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    りま!

    @ririmama_1101

    たまに絵とか小説更新します。
    主にらくがきなので薄ぼんやり(?)見てください。
    幻覚、存在しない記憶ばっかりです。

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    りま!

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    宗雲×戴天
    カオスワールドに閉じ込められた宗雲と戴天が奇妙な同居をする話です。

    #宗戴

    奇妙な楽園 商業地区でカオストーンの目撃情報が出た、とエージェントから連絡がきた。場所がちょうど近かったこともあり、宗雲が調査へ向かうこととなった。他のウィズダムシンクスのメンバーには、応援が必要な場合は連絡する、と待機を命じ、1人その場所へ向かった。
     目撃情報があった場所へ向かうと、すでにカオスワールドへの扉が出現しており、宗雲は迷うことなく足を踏み入れた。いつでも変身できるようにとカオスリングを指にはめ、ゆっくりと辺りを見回す。
     まるで下町地区のようなカオスワールドは、だが宗雲が見たことのない景色が広がっていた。近くにはカオスワールドの主も見当たらず、ひとまず情報収集をするために近くの人間に話しかけようとした時、見知った後ろ姿を見つける。
    「……高塔?」
     思わず漏れた声が聞こえたかのようにその人物が振り返る。やはりそこには高塔戴天がいた。
    「宗雲さん……?」
    「お前がどうしてここに」
     戴天も驚いたようでこちらを見ている。
    「たまたま商談で近くを通りかかった時に扉を見つけまして」
    「そういうことか。俺はエージェントからカオストーンの目撃情報があったから来てみれば、すでに扉が開いていた」
    「そうだったのですか……」
     珍しく歯切れの悪い様子の戴天を訝しむ。てっきりもう帰るだとかここは任せてお帰りくださいと言われると思っていた。
    「どうかしたのか?」
    「……このカオスワールドを開いた人物が見当たらなくて」
    「俺も入ってからそれらしい人物を見かけていない」
    「そう、ですか」
     カオスワールドに足を踏み入れてから主を見つけられないことは珍しい。大抵が事前情報でわかっているか、そもそも人がカオスワールドを開いた人物しかいないということが多いからだ。
    「まずは主を見つけ出すところからだな」
    「いえ、あなたがここに居るのであれば私は手を引きましょう。次の予定もありますので」
    「いいのか?」
    「ええ。ここに居るのも偶然通りかかったからですし。ここは商業地区。あなた方の領域でしょう」
    「別に俺は構わないが……まぁいい。気をつけて帰れ」
    「言われなくとも」
     そう言いながら踵を返して歩みを進める戴天を見送り、改めて辺りを見回す。この街の中、どこかに居るであろう人間を1人で見つけ出すのは難しそうだと判断して、応援を呼ぶためにライダーフォンを取り出す。早速ウィズダムシンクスのメンバーにメッセージを送ろうとして異変に気がつく。
    「圏外……」
     思わず呟き、ため息を漏らす。このまま1人で探すかどうか迷い、いつまでかかるかも分からないため1度外へ出ようと元来た道を歩き出す。

     歩き続けて5分程で違和感は確信へと変わる。確実に元来た道を歩いているはずなのに、扉が無い。カオスワールドの主が外に出てしまったのか、あるいは──
    「宗雲さん」
    立ち止まって思考を巡らせていた宗雲は、はっとして声のした方へ振り返る。そこには先に戻ったはずの戴天が立っていた。
    「お前……ここを出たはずじゃ」
    「出ようとしたのですが、扉が無くなっていて。ライダーフォンも電波が通じず……」
    「俺も同じ状況だ」
    「やはり……そうですか」
     戴天があからさまに落胆した声を漏らす。カオスワールドに入ってから出る扉が無いという状況は初めてだ。戴天の様子からしても予想外だったようで、普段は見せない焦りが見て取れた。
    「こんな状況は初めてだ。何が起こるか分からない。不本意だろうが一緒に行動したほうが得策だ」
    「本当に不本意ですが致し方ありません。そうしましょう」
    「まずは扉を探すか」
    「はい」
     扉さえ見つかれば一旦この状況を打開できると踏んで、2人で歩き出す。街の様子を見ても不審なところは何も無く、どこにでもありそうな風景が並んでいるだけだった。
    「おや?」
     戴天が歩みを止めて一点を見つめる。その視線の先には猫がいた。こちらをじっとみつめるその猫は、どことなく雰囲気が雨竜に似ていた。きっと戴天もそう思ったのだろう。
     猫がふいとこちらを見つめていた視線を外し、歩き出す。少し先まで歩いてまたこちらを振り返る。まるでついてこい、と言われているようだ。
    「……ついていくか」
    「そうですね。何か進展があるかも知れません」
     歩き始めた2人を見てから、やはりゆっくりと猫が歩き出す。

