治角名のキューピッドになる侑と古森 翌日が休みだから練習終わりに角名の家で呑んでた古森。テレビも飽きたしゲームやろうって言い出して、じゃあなんか賭けるか!ってなって、じゃあ負けた方はこのつまみ食べちゃだめとか軽い賭けをしてて、負け続ける古森が「なんで!?」って訊いたら「友だちに教えてもらった」と笑う角名。「うーわっ、ずる!お前そりゃないわ!」って古森はふざけながら笑うけど、それに角名はちょっと間を置いて「…そうだよ、俺ってずるいやつなの」と自嘲気味に笑う。いつもと違う様子の角名にどうした?って訊くと、忘れてくれたら話すというので頷く古森。
─── 高校の時、すっごく好きなやつがいたんだよね。付き合えると思ってなかったから告白されて嬉しかったのに、卒業式の後にこっぴどく振ったの。そんなに好きじゃなかったみたい、って嘘までついて。そいつ、将来のためにこれから忙しくなる時でさ。俺はその邪魔にしかならないから、だから別れたの。俺は関西離れるし、ちょうどいいじゃんって思って。今でも忘れられないくらい好きだけど、でもあの時俺はそいつのこと傷つけちゃったから。だから、あれ以来連絡もとってないんだよね。どの面下げて連絡してきてんだってなるじゃん。顔も見たくないと思うでしょ、普通。
「…ね?ずるいやつでしょ」
本人は笑ってるつもりだろうけど、笑えてねえから。「お前ちょっと呑みすぎじゃない?」って言いながら酒を遠ざけて水道水持ってきてあげる古森。「相手関西なんだろ?土地勘ないわけじゃないんだから、顔見に行くくらいはいいんじゃね?」って言うけど、それにも自嘲気味に笑って首を振る角名。
「…だめ。あいつの顔、きっと見れないから」
「なんで?」
「振ったくせに何言ってんだって感じだけどさ。……あいつに嫌われるの、多分耐えらんないだろうから」
ははっ、面倒くせえな俺。そう溢す角名に、古森はなにも言わずに頭を撫でてやる。そういうことはさ、そんな泣きそうな顔して言うもんじゃねえよ。
そろそろ帰るわって角名の部屋を出た古森は、マンションを出たところで歩きながら電話をかける。数回のコール音の後に出た相手は、そう電話なんてすることもなかった相手。高校の時から知ってはいたし、ユース合宿とかでも一緒にはなったけどそこまで話したこともなければ親しくもなかった。プロになって、角名と同じチームになってから話すようになった相手。共通の話題なんて、そんなの角名のこと以外にないだろ。
「もしもし宮?あのことだけど。やっぱお前の予想当たってたわ」
『ほんまか!?あ~…わかった、あとはこっち突っつく。元也くんも、わざわざありがとうな』
「いえいえ。これでおにぎり宮のおにぎりが食べられると思ったら安いもんよ」
『フッフ、サムにも言うとくわ』
侑は治角名が付き合ってたのも知ってるし、別れたのも治から聞いてた。でもフラれたと言った治の顔は死んでたし覇気もなくて、納得してへんのやなって思ったけど時間が経てば回復するやろと思って数年。見た目的には回復したように見えるけど、でもまだ角名のことを吹っ切れてはないのを感じとってた侑。「この間角名のチームと試合したで」と言った時の態度で未練たらたらなのがバレバレ。
治は治でフラれたことは納得してなかったけど、角名の顔見たらなに考えてるのかわかっちゃったから縋ることはせずに渋々納得したって感じ。できてないけど。治のことを考えて別れを切り出したんだろうけど、「それでも俺は角名と一緒にいたい」と言おうした。でもそうしたら角名が消えてしまうと思って言えなかった治。現に、卒業してからは一度も連絡はない。侑はたまに連絡をとってるようで、高校の時と変わらない連絡先だっただけでもいいのだと必死に自分に言い聞かせてた。
侑はそんな治を見てたから、もうそろそろケリつけろやと行動を起こす。きっと角名は侑に言ったらそのまま治にも伝わると思って自分の気持ちを言いはしないだろうから、協力者に頼むことにした。侑とも治とも然程親しくないけれど角名の傍にいてもおかしくない協力者ってことで古森に白羽の矢が立つ。佐久早を介してコンタクトをとり、角名の気持ちを聞き出してほしいと頼む。結果は見事にまだ両想いのままで、別れてるのが馬鹿らしいほどだったので古森との電話の後に治に連絡。さっさとヨリ戻せと言うもなかなか動かない治に、侑はイラつきながら吐き捨てる。
「お前、俺との勝負忘れたわけちゃうやろな?くたばる時どっちが幸せやったか勝負する言うてたやろ。そんなん今の抜け殻みたいなお前に勝っても嬉しないんじゃボケ!」
その後、侑にたきつけられた治が角名のとこに行ってヨリを戻してハッピーエンド。EJPの試合会場にもおにぎり宮が出店するようになって、毎回ほくほくしながらおにぎりを食べる古森。楽しそうに会話している二人を見ながら、「お腹いっぱいだっつーの」と微笑ましく見守るんだ。