陽の者達の休息ヨウノモノドモメガー、という叫び声が穏やかな昼下がりを突き破った。
俄に訪れた喧騒に窓の外を覗こうとして、グール=ヴールは傍らで眠っていたはずのレノが目覚めたことに気付いた。
「……何だ……? ……えらく騒がしいな」
「ああ、レノ。……何かあったのだろうか……ここは比較的静かな場所だと思っていたが」
「まあ、町外れとはいえ天下の副都、しかも聖夜も近いしな。祭りの前夜祭で盛り上がってるんじゃねえか?」
「なら、良いのだが……」
外では、ヨウノモノタチホロブベシー、という些か不穏な叫びが聞こえる。
「酔っぱらいでも暴れてるのかも知れねえな。……それより旦那、昼間はアンタの買い出しに付き合うが、夜はまたオレに付き合ってくれよ」
な、と上目遣いでおねだりするレノに、なぜかグール=ヴールの心の臓(人と同じ場所にそれがあるとすれば、だが)の辺りが跳ねた。
「……全く、君には困ったものだ」
副都の大きなカジノが休業中と聞いて落胆するかと思いきや、とある酒場で聖夜に因んだ賭事のイベントが行われていると聞きつけ、昨夜は夜っぴて盛り上がったのだ。この宿へ戻る頃には、既に空が白んでいた。
「だが、そんなところも嫌いじゃねえ、だろ?」
「ムウ……」
先日から義勇軍本部に滞在していた年代記の一行だったが、まずスカレット達骨3名が、聖夜の演出家に対するテストの為の肝試し要員だと言って駆り出されて行った。
聖夜衣装を纏ったリヴェラとイシュチェルは王都辺境の村へ聖夜の飾り付けの手伝いへ、ガラクスィアスとプレイアディス、それからセレンもそこへ一緒に向かった。
クライド達も今頃、義勇軍本部の手伝いをして小遣いを稼いでいることだろう。
レノとグール=ヴールはここに、聖夜の買い出しに来たのだった。
レノが軍資金を稼ぎ、グール=ヴールが品を選ぶ。聖夜と年末年始は皆で年代記の大陸へ戻って、フィシ達と盛大に祝うつもりだ。
「あっちで留守番してる皆にも、土産をたっぷり買って帰ってやらなきゃいけねえからな」
――ああ、レノがたっぷりと賭博に興じる理由を作ってしまった。
「……まあ、そういうところも嫌いではないがね」
口の中だけでモゴモゴと呟いたグール=ヴールの言葉に重なるように外からは再び、コレダカラヨウノモノタチハー……!という謎の叫び声と剣戟が木霊した。