    「ここは……」
     猫が導いたその先にはマンションの一室。扉をカリカリと引っ掻く様子に、開けて欲しいのかと思うがさすがに勝手に扉を開けるのは良くないと躊躇っていると、戴天がドアノブを引き、扉を開ける。
    「おい、さすがに」
    「何を言っているのです。ここはカオスワールドですよ?」
     言われて気づく。あまりにも街の様子が自然で忘れかけていたが、ここはカオスワールドだ。
    「そうだったな」
     少し開いたドアの隙間から猫がするりと中へ入る。続くようにして2人で足を踏み入れた。

     部屋の中は何の変哲もなく、生活に必要そうな家電もあり、ダイニングテーブルや椅子も特におかしなものは無かった。
    「これ……」
     戴天がダイニングテーブルに置かれているカップを眺めて呟く。
    「どうした」
    「私が自宅に置いているものにそっくりで……」
     そう言われて改めて部屋を見回すと、ソファーに置かれているクッションが目に入る。そのクッションは宗雲が自宅で使っているものにそっくりで、息を呑む。
    「このクッションは俺が使っているものに似ている」
    「そう、ですか……」
     そう言って2人は黙り込む。なんとなく導ける答えが、できればそうあって欲しくないと思っているからだ。しかしそんな2人の思いも虚しく、リビングのテーブルに置かれている鍵を見て、覚悟を決めるしかなかった。2つ並んでいる鍵に付いていたキーホルダー。それが見覚えがあるもので。
    「ここで暮らせ、ということか」
     意を決して思っていたことを口にする。
    「言語道断。私は他の場所を探してきます。……それからでも遅くありません」
     戴天が嫌がるように首を振り、外へ出て行こうとする。イレギュラーなことが連続して起こっている以上、離れるのは得策ではない。それはきっと戴天もわかっているのだろう。若干の躊躇いを滲ませた声で言う。
    「お前が外に行くのなら俺も行く。今はお互いに1人になるのは良くない」
     渋々、といった風に無言で戴天が外へ向かう。着いてくるなとは言われないので、その背を追って部屋を後にしようとした時、2人をここまで導いた猫がドアの隙間から走り去った。

     改めてカオスワールドの中を散策してみるも、特に変わったところは見当たらなかった。行き交う人も建物もまるで現実世界のようでカオスワールドを開いた人間が何を考えているのか憶測することすら出来そうになかった。
    あからさまに落胆している戴天が、辺りが暗くなっても手がかりを探そうとするのでやんわりと説得し、帰路につく。

