を洗っていた。冷たい水が気持ちよく、疲れた身体をリフレッシュさせた。
そして、ふと上を見上げると、三日月が夜空に現れていた。
「うわあ、綺麗な三日月!」
「そうだな。」
歓声を上げるダイが指差す方角へ、ヒュンケルは視線を向ける。
満月より明るくはないが、淡く夜空を照らす。その光は、昔の事を思い起こさせる。
「ねえ、ヒュンケル。ちょっとこっち来て!」
不意に腕を引っ張られ、我に返る。
「なんだ?」
「えっとね。ちょっと屈んで、じっとしてて欲しいんだ。」
お願いと上目遣いに頼み込むダイに、強く言える筈もなく。
ダイの視線に合わせるように屈む。すると、ダイは「ねえ、知ってる?」と囁き、ヒュンケルの広い額に自信の額をくっ付ける。
「これ、モンスター同士でやる信愛の証。ヒュンケルは、知ってる?」
ーこれは、信愛という意味だ。
ダイの言葉に、かつて教えてくれた父の言葉が今甦る。
「……ああ、よく知っている。」
「知ってて良かった。ヒュンケルなら、もしかしてって思ったんだ。」
ダイは、ほっと胸を撫で下ろす。
「ダイもやってたのか?」
「うん!じいちゃんとか、島の皆とやってたよ。ヒュンケルは、お父さんと?」
「ああ。懐かしいな。」
「本当だね。懐かしいや。」
二人は寂しさを埋めるように、額を擦り合わせる。目と鼻の先ほどの距離で、お互いの目が合う。
柔らかく絡んだ視線に、どちらからともなく笑った。
「……三日月の日に結構やってたから、思い出しちゃった。」
「寂しいか?」
「寂しいけど、でも、今はヒュンケルが、皆が居るから、寂しくないや。ヒュンケルは?」
「オレも同じだ。」
「そっか。」
えへへと甘えるように笑うダイに、ヒュンケルは目元を緩めた。
甘い空気が流れる。そのまま、続くかに思われた。だが、唐突に終わりを迎える。
それは、ダイは我に返ったかのように、急に慌てて離れたからだ。そして、その顔は心なしか、赤く染まっていた。
「どうした?」
「あ、いや、あー、その……。」
ダイは視線を彷徨わせ、言い淀む。
ダイ、名前を呼ぶと、ダイはヒュンケルに視線を合わせ照れ笑いをした。
「至近距離でヒュンケルを見るのは初めてなんだけど、やっぱり格好いいな。」
頬を赤らめ呟いたダイの言葉を聞いた瞬間、自分達があり得ない距離で接触していたことを今更ながら認識し、ヒュンケルは口元を押さえた。
彼の耳は、赤くなっていた。
***
中途半端に終わります。