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    しののめ

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    ケビ←スウ 再会前 伝承編のネタばっかりです

    「僕はケビンの親友だからね」

    ##崩壊3rd
    #kevinsu

    僕のヒーロー

     花は散っていくものだ。
    「おはよう。昨日は、病院の梅が綺麗に咲いていたよ」
     一つ。
    「……おはよう。おやすみかな、もう。また僕は……助けられなかった」
     一つ。
    「おはよう。今日は……少し遠くまで、花を探しに行こうかな」
     また、一つ。
    「それじゃあ、行ってきます、ケビン」
     写真の中、暖かな笑顔を浮かべる彼にそう声をかけて、その青年──スウは、大きく息を吸い込んだ。
     たった一人の親友、そして、スウにとって唯一で最高のヒーロー。それが、少年の目に映るケビンという男の全て。バスケが好き、流行りの音楽も好き、そして気になる女の子がいる。そんな、どこにでもいる普通の男の子。それが彼だった。まだ未熟で幼くて、暖かく明るい声で自分の名を呼ぶ少年の姿を、スウは一度も忘れたことはない。眩しくて、優しくて、隣で燦々と輝き続ける、太陽のような男。いつか、それを見つめる自分も灼き尽くされてしまいそうだ、なんて、幾度となく浮かんだ考えは、とうとう実現しなかった。本当に、あの太陽に身を焼かれていれば、何か変わっていたのだろうか。

     閑静な住宅街を縫うように流れる川に、男の影がじっと落ちる。仕事がうまくいかなかったとき、何とはなく気晴らしがしたいとき、崩壊病に打ち克てぬ己の無力さを痛感したとき。スウは決まって散歩の途中にこの川を訪れた。
    「はあ……」
     言葉少なな青年の溜息が、水面に零れる。融け落ちそうに輝く夕陽を、彼は静かに見つめていた。
    『僕はね、スウ。ヒーローになりたいんだ』
     記憶の中のケビンは、未だ鮮明な色彩で以て目蓋の裏に浮かび上がる。
    『ヒーロー?』
     幼さの残る自分の声が、彼にそう問いかけた。陽光のような笑顔が、きらきらと輝いて見える。うなずいて笑うケビンは、スウにとって、この世界の美しさそのものだった。彼の眩さの前には、他の何一つ、自分の目には入らなかった。
    「……君はもうずっと、ずっとずっと、僕の『ヒーロー』だったよ」
     彼がなりたい『ヒーロー』には程遠いと知りながら、そう言ってしまえればどれだけ楽だっただろうか。ケビンを失った今のスウには、もうわからなかった。

     陽がすっかり落ち切るのとほとんど同じ時刻に、見慣れた自宅の扉を開けた。
    「勿忘草と、鈴蘭と、あと……これは何だったかな……」
     結局普段の散歩と同じルートを辿ってしまった、とスウは内心で苦笑いした。馴染みの花屋に見繕ってもらった小さな花束を、いつも通り玄関横の花瓶に生けていく。
    『贈り物ですか?』
     決して詮索好きとは言えない店主にそう聞かれ、曖昧に頷いたスウを、彼はどう思ったのか。
     この感情をどう形容したらいいか測りかねたままで、もう五年以上が経過していた。
    「ケビン……」
     どさりと派手な音を立てて、玄関に座り込む。スウはそう呟いたきり、何も言わずに彼の写真を見つめ続けていた。
     会いたくないわけでは、ない、はずだった。事実今でも、スウはケビンを忘れられないままだ。あの笑顔も声も温もりも、彼の与えてくれたもの全て、ずっと捨てられずに、後生大事に抱えている。けれど、そのままで長すぎる時間が経ってしまったのだ。
     花が散り、いつかは枯れるように、人も同じままではいられない。理解していたはずのそれが、スウの心に重くのしかかる。──彼はもう、スウの知るケビンではないのかもしれない。認めてしまうのも、この目でそれを見るのも、酷く恐ろしいことに思えて、スウは目蓋を強く閉じる。彼が彼でなくなってしまったとしても──彼のどこにも、あの太陽のようなケビンの面影が残っていなかったとしても──僕は、彼の親友なのだと、言い切れるのだろうか。
    「……君は確かに、僕のヒーローだったのに」
     終ぞ告げられなかったその言葉に、写真の向こうで笑うあの日のケビンだけが、黙って耳を傾けていた。
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    DOODLEケビ←スウ 再会前 伝承編のネタばっかりです

    「僕はケビンの親友だからね」
    僕のヒーロー

     花は散っていくものだ。
    「おはよう。昨日は、病院の梅が綺麗に咲いていたよ」
     一つ。
    「……おはよう。おやすみかな、もう。また僕は……助けられなかった」
     一つ。
    「おはよう。今日は……少し遠くまで、花を探しに行こうかな」
     また、一つ。
    「それじゃあ、行ってきます、ケビン」
     写真の中、暖かな笑顔を浮かべる彼にそう声をかけて、その青年──スウは、大きく息を吸い込んだ。
     たった一人の親友、そして、スウにとって唯一で最高のヒーロー。それが、少年の目に映るケビンという男の全て。バスケが好き、流行りの音楽も好き、そして気になる女の子がいる。そんな、どこにでもいる普通の男の子。それが彼だった。まだ未熟で幼くて、暖かく明るい声で自分の名を呼ぶ少年の姿を、スウは一度も忘れたことはない。眩しくて、優しくて、隣で燦々と輝き続ける、太陽のような男。いつか、それを見つめる自分も灼き尽くされてしまいそうだ、なんて、幾度となく浮かんだ考えは、とうとう実現しなかった。本当に、あの太陽に身を焼かれていれば、何か変わっていたのだろうか。
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    「おはよう。昨日は、病院の梅が綺麗に咲いていたよ」
     一つ。
    「……おはよう。おやすみかな、もう。また僕は……助けられなかった」
     一つ。
    「おはよう。今日は……少し遠くまで、花を探しに行こうかな」
     また、一つ。
    「それじゃあ、行ってきます、ケビン」
     写真の中、暖かな笑顔を浮かべる彼にそう声をかけて、その青年──スウは、大きく息を吸い込んだ。
     たった一人の親友、そして、スウにとって唯一で最高のヒーロー。それが、少年の目に映るケビンという男の全て。バスケが好き、流行りの音楽も好き、そして気になる女の子がいる。そんな、どこにでもいる普通の男の子。それが彼だった。まだ未熟で幼くて、暖かく明るい声で自分の名を呼ぶ少年の姿を、スウは一度も忘れたことはない。眩しくて、優しくて、隣で燦々と輝き続ける、太陽のような男。いつか、それを見つめる自分も灼き尽くされてしまいそうだ、なんて、幾度となく浮かんだ考えは、とうとう実現しなかった。本当に、あの太陽に身を焼かれていれば、何か変わっていたのだろうか。
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