甘いビヤク(ポプダイ編)いつ雪が降っても可笑しくしない寒さの中、二人は学校から帰宅しようとしていた。そんな中、兎に角寒いので何か温まる物を支おうと言い出したのは、年上のポップ。それに賛同したダイは近くにあるコンビニに立ち寄り、ポップは肉まんと缶のカフェオレ、ダイは肉まんと缶のココア。それぞれ食べ物と飲み物を買った。
それを両手にして外に出ると、寒さの中で2つの高温が熱を主張し、ダイの素手で持つには熱過ぎる程だった。
それだけ冷えてしまったのだろう。
今更ながら、手袋を付なかった自分を呪った。今からでも付けようか、そう思ったが両手が塞がれている為に、ポケットから目的の物を取り出せない。
それならば、火傷しそうな程に熱い食べ物と飲み物で暖を取れば、手も暖かくなるだろう。
ダイは、コートのポケットにココアを入れ、真っ赤になった手に息を吹きかけた。
「そら見ろ。手ぇ、冷え切ってんだろう。真っ赤になってら。」
「それは、これが熱いだけだ。」
「おれは熱くないぜ。」
「お前は手袋付けてるからだろ。」
勝ち誇るポップに頬を膨らませ恨みがましい視線を送りながら、ダイは肉まんに齧り付く。寒い外気に触れ少し冷めた食べ物は、小腹が空いたダイにとっては、少なくあっという間に完食した。
その横でまだ肉まんを半分残っているポップは、早食いだなと呆れた視線を向けた。
その視線を無視し、ダイはポケットから缶を取り出す。此方はまだ熱く、持つのがやっとな状態だった。熱さに我慢ならず交互に持ち替えるダイは、急いでポケットから片方だけ手袋を出し四苦八苦しながらも嵌める。その手で缶を持つと、手袋越しに仄かな温かさが伝わった。
ホッとしたダイは、缶を良く振る。
「ほんと、ココア好きだな、おめえ。」
「だって、美味しいじゃん。」
振り終わりプルタブに指を掛け、引っ張る。開けた瞬間途端に広がる甘い香りに、思わず顔が緩む。
「お子様」
揶揄う言葉に、ダイは睨み付けてから、一口飲んだ。
「あつっ!」
思わぬ熱さに、思わず声を上げた。
途端に舌がヒリヒリとする。
「猫舌なんだから、ちゃんと冷まして飲めよ。」
呆れた口調で今し方食べ終わったホップは、缶を開けて冷ましながら飲む。
「うう、舌痺れてる。」
舌を出し痛さを軽減させようとするダイ。
半開きの口から出ている舌の先端は、確かに赤い。その舌がユラユラと緩慢に動く。
その様が此方を誘っている様で、思わずつい先日の妖艶な姿を思い出していまい、慌てて頭を振った。
「ぽっぷ?」
少々舌足らずな声に、呼ばれは本人は視線を無理矢理逸らし、何でもないと素っ気なく答えた。
ここで、本能のままに唇を奪おうものなら、忽ち相手は不機嫌になるだろう。そして、こう言うだろう。「ポップのエッチ!」と。それから数日間は、口を利かなくなるのが落ちだ。
それだけは何としてでも阻止したかった。
そんな訳で必死に煩悩を抑え込んでいる彼の前に、ふとココアの缶が現れた。
「ポップもココア飲んでみろよ。絶対美味しいから!」
そう自信たっぷりに言う様はもう何処にも妖艶さは無かった。その事に、安堵と落胆が綯交ぜになり、眉間に皺を寄せた。
「甘ったるいから、嫌なこった。」
「たまには甘いのも、良いんだからな。」
ほら、と差し出してくるダイに強く断れる筈なく、ポップは缶を受け取る。そして、まだ熱いココアを冷まさずに飲んだ。そして缶から口を離し飲み口が目に入ったところで、固まった。
おい待て。此ってもしかして……間接キスじゃねえかよ!
慌てて口を押さえたポップは、ちらりとダイを見やる。
視線を向けられたダイは、どう?と純粋に感想を待っている。
ポップは溜め息を付いた。
「あー、やっぱ甘ったるいわ。」
ダイに缶を返しながら答えた。
「でも、お前と飲むならたまには良いかもなあ。」
「でしょ!」
「でも、自分で買うのは無しだわ。」
「え、何で?」
「こんな甘めーの、一口だけで充分。全部入らねえ。」
お前から貰いたいから。
そんな言葉を内心に隠して。
そして、次に来る言葉を待った。
「じゃあ、おれのをまたあげるよ!」
待ちに待った言葉に、思わずほくそ笑んだ。
さて、この可愛い子は何時、この意図に気付くのだろうか。
「じゃあ、遠慮なく貰うわ。」
そう言うと、今度こそと叫ぶ本能に従い、甘ったるい唇に噛み付いた。
甘い唇の中は、予想通り甘い。
少しだけ眉間に皺を寄せつつも、口内を撫でる。
途端に鼻のかかった、甘い声が漏れだす。
呼吸させてくれと、腕の袖を掴む小さな手は震える。
大丈夫だと、小さな頭を撫でそして、もっと深くする。
逃げ回る小さな舌を掴まえ、絡ませる。
小さな肩が跳ね上げる。
ポップは火傷で痛い部分を和らげるように、優しく撫でてやる。治れ、と何度も、何度も。
その愛撫に、琥珀の目が悦楽に溶かされていく。
幼い嬌声が、ポップの脳内を刺激する。
思考が麻痺し、このまま本能に流されそうになる。
だが、若干残った理性を総動員し、唇を離した。
二人の間に繋がる銀の色が、名残惜しそう切れた。
足の力が抜けたダイが、ポップの胸にしな垂れかかった。
ポップは、文句の一つでも言われると覚悟した。
だが、しかし事態は思わぬ方角へと転がるもので。
「ぽっぷ」
ダイは涙で濡れた琥珀の瞳が見上げ、濡れた赤い唇から吐息のように呼ぶ。
その妖艶な姿に、たまらずもう一度唇を奪った。