相手の体のどこか一部を舐めないと出られない部屋「相手の体のどこか一部を舐めないと出られない部屋です
ただしお互いが同じ部分を舐めてはいけません」
厨に入れてほしいというツールの話を聞きつつ燭台切と廊下を歩いていたら、突然世界が白く染まり、目の前にぼやりと文字が浮かんだ。
なんだこれは。
他の本丸でこういう空間が出現した事例がいくつか報告にあがっていたが、いざ自分が目の当たりにすると戸惑いしかない。
なんだこれは。
そしてそういった事例を流すばかりで改善策が一度も掲示されたことがない。
そこが問題だと思うのだけれど、いざ目の当たりにすると確かに誰の手によるものなのか、なぜ出現したのかまったくわからない。
とはいえ。
「舐めればいいのだろう?」
「簡単に言うね」
「他の本丸ではもっと面倒なものがいくつもあったぞ」
「例えば」
「まぐ、あ、えっと、まあいろいろだ」
「ふうん」
「とにかくこんなところで足止めされている場合じゃないだろう」
「そうだね。そろそろ夕餉の支度も始まるしね」
うまくごまかせたか。
セックスしないと出れない部屋を筆頭にまあまあ酷い事例はたくさんあった。
場所指定なく舐めるとか簡単じゃないか。
早く出て主に報告しなければ
「すぐ出るぞ!舐めるのはどこでもいんだろう!」
「そうだね。じゃあどこでもどうぞ」
にっこりと笑う美丈夫。
この男を舐めるのか。
顔、頬、首、指……上からゆっくり目を動かしていく。
どこもかも完璧に美しくて、これに舌を這わせるのかと思うと恥ずかしくなってしまって「うう」と俯いてしまった。
これはまずい。
「お前が先でいい」
「そうかい?どうしようかな」
自分がしたように視線がむけられる。
ゆっくりと頭の先からつま先まで。
まったく触れられていないのに、光忠の視線がむけられるところがどこもかも熱くなっていく。
頬、耳、掌、腰……
「は、はやく、しろ」
身体の内側まで目で嬲られているような心地で、このまま見つめられていたら死んでしまう。
「せっかくの機会だからね」
にっこりと笑うと光忠はいつのまか部屋にあらわれた椅子に長谷部を座らせ、瞬く間に靴を、そしてパチンパチンとソックスガーターの留め金をはずし靴下を剥ぎとった。長谷部の素足を恭しく両手で持ち上げると、甲にキスをひとつ。
そしてゆっくりと指を口に含み、ねとりと舌が指の間に這わされる。
「……っふ、ぁん」
ここまでしないといけないのか?
「もういいだろう」
声をかける長谷部を上目遣いで見つめる瞳は、いつもより赤みを増して見えた。戦場で時折見せる色だ。ぞくぞくと腹の奥から震えが沸き上がる。
ああ。これだ。
……決めた。
初めて見たときからずっと手に入れたかったもの。
蜂蜜のような色、それでいて炎のような赤みが時折混じる。
長谷部は両手を伸ばすと光忠の白い頬を包み込んだ。