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    yomoya_32

    @yomoya_32

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    yomoya_32

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    原作軸 兄に恋愛感情はないけど同い年の男性に対して考えてしまうこともあるのかなと(わたしは兄さあがすきです)

    年長のひと 兄の目は美しかった。
     降り注ぐ故郷の、抜けるような日差し。それを引き込んで反射する眼の輝きと、白磁の肌に睫毛の影が落ちてできる明暗比。自分にはない眩しさをいつも誇らしい気持ちで見あげていたものだ。
     
     月島に抱かれるようになってから、本当にふと、出し尽くして空っぽになって褥に転がるそんな時などに……うっかりと考えてしまうことがある。
     全くどうかしている。が、それもこれも私のおとこが、顔の汚れをさっぱりと洗い落としたような柔面で『かわいい、かわいい』と、日ごと自分を慈しむせいだ。まぁ、そういう彼こそ愛らしいと思ってしまう私も大概なのだが──とにかく、今は彼の話ではなく、兄だ。
    「兄さぁ……」
     ぽつりと漏れ出た声が、払暁の白みに溶ける。
     
     兄は、どんなふうに人を抱いたのだろう。
     きっとやさしかった。でも、もしかしたら違うかもしれない。だって日中鉄仮面をよそおう鬼軍曹とて、小春日和のような暖かさで私を抱くのだ。
    「兄さあ……」
     鹿児島の、苛烈な日差しを思った。
     兄が競争に負けたのを見たことがない。だからもしかして、案外強引に、ごちゃごちゃ言わないで黙って迫るタイプかもしれない。
    「──ほんなこつ、薩摩隼人のお手本んごたる男じゃったで……」
     ちり、と腰の奥が疼いた。はだけた胸に手を当てる。
     兄の手は大きかった。爪はいつも丁寧に整えられていた。外では必ず手を引いてくれて、歩き疲れた時は何も言わずに抱いてくれた。『音はぬくかねぇ』なんて、ニコニコと笑いながら。歳のわりに大きかった私をいつまでも抱いて歩いていた。
    「あにさ……ぁ、」
     夢でも幻でも、なんでもいい。兄が恋しい。
     もし神様がいて、何かひとつ願いを叶えてくれるというのなら、ただ兄を返してくれと願うのに。
     
     そんなことを思って、伸びてきた別の手に私は頬を擦り寄せた。
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    DOODLE宵待草、鳥がよぶまで 6のちょっと続き
    宵待草、鳥がよぶまで 6のちょっと続き 駅前のコンコースでは、今日も若者が歌っていた。今日の歌手は二十代前半くらいにみえる青年で、槇原敬之をカヴァーしている。派手にピッチがずれているのにやたらと笑顔をふりまいて、自分で手拍子までしているので(ギターの弾き語りではなくCD音源を流していた)、鯉登は思わず顔をしかめてしまう。いつもならばこんなこと、気にも留めずに通り過ぎるというのに。それどころか、以前の鯉登なら、調子外れな歌声にある種の微笑ましさすら覚えながら聴くことができた。例えばたいしてぱっとしない歌であっても、自分のおくる風変わりな——前世の部下と「友人兼恋人」をやっているという——日々の、面白可笑しいテーマソングのように聴くことができた。それが今はどうだ。力任せにはりあげるばかりの高音のオンパレード(極めつきに最後の「い」の長い伸ばし音といったら!)に、鯉登は閉口を通り越して憎悪さえおぼえながら、できるだけ大股で広場を通り過ぎた。これ見よがしに目の前でヘッドフォンを取り出してつけ、オリジナル曲を聴いてやりたいような、意地の悪い気分だった。
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