ワンドロワンライ【ファーストキス】『王様だーれだ!』
「オレオレ!」
コラさんの友達だという先輩が嬉しそうに手を挙げている。今日は大学のクラブの新入生歓迎会で、二次会のカラオケに来たところ。ガヤガヤと騒がしいところは苦手だが、隣に座っているコラさんが楽しそうに笑っているから二次会について来てよかった。
今日は新歓で遅くなるだろうからとコラさんがアパートに泊めてくれると言ったので甘えることにした。朝まで一緒にいれて嬉しい。それだけで新歓に参加した甲斐があった。
一緒に帰るんだから隣に居たほうがいいだろ?とカラオケに来てからはずっと隣をキープだ。ちなみにコラさんを1番端っこに追いやったので隣に座るのは俺だけ。
歓迎会では腹が立つことに席順が決まっていた為、コラさんの隣には同じく今年入部した女子が座っていた。しかし時間が進むに連れて結構皆好き勝手に移動していたのでコラさんの隣の席の女が席を立った隙に隣に移動した。
隣に座るとせっかくクラブに入ったのだからおれ以外とも交流を深めた方がいいとコラさんに言われたが、コラさんと一緒にいる為にクラブに入ったのだ、他の誰かと交流を深めても仕方ない。適当に言いくるめて隣を死守。
上級生は大分酒も回ってきた様で出来上がりつつあるし、アルコールを摂取していないはずの同級生達も雰囲気に呑まれてるのかだいぶテンションがハイになっている。
気がつけば誰が言い始めたのか王様ゲームが始まっていた。もうゲームも5巡目となるとネタも尽きる頃ではないかと手元を確認する、俺の番号は1番。コラさんの番号は5番。
今のところ幸運なことに命令は回ってきていないが、そろそろ何かしら来る頃だろうか。面倒な命令が来なければいい。
「1番が5番にキッスで!」
ちっちぇツが入ってるあたりがうぜぇとすかさず他のクラブメンバーから野次が飛ぶ。
いいじゃん!この定番なやつ言ってみたかったんだよと言われた先輩は気にしない。
(…俺がコラさんにキス。)
降ってわいたようなチャンスにごくりと唾を呑み込む。こんな形でファーストキスを捧げることになるなんて、…やぶさかではない。
「やだー、先輩セクハラですよぉ。」
「別に唇とかじゃなくてほっぺでもいいから!」
「で、1番と5番だーれだ?!」
「あー、おれが5番だ。」
コラさんがチラッと俺の方を見てからちょっと不貞腐れた時のような表情で手を挙げた。コラさんは妙なところで真面目だからこう言ったノリは嫌なのかもしれない。俺もコラさん以外だったら絶対嫌だ。コラさん相手だからやる気満々だけども、だ。
「俺が1番です。」
「…へ?」
コラさんが目を丸くしてこちらを見ている。俺が1番だと不都合でもあるのか?と詰め寄りたい気分だ。
「ロー…、番号交換してきてやろうか?」
「あ、あの辺のやつとか。なんなら5番が王様にキスでもいいし。」
おれがアイツに言ってきてやると立ち上がりかけたコラさんの袖を引っ張って制止する。
「…別に、コラさんならいい。」
(むしろコラさんで良かったと思ってる。)
なんて少し照れくさくて視線を逸らすと、ガシッと肩を掴まれた。
「バカ!こういうことは本当に好きなやつとするんだぞ!ファーストキスだろ?」
「…ファーストキスじゃねえから大丈夫だ。」
「…えっ?!」
いつまでも子供扱いをしてくるコラさんについ売り言葉、買い言葉で嘘をついてしまったが、ファーストキスだろうがなんだろうが、そもそも唇にしろとは言われてない。
(…別にコラさんなら唇でもいいけど)
幼い頃からずっと一緒にいたせいか恋心を自覚してから積極的にアプローチしているつもりなのに全く意識してもらえない。やっぱり同性は恋愛対象外なのかと何度も諦めようとしたけど、コラさんに何度も恋におちてしまうのだからどうにもならない。何度失恋したのか数えきれないくらいだ。
おかげでこの歳まで恋人が出来ない。
コラさん以外の恋人になりたいなんて思えないから仕方ないのだけど。
「…ほら、頬にキスするくらい大丈夫だって」
ファーストキスはやっぱり想いが通じてからがいい。頬にキスしたら少しは意識して貰えるだろうか。俺の言葉が聞こえてるのかあーだのうーだのひとり唸っているコラさんの袖をもう一度引っ張る。
「ほら、ロシナンテ!王様の命令は「ぜったーい!」」
「うっせー!」
急かすんじゃないとコラさんがグラスをあおる。氷も溶けていてすっかり炭酸が抜けて温くなってしまっているだろうに、不味くないのだろうか。
ごくりとジンジャエールが食道を通過する、喉仏が上下する動きすらセクシーだ。
(あとで新しい飲み物一緒に取り行こ…)
「…ん。」と少し唇を尖らせて差し出す。少し気恥ずかしくて、思わず目を瞑ってしまった。あとはコラさんが頬を寄せてくれれば王様の命令は遂行される。ふにと両の頬に触れた掌の感触に目を開けると、カラオケボックスのオレンジ色の照明に照らされた紅茶色と目があった。視線に焦がされゾクゾクとした痺れが全身を駆け巡る、コマ送りのようにゆっくりとコラさんの顔が近づいてきて、気がついた時にはコラさんの唇が重なっていた。時間にすればあっという間だっただろう、塞がれた唇、舌に触れた生姜の風味、思わず声が漏れかけたが、すんでのところで耐える。
「あ、バカ!唇じゃないつったのに…」
「5番が1番にキスしてどーすんだ…」
(まるで食べられてるみたいだ。)
音が切り取られたように周りの喧騒すら気にならない。ちぅと可愛らしい音を立てて離れていくコラさんから目を離せなくて、視界に入ったコラさんの唇が唾液なのか先程のジンジャエールなのか濡れていて妙に生々しくみえた。
煙草の味がするのかなって想像していたコラさんとのキスは甘ったるいジンジャエールの味がした。
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