    「そういえばこの家の中を確かめてなかったな」
     玄関で靴を脱ぎながらふと思う。イレギュラーの連続で頭が回っていなかったのか、この家のリビングしか見ていない。
    「……そうですね」
     先に靴を脱いで廊下に立っていた戴天が、まずは正面にある扉に手をかけた。
    「ここは洗面所……と浴室のようです」
     戴天が扉を閉じ、リビングへと向かう。リビングに面して部屋が2つあり、どちらも似たような広さでレイアウトも似ていたが、やはり置いてある家具などはそれぞれの趣向に合ったようなものが設置されていた。
    「ここがお互いの部屋のようですね。……ちょうど良い、私はもう疲れたので休みます」
     逃げるように部屋へと入ろうとする戴天の腕を掴む。
    「待て。今後の話をしよう。明日からどうするか……それと何か腹に入れないか」
    「話は明日にしませんか。私はお腹は空いていません」
    「いいから。付き合え」
     露骨に逃げようとする戴天の退路を断つ。放っておいたら何をしでかすか分からない。勝手に1人で外に出るか、部屋に籠城するか。きっと宗雲ではない他の誰かであればもっと協力的だったのかも知れない。しかしどんなに逃げたところでこの場には宗雲と戴天の2人しか居ない。
    「幸いこの家には一通りの生活用品が揃っている。パスタでも作るからソファーに座っていろ」
    「……」
     諦めたのか大人しくソファーに座ったのを見届けてキッチンに入る。パスタでもと言ったのは、初めて入った時に棚に置いてあるのが目に入っていたからだ。コンロの下や上の棚を開けてみると、予想通り一通りの調理器具は揃っており、調味料もある。鍋を取り出して水を入れ、コンロに火をつける。沸騰を待つ間にチラリと戴天の様子を伺うと、手にはスマホを持ち、何度も何度も何かを打ち込んでいるようだった。恐らく雨竜へのメッセージ。そして送信をするたびに表示されているのであろうエラーメッセージを見て、徐々に表情が固くなっている。
    「メッセージは送れたのか」
     思わず声をかけると、ビクリと肩を震わせて戴天がこちらを見た。
    「いえ……」
    「大事な用事があったのか?」
    「……社の予定を外部の人間に漏らすわけにはいきませんので」
    「……そうか」
     言っている内容はまともだが要するに“部外者は黙っていろ”だ。大方何か大事な会議か先方との打ち合わせがあったのだろう。しかし出られないものは仕方がない。宗雲自身もウィズダムのことが気がかりではあったが、あとの3人が居れば何とかなるだろうと思っている。
     出来上がったパスタをダイニングテーブルに並べ、戴天にも座るように促す。座るまで許さないという圧を感じ取ったのか大人しく席に着いた。いただきます、と2人して声に出して食べ始める。
    「明日からのことだが」
     食べ終えてしまうとそそくさと自室に戻られるかも知れないと思い、本題を切り出す。
    「とりあえず街の散策は続けるべきだと思う」
    「ええ。同感です」
    「扉さえあれば一時的に出ることもできる。ただ同時にこの世界を作り出した人間も探すべきだ」
    「そうですね。いつ誰がまたこの扉をくぐってしまうかも分かりません」
    「この世界ではお互いのライダーフォンで連絡が取れないこともある。一緒に行動してもらうぞ」
     一緒に、という言葉にピクリと反応した戴天がフォークをそっと食器へと戻す。
    「いえ、それでは効率が悪いです。時間を決めてバラバラに動きましょう」
    「だめだ。何かあった時に状況が分からないうえに助けに行けない」
    「助ける?あなたも私も、自分の身くらい自分で守れるでしょう」
    「普通のカオスワールドならな。ここはイレギュラーだ。それこそ俺もお前も経験したことのないような、だ」
    「……」
     置いたフォークを見つめたまま、戴天が黙り込む。正直言って、戴天の言うようにバラバラに動いた方が確かに効率は良い。ただイレギュラーな状況ゆえに慎重にならざるを得ない。一度離れてしまえば、連絡を取り合うことはできないし、この家だっていつ形を変えてしまうのかすら分からない。
    「俺と一緒なのが嫌なのは分かるが、我慢してくれないか?」
    「……まるで私が我儘を言っているような口ぶりですね」
    「そうは言っていない」
     疑心に満ちている戴天の目線を受け止めて、それでも真っ直ぐに見つめ返す。本当に戴天が我儘を言っているとは思っていない。ただ、相手が俺という点において距離を置きたいという気持ちは分かる。離れられる状況であれば離れて調査するに越したことはないのだ。
    「分かりました」
    「助かる。あとは寝る時」
    「は?」
    「人間が最も無防備になる時間、すなわち就寝時もできれば離れたくない」
    「正気ですか?」
    「当たり前だろう。特にお前は寝起きが良くない。何かあったときに」
    「待ってください。確かに寝起きは……得意ではありません。ですが緊急事態にも動けないほどではありません」
    「……そうか」
     押し通すべきか迷ったが、寝る時まで一緒というのは流石に言い過ぎかと引き下がる。明らかにほっとした様子を見せた戴天が残りのパスタを平らげるのを見届けて、食器を下げる。
     洗い物を済ませてソファーに戻ると、てっきり部屋へと引きこもっていたと思っていた戴天が珈琲のカップを手渡してきた。
    「……どうぞ」
    「ありがとう」
     2人とも進んで会話をするタイプでは無いので、話すべきことさえ話し合えれば後は沈黙が残る。何気なく戴天が付けたのであろうテレビからはバラエティ番組の騒々しい音声が流れている。手渡された珈琲に口を付けながら、これからどうなるのかとぼんやり考える。
     時計を確認すると22時を回ったところで、そろそろ明日に備えるために寝る準備でも始めようかとソファーから腰をあげる。こちらが動き始めたことをちらりと確認した戴天が、何をする気かと探っている気配がする。
    「そろそろ風呂に入って寝よう」
     これから何をするのかを明確に示してやれば、「はい」とだけ返事が返ってきた。
     それから風呂へ順番に入り、お互いの部屋へ戻るために扉に手を掛けたところで明日の予定を再確認する。今夜なにも起きなければ、いよいよほぼ1日を共に過ごすことになる。そのことに不安もあるが、少し楽しみにしている自分がいることに驚く。
     ベッドへ潜り込み、電気を消す。真っ暗になった部屋で瞳を閉じてみても、隣の部屋から何の音も響いて来なかった。戴天も疲れているのか、すぐに眠ってしまったようだ。

