原稿 プロローグ1 私、砂漠の夢を見るの。ええ、時々なんだけど……。あんたの父親――あ……あの方は人だったのかしら? ええ、とにかくその方の夢を見るのよ。
私、若い頃にエジプトに一人旅をしたの。何故かしらね? もっと安全で、おしゃれな国はあったのに……。理由なんか忘れたわ。異国情緒溢れる街を歩いていると、日本という名の狭いつまらない現実を忘れられたのよ。私にはあの国は、似合わない。
でも、馬鹿よねぇ。カイロの雑踏を歩いていたら、突然見知らぬ男に腕を掴まれて地下室に監禁されてた。こんなに治安が悪いのかって呆れちゃったわ。だって、昼間だったのよ。それも、市場だったのに。
塀の高い大きな屋敷には、何人もの男たちがいたわ。一階の廻廊では、大きな隼が鋭い目でいつも庭を眺めていた。
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