未定(異世界idaoちゃんのお話)「う、、、みず、水が欲し…」
漆黒の髪を持ち背の高い男は、カラカラの喉を痛めながらも、掠れ声で必死に水を青年に求めた。
だが、運悪く此処には湿地帯さえ無い。生えている草木を千切れば水分は出るが、善き水とは限らない。嘔吐や痺れ、高熱で亡くなってしまう場合もある。勿論無毒な水が出てくる草木もあるのだが、青年は専門家ではないので見分けが付かず、途方に暮れた。
「俺が、もうちょっと上手く魔法を使えれば…」
息も絶え絶えに水を求めている男とは対照的な、明るい髪色を持つ青年…名は青木。青木の家系は水に特化した魔法使える血族だった。だが青木は己の体温の低さのため、氷しか放出させられないのである。攻撃の時には役に立つのだが、こういう人助けにはとんだ役立たずの自分に思わず項垂れた。
試しに手の上に魔法陣を書く。ポワンと出てきたのはやはり氷で…しかも厄介なことに、なかなか溶けない特性を持った氷なのだ。
「お前…、氷、、出せるのか?俺の口に放り込んでくれ」
「あ、でもこの氷は…!」
長身の男は戸惑っている青木から強引に氷を取り、自分の口の中に押し込んだ。
「ダメだって!俺の氷は冷たすぎて口の中に引っ付くんだよ!それで窒息するヤツも…」
案の定、男は苦しそうに自分の首に手を回し悶え始めた。
「あーもー!どうしたら!!」
青木が頭を抱えていると、長身の男性はぐっと青木の顔を捉え、あろうことか自分の口の上に重ねた。
「?!?!?!」
青木は突然の出来事に頭が混乱した。
『えっと、俺の…一応ファーストキス…相手が男っておい…。でもこの場合って、人工呼吸…みたいな、人助けだからノーカン???』
「ゴクリ。」
と、暫く経ってから長身の男の喉から音がした。
ようやく唇が解放された。
長身の男は身を起こし
「すまん、ふたり分の熱でなら、溶けるんじゃないかと思って….必死だった」
「あ、いやー、まぁ人助けだからな、気にしてないよ。ノーカンノーカン!」
「人がいいんだな」
そう言って男はふわりと青木の頭を撫でながら続けた。
「命の恩人だ。お礼がしたい」