     ドサッ!という音に宗雲が跳ね起きる。辺りを見回してみるが、特に変わったことはなく、地震も起きていないようだった。窓辺に近づき、慎重にカーテンを開いて絶句する。外は一面の雪景色で、まだ少し雪が降り続けていた。どうやら先程の音は屋根から雪が落ちた音のようだ。
    「昨日まで暖かかったはず……」
     暑さが形を潜めたとはいえ、大雪になるような季節では無かったはずだ。それが一夜にして真冬になっている。明らかな異常事態だ。
    「高塔は……」
     戴天の様子を確認するために隣の部屋の扉をノックするが、返事は無かった。異常事態だからと心の中で弁明をしながら扉をそっと開く。
    「寝ている……」
     ベッドの中で戴天はすやすやと寝息を立てていた。あれだけの轟音が鳴ったというのに起きない戴天に呆れながらベッドへ近づく。
    「おい、起きろ」
    「ぅ……ん?朝……?雨竜くん…内線……?」
     寝ぼけているのか単語だけをぶつぶつ呟き、再び目を閉じる。
    「こら、寝るな」
     すやすやと睡眠の波に攫われそうな戴天を現実へ引き戻す。肩をゆすり、布団を捲り上げる。
    「さむ、いです」
     無意識に布団を取り返そうと伸ばされた手を掴み、背中にも腕を回して固定して引き上げる。ゆらゆらと揺れる体を支えてもう一度起きろと声をかけるとはっとしたように目を開けてこちらを見た。
    「起きたな」
    「はい……起きました……」
     会話ができるほど覚醒したのを確認して、リビングへ来るように促す。ソファーに戴天を座らせて、部屋にあったガウンをかけてやる。
    「ありがとうございます……どうしてこんなに寒いんでしょうか……」
    「外は雪が降っている」
    「えっ?昨日は暖かかったはずでは」
    「俺も何が起きたかまでは分かっていない。どこかの家の屋根から雪が落ちる音で目が覚めた。凄い音だったぞ。気づかなかったのか?」
    「……全く」
     戴天には本当に聞こえていなかったのだろうと反応を見て察する。これ以上言うと機嫌を損ねそうな気がして何も言わなかった。

     その日の調査は難航した。そもそも雪が降っており、視界も悪く辺りには人がいなかった。部屋のクローゼットにあったマフラーやコートを着て歩き回るが、収穫は無さそうだった。
     調査の帰り道に近くのスーパーへ寄る。ご丁寧にこの世界で使えるお金は財布に出現するようで、暮らしていくうえで困ることは無かった。普段自ら日用品の買い物に出ることなどないであろう戴天は、おとなしく後を着いてきた。

     その夜、戴天が寝ると言って自室へ戻ろうとしたところへ声をかける。
    「待て」
    「なんでしょうか」
    「あれだけの音で起きなかったんだ。これから何が起こるかも分からない状況でお前を1人にはしておけない」
    「たまたま、ですよ……」
     バツが悪そうに視線を逸らしながら戴天が答える。
    「起こしてから10分。お前は目覚めなかった。もし敵に襲われていたらお前の命は無かったぞ」
    「……ッ、分かりました」
     戴天が逸らした視線をチラリとこちらに向け、観念したように瞳を閉じた。異常事態に気づかず、そのまま眠りこけていた自覚があるのだろう。どうぞとでも言いたげに、戴天が自室の扉を開けたまま部屋へ入る。その後に続いて宗雲は足を踏み入れた。
     布団を持ってきて床で寝ることもできたが、何も言わずに戴天に続き、同じベッドへ潜り込んだ。
    「おやすみ」
    「……おやすみなさい」
     小さな声だが返事を返してくれたことに自然と口角が上がる。2人分の体温で暖まった布団がすぐに睡魔を連れてきて、宗雲は抗うことなく目を閉じた。

