傷落ちの雄花~②~翌日から浩介は、時間さえあれば青木の家に来るようになった。
「あんな惨状を見て、放っておけるわけが無いでしょう。それと、包帯探してた時に見付けたこれ、俺が預かっておきますからね。本当に油断も隙も無い」
それはほんの少し前に、闇市で買った劇薬入りの瓶だった。
「念入りな奴め…」
青木は鬱陶しそうな素振りを見せるが、内心は別の事で頭がいっぱいだった。
とりあえずこの燻る感情を浩介に真っ直ぐ伝えなければ、執筆にも集中出来ないと思い、心苦しいながらも切り出した。
「すまない、浩介…」
「原稿、出来上がってないんですか?まぁ今回は病み上がりですので多少の遅れは上も加味して下さるとは思いますが…」
「その事ではない」
青木はこの前浩介が忘れていった、青木の肖像画を差し出す。
「ああ!こちらに忘れていたのですか。ありがとうございます!先生」
「すまんな、浩介よ…」
「先ほどから何を謝っているのです?」
「第一、俺は男だ。惚れられたとしても、お前と世間に許されるような付き合いは出来ないんだ。」
「…先生、、」
「ん?」
「先ほどから《惚れた》や《付き合いが…》等、何を仰っているんですか?」
「いや、だから浩介は私の事が好きで、私の絵を描き、それをずっと懐に大切に仕舞っていたのだろう?」
「……え、それは違いますよ、先生」
「え?」
「医学の勉強は、まだまだ参考資料の少ない中、実物模写の力を付けなければならないのは必至です。なので、模写の練習に色々描いていて、たまたま先生のお宅に先日落とした物が偶然にも先生の肖像画だった。それだけの事です」
「な?!それでは俺は浩介にとっては他愛もない絵で暫くこの関係を悩んだと言うのか?」
「はい」
「あー、完全に時間の無駄遣いであったな…。まあ、男と男なんて悲恋の道確実だからな…本当に、勘違いで良かった」
何故かこの言葉に、浩介の心はチクりと痛みを覚えた。