年長のひと 兄の目は美しかった。
降り注ぐ故郷の、抜けるような日差し。それを引き込んで反射する眼の輝きと、白磁の肌に睫毛の影が落ちてできる明暗比。自分にはない眩しさをいつも誇らしい気持ちで見あげていたものだ。
月島に抱かれるようになってから、本当にふと、出し尽くして空っぽになって褥に転がるそんな時などに……うっかりと考えてしまうことがある。
全くどうかしている。が、それもこれも私のおとこが、顔の汚れをさっぱりと洗い落としたような柔面で『かわいい、かわいい』と、日ごと自分を慈しむせいだ。まぁ、そういう彼こそ愛らしいと思ってしまう私も大概なのだが──とにかく、今は彼の話ではなく、兄だ。
「兄さぁ……」
ぽつりと漏れ出た声が、払暁の白みに溶ける。
兄は、どんなふうに人を抱いたのだろう。
きっとやさしかった。でも、もしかしたら違うかもしれない。だって日中鉄仮面をよそおう鬼軍曹とて、小春日和のような暖かさで私を抱くのだ。
「兄さあ……」
鹿児島の、苛烈な日差しを思った。
兄が競争に負けたのを見たことがない。だからもしかして、案外強引に、ごちゃごちゃ言わないで黙って迫るタイプかもしれない。
「──ほんなこつ、薩摩隼人のお手本んごたる男じゃったで……」
ちり、と腰の奥が疼いた。はだけた胸に手を当てる。
兄の手は大きかった。爪はいつも丁寧に整えられていた。外では必ず手を引いてくれて、歩き疲れた時は何も言わずに抱いてくれた。『音はぬくかねぇ』なんて、ニコニコと笑いながら。歳のわりに大きかった私をいつまでも抱いて歩いていた。
「あにさ……ぁ、」
夢でも幻でも、なんでもいい。兄が恋しい。
もし神様がいて、何かひとつ願いを叶えてくれるというのなら、ただ兄を返してくれと願うのに。
そんなことを思って、伸びてきた別の手に私は頬を擦り寄せた。