     それから数日間、特に進展もなく日々を過ごしていたある日。
    「あら、こんにちは。最近引っ越してきた方?」
     調査に出掛けようと2人で玄関から出たところで、廊下を歩いてきた婦人に話しかけられる。
    「ご挨拶もできず申し訳ございません」
    「いえいえ、いいのよ〜!もしかして、新婚さん?」
    「えっ……いや、」
     思わず否定しようとする戴天の言葉を遮る。
    「はい、つい先日」
    「まぁ〜いいわねぇ!末永くお幸せに」
    「ありがとうございます。それでは、俺たちはこれで」
     婦人に別れを告げ、マンションのエントランスを抜ける。少し歩いたところで戴天が口を開いた。
    「どうしてあんな嘘を?」
    「ここの世界の人間の言うことにはできるだけ合わせておいた方が都合が良い。否定したところで俺たちの関係を探られるとボロが出る」
    「……さすがはウィズダムの支配人、嘘がお上手で」
    「怒らせたいのか」
    「褒めただけです」
     てっきり怒っていると思っていたが、その表情を見るに特に怒ってはいないようだった。この世界に順応している方が都合が良いと判断しただけかも知れないが、それだけではないと心のどこかで期待をしている自分がいた。

     買い物を済ませて帰宅する。人間というのは慣れる生き物だとかつて暮らしていた屋敷を追われてから実感したことを再確認する。戴天とこの家で暮らすことにも慣れてしまった。
    夕飯を済ませてソファーに2人並んで座りながら食後の珈琲を飲むことももはや習慣化してしまっている。
     その日テレビから流れていた映画はどうやらホラー映画だったようで、気づいた瞬間にチャンネルを変えようかと思ったがまるで怖いと言っているような気がしてできなかった。
     古びたマンションのエレベーターに乗っている女性の背後に突然小さな男の子が現れる。情けない声が出そうなのを必死に抑えながら、テレビから目線が外せない。
    「先にお風呂、いただきますね」
     突然話しかけられてビクッと肩を揺らすも、動揺を悟られたくなくてなんとか生返事を返す。
     戴天が居なくなったと同時にチャンネルを変更するも、先程までの映像が頭から離れない。マンションのエレベーターから出た女性が自宅の扉を開いて、電気を付けた瞬間──バタンッッ!!と突然響いたドアを閉める音に明確に肩が跳ねる。どうやら戴天が浴室のドアを閉めたらしい。バクバクと鳴る心臓を落ち着かせようと何度も深呼吸を繰り返す。
     落ち着きを取り戻し、特に興味の無いバラエティー番組を眺めていたところで気づく。
    (このままだと風呂も1人……)
     宗雲の行動は早かった。自室から着替えを取り出して浴室に向かう。罵詈雑言を浴びせられることは分かっているが、それでもそれだけでこの恐怖から逃れられるのであれば。
     服を脱ぎ去り、シャワーの音が鳴り響く浴室の扉を勢いよく開いた。
    「えっ……?あ、あなた何を」
    「今日は早く寝たい」
    「は?」
    「お前が上がるのを待てなかった。我慢しろ」
    「え?それなら早く言ってください……私は後から入り直し」
    「いい!そのままでいろ」
    「はぁ?あなたどうしたんですか……」
    「いいから」
    「はぁ……」
     怪訝な顔を浮かべる戴天を無視して、シャワーを奪い取る。文句を言おうとする戴天を黙らせるように泡の乗った髪の毛に水を流す。慌てて目を閉じたのをいいことにそのまま流してやる。文句を言うことすら諦めたのか大人しく泡を流された戴天が体を洗い始めたのを見て、宗雲は自らの髪を洗い始める。浴槽の横に置いていたバレッタで髪をまとめた戴天がゆっくりと浴槽に浸かったのを横目に見て、自らの体を洗う。戴天が浴槽から上がってしまう前に、素早く体を洗い終え、宗雲も浴槽へと押し入った。
    「まさか浴槽まで……狭いのですが」
     大きめの浴槽とはいえ、高身長の男が2人入るにはかなりの狭さは感じたが、戴天のもっともな文句も無視して湯に浸かる。
    「もう……どうしたんですか?突然」
    「……」
     良い言い訳が思いつかない。しかし1人で風呂に入るのが怖いとは口が裂けても言えなかった。宗雲が固く口を閉ざしたのを感じ取ったのか、戴天は目を閉じてふぅ……と息を吐く。戴天の日頃晒されることのない首筋が艶かしい、と思ってしまい慌てて目を閉じた。

