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    mona5770

    Twitterに投げたネタをちょっとまとめたメモ置き場
    燭へしと治角名が混じっています。ご注意ください。

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    mona5770

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    (燭へしワンドロワンライ)2021.9.11テーマは「うさぎ」
    ワンライでつづけているリーマン光忠×長谷部シリーズです。
    兎の慣用句でどこまで書けるかチャレンジでした。
    タイトルのモトは獅子は兎を撃つに全力を用うです。

    狼は兎を逃がさぬにすべてを用う「で、どうなったの」
    会社の近所にある人気店のパンを齧りながらにっこりと笑う加州清光の笑顔に長谷部はわずかに後ずさった。
    とはいえ狭いミーティングルームに逃げ場はない。
    「どうって何がだ?」
    しれっとした顔で答えを返してはみたけれど、そんなものが通用する相手ではないことは長谷部だって百も承知だ。
    同期で入社して同じ営業部で切磋琢磨し、時には助け合い、愚痴も零せば弱音も吐いた。
    ただでさえ長谷部のことは誰よりも知っているうえに、この加州という男は人のことに聡く、隠していた体調不良も上司からの嫌みの数々も、そして婚約破棄まで全部お見通しだった。
    今だってわかってるでしょ?何とは言わさないよ?という顔でこちらを見ているのだから、口を割らされるのも時間の問題だろう。
    お気に入りのバターを挟んだ小さいバゲットサンドをもごもごと咀嚼すると。加州はため息をひとつついた。
    「まるで兎の上り坂だって言われてる」
    「なんだそれ。ことわざか?」
    うさぎののぼりざか?なんだそれ?
    「得意分野で実力を発揮することのたとえだってさ。条件がよくなってうまく物事が進むときとかに使うらしいけど」
    「はあ」
    「営業部でもそれなりに活躍していたけれど、今の部署に移ってその実力がうまく発揮できるようになったってもっぱらのウワサ」
    「望んで異動したんだ。成果を出さなければ意味がないだろう」
    「今までのお前の成果の出し方と違うからでしょ」
    「それに」
    ここからが本題だと言わんばかりに、ガーネット見たいな色の瞳でまっすぐに射貫いてきた。
    「もちろん今の部署が長谷部に向いているのは確かだよ。異動する前から準備していたことも知ってる。でもその努力が外向きに変わったのは夏の終わりからだよね」
    「……」
    「それまでは自分がやるべきことだけを、最低限こなしてるって感じだった長谷部が変わったのはあの日から、ふたりして急に休んだ日から」
    鶏ひき肉のつくねに伸ばしていた箸をおくと長谷部は両手をあげた。
    降参だ。
    「で、どうなったの」
    「こんな男に捕まる必要はないと言ったんだが」
    きらりとこちらに向けられている瞳の赤が強まった気がした。こ
    「離れるつもりはないと言われた」
    「つきあうってこと?」
    「まあ、そういうことだな」
    「おめでと」
    「めでたいのか」
    「会社からも、下手したら人生からもさよならしそうだった気配が消えただけでもめでたいよ」
    「心配かけたな」
    「今度おごって」
    了解というと長谷部は弁当の続きに手を伸ばした。

    兎の上り坂か。
    そんな言葉があるんだなって思うとふと口から「狡兎死して走狗烹らる」とこぼれていた。
    「なにそれ?」
    「必要なときは重宝がられるが、用がなくなればあっさり捨てられる」
    「あー」
    加州も感じていたのだろう、今の部署、管理本部に異動したあと、春先までの長谷部はそんな感じだった。
    上司の口利きで取引先の娘だという女性と見合いをし、ほぼ婚約が内定したことでかねてより希望を出していた部署への移動が叶った。
    経営を学ぶいい機会だとかなんとか言われて。
    その前から改善資料だとか、提案だとか出していたのなんて見向きもしなかったくせに、取引先の経営陣に入るらしいと言う気配だけでその異動はかない、そして部署でもやたら大事にされた。
    直属の上司は長谷部の仕事ぶりを理解してくれていたけれど、部長などはまさに「この先」しか見ていなかった。
    だから正式に婚約がなくなったと耳にしたとたん掌を返すように長谷部を取り立てるのをやめた。
    長谷部自身も次の異動ではどこに追いやられるんだろうなあと思いながら仕事をしていたのも確かだ。
    つみあげてきた仕事も、会社での居場所もなくなるようで、そして家族たちも婚約がなくなったことにわずかではあるが落胆した声を漏らした。
    さらさらと砂が零れるように、長谷部の手からなにもかもがなくなってしまうような気がしていた。
    けれどあの男が、長船光忠の「何もかもなくなっても、僕が隣にいるから」という言葉が、長谷部のなかにわずかに残っていたチカラに息を吹き込んだのだ。
    だからあの日から変わったという加州はほんとうによく見ていたのだ。

