残り香 あの人の匂いがした。
雷我の家の玄関先で、ノラは心底不快そうにぼやいた。
「今日、暑すぎません?」
真夏の高知は毎日暑い。今日も猛暑日だ。
今はちょうど夏休みで学校はなく、雷我は午前中にDAAの用事を済ませてからはオフで、家でゴロゴロとしていた。一方ノラは志望大学のオープンキャンパスがあり、一日外出していた。その足でそのまま、雷我の家に来ている。
今夜は地元の夏祭りの寄合だとかで両親が留守だ。それをいいことにノラを泊めることになっていた。
「あ、お土産でーす」
ノラは手元の紙袋を持ち上げた。
「大学の前においしそうな洋菓子屋さんがあって。ねこちゃんケーキなんですよ」
「自分が食べたかっただけだろ」
「らいがくんのぶんも買ってきたんですけどー?」
2820