新婚玲マリの研究発表その2玲太くんから帰りが遅くなるって連絡があってから、早くも二時間が経った。
急な打ち合わせが入ったとかで、お仕事が大変そうなのは分かってるから、わたしのことは気にしないで、って返事はしたし、実際、お腹が空いてしまったから夕飯は先に一人で済ませてしまった。
自分で食べた分の食器の後片付けをしながら、そういえばこの家で一人で食事をしたのははじめてだったなと気がついた。
新婚生活、何でも二人でやってきた。朝のおはようの挨拶から、お互いの仕事に行くまでの時間とか、夜におやすみって言うまで。
休日には一緒に家事をしておでかけをしたり、お家の中でずっとくっついて過ごしてたり……。
家の中、こんなに静かなのもはじめて。
寂しいって思うのもはじめて。
「まだかな……」
ため息混じりの言葉は響くこともなくリビングルームの天井に吸い込まれてしまう。
お風呂、すぐ沸かせるけどどうしようかな。
玲太くんが帰ってきたら、ご飯温めて、お風呂用意して、明日のお休みはどうするかお話して……。
ソファでクッションを抱きしめて、スマホの画面を見ながら考えてるうちに、瞼が重たくなってきた。
寝ちゃダメって思ったとこまでは憶えてる。
「あかり?」
「ふぇ……?」
頬をやさしく撫でられたのに気が付いて、瞼を開けると目の前に玲太くんがいた。
え? あ、居眠りしちゃってた?!
驚きで体を起こして、瞬きを何度かして、目の焦点を合わせる。
玲太くんはちょっと眉を寄せて、申し訳なさそうな顔してる。
「遅くなってごめん」
「ううん。わたしも、出迎えできなくてごめんなさい。……ちゃんと起きて待ってようって思ってたのに」
わたしは首を振って、きちんと挨拶しようと玲太くんに微笑みかけた。
「おかえりなさい、玲太くん」
「ただいま、あかり」
玲太くんも頷いて、笑って挨拶を返してくれる。
いいなあって思う。
さっき、妙に静かな家を感じてしまっていたせいか、毎日繰り返していることが当たり前にできたことに安心してふにゃっと笑っていると、玲太くんがわたしを抱きしめてくれた。
「あ、ご飯とお風呂、どっちもすぐ準備できるけど……」
言いかけて、ちょっとだけ躊躇って、でも今日は言ってしまえそうだったから、思い切って口を開いた。
さっきまで寂しかったし。
そのせいだって、言い訳できるし。
もうちょっと、このまま触れていてほしいし……。
「わ、わたしに、する……?」
言ってしまった後からじわりじわりと頬も耳も熱くなってくる。
玲太くんは驚いた顔でわたしを見つめて、その口元をゆっくりと笑みの形に緩めていく。
「じゃあ、あかりから、いただきます」
軽い口づけから熱い吐息が混じるのにはそんなに時間はかからなくて。
わたしたちはそのままソファの上で愛し合った。
[つづく?]