その花の名前は恋「お嬢さん、恋はいかが?」
紫の帽子を軽く上げて挨拶し、キザな事をいきなり言って来る彼。きょとんとしていると、彼の手が自分の鼻先で空気を掴むように動く。
次の呼吸よりも早い刹那に彼の手中へ現れたのは、真紅のバラ。
少し驚いてパチンと大きな瞬きをした彼女は、すぐに和んだ短い声と一緒に笑みが湧き上がった。
「あらあら、可愛い恋ですね」
「なーんだ、もっと驚いてくれると思ったのによお」
「驚きましたよ、でもそれ以上に嬉しかったので」
――喜ばせる為に一生懸命練習してくれた、彼の気持ちが。
バラを持った彼の手をそっと胸に引き寄せる。『お返しです』と彼の尖った赤鼻へ、リップでつやつやと光る柔らかい唇を寄せた。
(おわり)