【玲マリ】エイプリル「嘘って考えるの難しいね」
「ん?」
ふと漏らした独り言に、玲太くんが気になった様子で首を傾げてこちらを覗き込んできた。
わたしは「これ」と、エイプリルフールの話題が上がっているSNSの画面を見せる。
「ああ……。嘘つこうとしてたのか?」
「楽しい嘘ならいいかなって。でも何も思いつかないや」
世の中、みんなを楽しませようと色々考えてる人がいて、すごいなって思う。
楽しい嘘。ちょっとびっくりして、でも嘘だってちゃんと分かって、笑えるようなの。
そういうのって、なかなか難しい。
「玲太くんは、思いつく?」
「そうだな……。普段思ってることと反対のことを言えば、嘘にはなるけど……」
そう。玲太くんが考えて言うように、反対の嘘は簡単。
たとえば……、
「……キライ、とか?」
一番簡単な、普段と真逆の言葉。
思いついても言葉として発するのにすごくすごくエネルギーが必要な単語。
それを口に出した瞬間、玲太くんはわたしを凝視したまま固まって、両の目からハラリと涙を落とした。
「嘘! 嘘だよ! 好き! 玲太くん大好き!」
「わかってる、けど……これは、ダメだ……」
目を見開いたまま、涙を流したまま、今まで見たことないような弱って悲しい顔をする玲太くんを、わたしは慌てて力いっぱい抱きしめる。
「おまえに、そんなこと言われたら……」
「玲太くん、好きだよ。大好き。もう二度とあんなこと言わない!」
だから大丈夫だよ、好きだよ、って何度も繰り返して、玲太くんの頭を自分の胸に閉じ込めるようにして抱きしめた。
小さい子を宥めるみたいに大きな背中を撫でて、こんなことで気持ちは落ち着いてくれるかな。
こんな絶望したような表情させてしまうなんて、わたしはなんてこと言ってしまったんだろう。
本当に、もう冗談でも絶対言わない。言いたくない。
そもそも思ったこともないんだし……!
「おまえからの言葉、もっと聞きたい」
後悔で痛む胸元に閉じ込めた玲太くんから、ねだる声が聞こえてくる。
「玲太くん、好きだよ」
「俺も、好きだ」
「うん。大好きだから、ね……?」
それからわたしは何度も「好き」と伝えて、玲太くんが安心して笑えるまで、その日一日ずーっとくっついて過ごすことになった。
「おまえから、もっとシてほしい」
「は、恥ずかしいよ……」
「ダメ、か……?」
「う……わ、わかった……」
途中から、ただ玲太くんのペースで甘えられているだけな気もしてるけど。
わたしたちに嘘は似合わない。これはそういうお話。
[end]