化け物の産物(シンキラ)シンにとってキラの部下として働けるようになったのは嬉しい事だった。キラの為に何か出来るのが嬉しくて、ついて回ってはパタパタとしっぽを振っている。
それは、周りにも目に見えて判ることで、大戦の英雄として称えられるキラに懐いているのだろうと思われていた。
一部の者以外には。
ある日、キラに差し入れを持って行こうと思って自動販売機に立ち寄ったシンの耳に入ってしまった。
「ほら、アイツだよ・・・化け物の下で働いてるの」
「何考えてんのかわかんねーよな。大戦の英雄だって言っても限度があるだろ?」
大戦で確かにキラ・ヤマトは活躍した。シンに敗れたと言っても伝説級の活躍はザフト内で噂になっている。
実際MS戦では誰も勝てない。絶対的な力を畏怖する声も恐怖する声も、こうやって蔑まれる声すらある。
それは、MS戦なら勝てないが生身の体術的に劣る上官に対して舐め切った言葉だった。
シンはカッとなってその相手を捕まえようとした。
知らないのだ。キラがどんな人間か。知れば化け物だなんていう言葉は出て来ないだろう。優しくて、甘くて、それでそれで・・・。
「あっ」
「・・・シン君、待ってたよー」
言葉は封じ込まれた。キラが両手で彼の口を塞いだのだ。その場は冷や水がかけられたようになった。
「買えた?」
「え・・・?は。はい」
「じゃ、行こうか」
キラが上機嫌で先を行くので、シンも急いで後を追った。それに誰かが舌打ちする。シンは振り返って唸り声を出したがキラに呼ばれて渋々ついて行った。
キラの執務室につくと、シンはココアの缶をもらって飲む相手に真剣に向き直る。
「キラさん・・・!!!」
「なーに?」
「・・・いえ、なんでも」
さすがに言えなくてシンが口ごもる。キラはのんびりとした調子で言う。
「シン君は気にしなくていいから・・・僕は大丈夫だから」
「・・・知って・・・!なら尚更あいつら叩きのめしてやった方が・・・」
「さすがにキリがないでしょ?それに、シン君が何か言われた方が僕は傷つくな」
シンはだんだん泣きたくなって来た。そう言われてしまえば自分はキラに何も出来ない。
「だって・・・キラさんは何も悪くないのに・・・」
「・・・僕がやってきた事だよ。全部。だから、どう呼ばれても僕のせいだ」
泣きじゃくるシンの鼻をかませてやると、キラは薄く笑って彼を抱きしめる。ぽんぽんと背中を叩いてやると、「ガキ扱いしないで下さい・・・」と返って来て笑みを深める。
「シン君はいい子だね・・・。大丈夫だよ。僕が全世界の人から石を投げられても、味方になってくれる人がいる・・・だから、僕は平気」
「キラさん・・・」
「シン君も味方になってくれる・・・?」
コクコクと頷くと「ありがとう」と言ってくれた。そんな事しか出来ない自分が悲しくてキラを抱きしめて泣いた。
この細い身体で、何を今まで受け止めて来たのだろう・・・?
もっと彼のためになれたらと思う気持ちは封殺されて、切なく散りそうだと思った。