甘いビヤク(バラダイ編)*ダイ君はおうちではディーノと呼ばれている設定です。
________
カップに粉を表記通りに入れる。そのカップに今し方沸いたお湯を入れ、スプーンで掻き混ぜて出来上がり。
簡単に出来上がったココアは、美味しそうな香りが、鼻腔を擽る。思わず今飲みたくなったがここはグッと我慢し、出したものを片付け、使ったものを洗い食洗機の中に入れる。最後に液体の入ったマグカップ二つを手に取ると木製のトレーに乗せて、目的の書斎へ向かった。
扉の前に着くと、一つ深呼吸。
ノックを三回鳴らした。
「父さん、入るよ。」
声を掛けると、相手の返事を待たずに部屋に入る。すると、目的の人物は集中しているのか背中を向けたままだった。しかし、大きな背中は拒んではいないのを知っている。なので、軽い足取りで近付いた。
そして、ダイが隣に立つ瞬間、相手は顔を上げ此方を見た。
「どうした?」
「休憩にこれ、飲まない?」
こちらに視線が向いた事に上機嫌になりながら、トレーを見せる。相手はカップから立ち上がる香を微かに嗅ぎ、ああと納得した。
「ココアか。」
「うん。偶には、甘い物も良いって、ポップが言ってたよ。」
「単に、今お前が飲みたいだけであろう。」
「あ、バレた?」
「バレバレだ。」
ペロリと舌を出すと、相手はやれやれと肩を竦めた。そして、ダイからトレーごと引き取り、空いているスペースに置くとカップを一つ差し出された。
「ありがとう。」
ダイは素直にそれを受け取ると、早く飲みたい意識が勝ってしまい、冷まさないまま一口飲んでしまった。
「アツっ、」
「ディーノ!」
「大丈夫、舌と顎火傷して、ヒリヒリしてるだけだから。」
深刻な顔で心配する相手に、ひらひらと掌を振って大丈夫だとアピールする。
「見せなさい。」
「良いって。」
「ディーノ、いや、ダイ」
相手の迫力に圧倒され、ダイは渋々舌を出した。すると、相手は真剣な顔で観察する。
う、恥ずかしいよ。早く終わって!
相手の視線に、ダイは羞恥心から目を閉じた。
「ふむ、赤くなってるな。」
「ほうひひ(もういい)?」
「顎も確かめんとな。」
「ふえ!」
もう見なくていい、そう言おうとしたが、その言葉は呑み込まえることになる。
相手に唇を塞がれていたからだ。
驚き目を丸くするダイの出されたままの舌を、難なく捕まえる。
びくり、小さな肩が震える。
バランは火傷をしたところを中心に撫でていく。
沁みて痛いのか、ダイの身体は小刻みに震え、見る見るうちに大きな瞳に生理的な涙が溜まる。
助けてほしいと、眼の前の相手に縋りつくと、ふと視線が合わさる。
激情を孕んだ金色が、此方を見る。
ダイの心臓が跳ね上がる。
同時にこれ以上見ていられず、ダイは瞳を閉じる。涙が目尻から零れ落ちる。
その涙を、バランの大きく節くれ立った指が拭い取り、細腰に腕を回される。
そして、愛撫は顎へと移る。
ヒリヒリする感覚と共に駆け上がる甘美に脳が麻痺し、酔い痴れる。
否定と欲求が複雑に絡み合い、相手の胸元を握り締めるダイの手に力が加わる。
絶えず漏れ出た喘ぐ息が喉を揺らす。
煽情的な色香に誘われるように、相手の太い指が発達途中の太腿を擦り上げる。
ゾワゾワと背中に甘い電流が押し寄せる。
タスケテ。
耐えきれず、目を開く。
涙で濡れた瞳が、部屋の照明に照らされ、官能的に輝いた。
此処で漸く、唇が離された。
力が入らず、そのまま相手の頑丈な胸にしなだれ掛かる。途端に自由になる呼吸に、大きく息を吸い込んだ。
「これで、少しは早く治るだろう。」
今までの雰囲気が嘘のように、普段通りの態度に戻るバランに、ダイはバカと拳で叩いた。