     一緒に眠るようにしていて本当に良かった。ベッドに入ってから宗雲は心底過去の自分に感謝をしていた。いつもならばお互いに背を向けて寝ているが、今日は戴天の方を向いて寝ることにする。背中を流れる金髪を眺めていると無意識に自らの手がその金髪に触れていた。
    「……なんですか」
     戴天は起きていたようで、こちらを振り向かずに問うてくる。
    「いや、すまない……」
     特に気の利く理由など思いつかず、謝ることしかできずに手を離す。そのまま背中を眺めていると小刻みに震えているのが分かった。
    「ふふ……ふふっ……」
     戴天が声を抑えきれずに笑っている。
    「……お前こそどうしたんだ」
     くるりと体を反転させ、戴天が宗雲に向き合う。
    「あの映画が怖かったんですか?」
     その言葉に目を見開く。しまった、と思ったが遅かった。宗雲の反応を見て、さらにふふっと笑った戴天が布団の中から手を出す。
    「怖いのなら、手を握っていてあげましょう」
     そう言って宗雲の髪をひと撫でして、手を握ってきた。戴天のほっそりとした手が宗雲の骨ばった手の甲を撫でたあと、手のひらを合わせてそのままぎゅっと握り込む。
    「……怖くない」
     突然のことにうまく反応できず、今更バレバレな嘘を吐く。
    「おやすみなさい」
     そんな宗雲の嘘を肯定も否定もせず、戴天が目を閉じる。その整った顔をじっと見つめていると不思議と怖さなど無くなり、それよりも暖かい何かが胸を満たした。

     汗で湿る肌の不快感に目を覚ます。カーテンから差し込む日の光が眩しくて目を細めた。
    繋いだままの手にもじんわりと汗をかいている。昨日までの寒さが嘘のように気温が高いようだ。無意識のうちに蹴っていたのか、きちんとかぶっていたはずの布団は足元にぐしゃぐしゃに丸まっていた。布団を見ると同時に戴天の白い足が目に入る。目に毒だった。

     もはや日課と言っても良いほどに慣れた調査へ出かける。2人で連れ立って歩き、時折り街の人へ声を掛け、情報を探る。毎日色んな道を通って違和感を探しながらも、通りに並んでいる店について他愛もない話をする。
     一昨日も昨日も、そして今日も。同じような日々を繰り返すと思っていた2人は突如響き渡る人の叫び声に瞬時に辺りを警戒する。
    「や、やめろ!!やめてくれ!!」
     2人で声のする方へ駆け寄ると、1人の男が頭を抱えて叫んでいた。
    「やめろ!俺のことを呼ぶな!」
     明らかにこれまで出会った人たちとは違う雰囲気の男に、これがこのカオスワールドを生み出した人間だと本能が告げる。
    「こいつが……」
    「そうみたいですね」
     男の顔をよく見ると、怪人化が進んでいるのか額から頬にかけて模様が浮かび上がっている。
     このままではじきに怪人化が完了してしまう。2人同時にカオスリングを嵌め、変身する。
    「な、なんだお前たちは!」
     男がこちらに気づいた途端に周りの人間がガオナクスへ姿を変える。街中の人間が襲いかかって来ようとしているようで数が多い。戴天が浮遊して光線を浴びせ、光線を逃れた敵を斬る。随分と前から離れているはずなのに、未だに戦闘となれば戴天の動きが手にとるように分かってしまった。それはきっと戴天も同じで、要は戦闘において相性がすこぶる良かったのだ。
     前方へ光線を飛ばしている戴天の背後からガオナクスが襲いかかっているのを目の端に捉えた。
    「戴天!後ろだ!」
     声に即座に反応した戴天が振り向きざまに長い足でガオナクスの横腹を蹴り飛ばす。反動で後ろへ飛び退く戴天の横をすり抜け、バランスを崩したガオナクスの頭へ剣を突き刺す。
     息をつく暇もなく襲いかかってくるガオナクスを目にもとまらぬ速さで戴天の光線が貫く。背中を預け合って、残りの敵を殲滅することに集中する。お互いに攻撃が届く範囲、1番効率の良い動きは知っている。今戦闘をしているこの時だけは、お互いが1番近くにいた頃を思い出させた。懐かしい記憶。闘える人間がまだ2人しか居なかった、あの頃。

