ひとつやねのした目覚めると、もう随分と見慣れた顔を近距離で確認する。
「おはよう、青木」
この声も随分聞き慣れた、、ちょっと低めの声。
「お、はよう……」
比べてこっちは、男としては高めの声…だと思う。自分にはよく分からない。だけど、決して耳障りの悪い声でないことは、向かい合わせの顔がほころんでいる事でよく分かる。
「どうかしたか?」
ひとつ屋根の下で寝て起きて一日目。
昨日は整理した段ボールの片付けやら生活に不可欠な物の手続きの最終確認やら…とにもかくにも慌ただしくて、やっと落ち着いた頃には2人ともヘロヘロで、ベッドに入るなりどちらもすぐに寝入ってしまった。
何なら数日前から引っ越しの慌ただしさで撫での回数も減っていて、ちょっと不満が沸々していたりする…。
「え…いや…隣でお前が寝てるのって、受験後のあの時ぶりだなって思って…」
「思い出してた?」
「……っ!べっ、つにそんなんじゃねーけど」
何故だかベッドの上に、一瞬花の香りが漂った気がした。引っ越してすぐってこともあって、観葉植物どころか造花さえ置かれていない、殺風景な部屋なのに…。隙間風に紛れて入ってきたのかな?寝起きの頭で思考を懸命に巡らせていると、大きな影が動いた。
「青木……」
「っん…、ふ……」
乱れた呼吸の音…酸欠にならないかといまだに心配してしまう。
『チュッ』と密着が離れる音が聞こえた。どうやら今回も酸欠の心配は無さそうだ。が、まだこういう時にどういう態度を取るのが一番なのかは只今猛勉強中である…、悩ましい。
「今日からいつでも青木に触りたいときに触れる」
「なっ……!!」
「嫌か?」
「……っ、………いやじゃない……」
さっきより一段と強く、再び花の香りが舞った気がした。近所に花畑でもあるのか?まぁ今はいいや、今度散歩の時にでも見回してみよう。
「青木」
「なんだよ…」
「もう一回キス、していいか?」
一時の静寂…。
今度はこっちから!
「……んっ!」
「!」
よほどびっくりしたようで動きが止まる。でもやっぱり先に呼吸に困るのはこっちのようだ。
「ぷはっ……一回だけじゃなくてたくさんしてほしい」
一瞬の息継ぎ。と同時に互いの身体の隙間も狭くなる。
「いいのか?」
「いやじゃないってさっきも言った…」
「うん…、青木…」
「ん…」
顔と顔、身体と身体、今度は脚まで絡ませようとするものだから、いよいよ隙間が無くなってベッドから飛び降りた。
「バウッ!」
一際大きめの声で吠えてやる。
「ああ、豆太郎もおはよう。」
やれやれ、やっと身体を起こしたか。次いでだ、引っ越しの時に一緒に持ってきた馴染みの皿を咥えて催促もしてやる。
「すぐ準備するから待てって」
「ふぁ~あ、おはよう、まめたろう」
こっちはこっちで寝起きよりへにょへにょ声で…まったく、本当にこの二人は心配で仕方ない。付いてきて大正解だったな(エッヘン)。