    「どうしてわかったんだ」
    食べ終えた弁当箱を閉じて手をあわせたあとそう尋ねる長谷部に加州はにやりとした笑みを返した。
    聞かなければよかったもしれない。
    「二日連続で同じスーツを着てくることが増えた」
    「スーツもシャツやネクタイも質はいいけどオーソドックスなものが多かったのに、最近は一癖あるようなシャツを着てくることが増えた。それもだいたい同じスーツを着てきた日」
    シャツとネクタイで印象が変わるから同じスーツを着てることはわかってない人間が多いと思うけどと続けたものの、加州の言葉に長谷部ははくはくと口を開閉することしかできない。
    「あとそれ」
    「え?」
    「お・べ・ん・と・う」
    「あっ」
    「昼抜きのことも多かったのに最近時々持ってきてるでしょ。明らかに料理慣れしたお弁当。お前が作ったものじゃないのは一目瞭然」
    「愛されてんじゃん」
    「こんなにぐいぐい来るとは思わなかった」
    「ははっ惚気?確かにねえ。入社してしばらくは長谷部さんのこと尊敬しすぎてうまくしゃべれないみたいな感じだったのにね」
    「一歩引いて困った顔をしてこっちを見てるだけだったくせに」
    「始めは処女の如く後は脱兎の如し」
    「今日は兎づくしだな」
    「始めは弱々しく見せかけて油断させておいて、いけると思ったら一気に畳み込んできたったとこなんだ」
    「まったくその通りだ」
    あの雨の日、熱に浮かされるように身体をつないだ後もまだどこか遠巻きにしているようなところがあった。
    こちらの出方を窺っているように見せた光忠が一気に距離を詰めたのは、やはりあの海で「もう離れない」と口にしたあとからだろう。
    週末ともなれば「うちでご飯食べて」と引っ張りこまれ、まず胃袋を掴まれた。
    疲れてるでしょうと風呂で身体を現れ、ベッドに投げ込まれそしてがぶりと食べられる。
    まさに爪も牙も隠した狼みたいなものだった。
    兎はあっさりと頭からぺろりと食べられて、もう光忠と出会う前の自分がどんな風だったかすらもわからないくらいだった。
    「長谷部にはそれくらいがちょうどいいんだよ。想像以上だったけど」
    そう言って笑う加州には、まだまだ不安でたまらないのだとは言えなかった。
    だってそうだろう。
    あの男がいつまでこんな俺みたいな人間にひっかかってると思う?
    可哀そうだから手を伸ばしてくれているだけだ。
    そう頭のどこかで思いながらも、光忠と話していると仕事ももっとこうしたらどうだろうと思えるようになってきたのは確かだ。
    部署内だけにとどまらず最近は部署横断型のプロジェクトを提案し、それがうまく結果を出せそうなところまできていた。
    もう大丈夫だぞとこれがうまくいけば光忠に言ってやろうと思っていた。
    「ふーん。また余計なこと考えてそうだけど、でも大丈夫かな」
    小さい声でそうつぶやいたあと加州は「デザート買ってこよ」と立ち上がった。
    「ごちそうさま」と片手をあげて部屋を出る加州に「ありがとう」と長谷部は頭を下げた。

    週末ともなると光忠と過ごすのがあたりまえになっていた。
    これもなくなったら寂しくなるだろうか。
    一緒に食事をして軽く飲んで、たわいもない話をしたり映画をみたあと、どちらともなく手を伸ばして身体を重ねる。
    丁寧に丁寧に長谷部の身体をすみずみまでその舌と指で高めたあと、仕上げとばかりになかにはいってくる。
    こんなセックスをしていたら、もう誰ともつきあえないだろうなあと長谷部は時折思う。
    身体中に残る光忠の痕と匂いを消そうとばかりに、最近長谷部はベッドを抜け出すと煙草を吸うことが増えた。
    夜の黒に一筋ひびが入り、ゆっくりと朝の橙が世界の色を塗り替えていくさまを見ながら、ゆっくりと身体と心を切り替えていく。
    まるで儀式のようだった。

    カラと音がしていまだ夜の気配を纏った男が顔を出すのもいつものことだ。
    「長谷部くん」
    最近さんづけはちょっとと呼び方を変えた男の声がした。
    「知ってるか。うさぎが寂しいと死ぬって言うのは都市伝説だ」
    だから俺も寂しくても死にはしないさ。
    そう言ってふうと朝焼けの空へと白い煙を吐き出すと背中にぺたりと熱があたる。
    「そうなんだ」
    「だから」
    「でも、僕はさみしいと死んじゃうから傍にいてね。最後の日まで」

    耳元でそうささやく声に長谷部は口にしかけた言葉を飲み込んだ。
    「約束だよ」
    そういうと光忠の長い指が長谷部の薬指に巻きついた。

    「約束、だからね」
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