     敵が姿を消したのを確認して、腰を抜かして転がっている男の元に近づく。
    「あなたが、この世界を作り上げた人物ですか?」
     相手を刺激しないように、ゆっくりと戴天が問いかける。
    「わからない……綺麗な石を眺めていたら突然目の前に扉が……」
    「綺麗な石はどこで見つけた?」
    「公園のベンチに座っていたら、茂みの中に光る石を見つけた。それで……」
    「なるほど。あなたは何を願ったのですか?」
    「願い……?」
    「その石を持って、お前は何を考えていたのかと聞いている」
     その問いに、男はしばらく何事かを考えて、その眉間に皺が寄り、苦しいような悲しいようなそんな表情を見せた。
    「誰も……俺のことを知らない世界で生きたかった……煩わしい人間関係をリセットしてしまいたかった……」
    「人間関係を?」
    「そうだ!どいつもこいつも俺のことを馬鹿にして!誰も知り合いのいない街で過ごしたかった。それなのに、せっかく誰も知らないこの街で過ごしても人との関わりが避けられない……!」
    「それは当たり前だ。生きていくうえで、人と関わりを断つことは難しい」
    「だから俺は…もう一度更地に戻すんだ…」
    「また同じことを繰り返すつもりですか?何度繰り返しても同じこと。人との関わりは複雑です。どれだけ信頼していても、人は簡単に裏切ります。でもそれはあなたの力で乗り越えるべきだ」
    「……」
     男を見ながら話す戴天を思わず見遣る。過去の出来事が頭を過ぎった。高塔の一族から追放された宗雲と、タワーエンブレムに一人残された戴天。真実やお互いの思いが何であったとしても、二人の心には消えない傷が残っている。ただ、それを二人は乗り越えた、いや乗り越えざるを得なかった。人に裏切られても想いを寄せた人と離れることになっても、人は前に進むしかない。
     力なく項垂れる男の肩に戴天がそっと手を乗せると、男は顔を上げた。
    「もう一度、向き直ってみようと思います」
     男がそう話すと、カオスワールドの扉が出現した。3人で外へ出る前に一度後ろを振り返る。戴天と過ごした奇妙な1週間は、それでいて楽しかった。このカオスワードに入らなければ恐らく二度と経験することのなかった生活だ。

     外へ出てみると、そこにはエージェントが立っていた。エージェントへ事情を話して男を引き渡すと、ライダーフォンでウィズダムシンクスのメンバーにメッセージを送ろうとして、はたと気づく。
     日付がカオスワールドへ入ったその日から変わっていなかった。加えて、時間も入った時から1時間ほどしか経っていなかった。
    「雨竜くん…!すみません、カオストーンの調査に時間がかかってしまい……」
     背後では戴天が雨竜に電話をしているようだった。仕事内容の確認とスケジュールの調整が終わったのだろう、戴天が電話を切る。特に焦った様子も見せないことから、スケジュールの調整はうまくいったようだ。
    「良かったな。仕事は大丈夫そうか?」
    「……あなたに心配されずとも雨竜くんが何とかしてくれます」
    「それは心強いな。お前と1週間共に暮らして、最初はどうなることかと思ったが、案外楽しかった」
     そう言いながらそっと手を差し出す。
    「奇遇ですね。……私もですよ」
     少し悩む素振りを見せた戴天が差し出した手をぎゅっと掴んで握りしめる。寝る時に繋いだように、いわゆる恋人繋ぎだ。驚いて目を見開く宗雲に戴天が微笑みを浮かべる。
    「新婚ごっこもこれまでですね。それでは」
     挨拶もそこそこに戴天が去っていく。わずか5秒にも満たない戴天の体温を逃さないように握りしめる。いつかまた、こんな風に手を繋げる日が来たら、きっと幸せなんだろうなと漠然と思いながら背を向けて歩き出した。
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