ピロートーク「なぁ、赤い糸の話って、知ってる?」
「勿論。それこそ青木と繋がってなかったら泣いてしまいそうだ。」
見えないその『糸』を手繰るように井田の手がそっと近づいて、青木の小指に自分の小指を絡めてきた。
「ちょっと冷たいな。」
季節は秋の入り際、真夏の暑さがようやく過ぎようとする頃、朝晩はもう涼しいくらいで、青木の指先の熱は素早く奪われてゆく。
井田は年がら年中羨ましい恒温動物で、井田と触れてるとだんだん温まっていく感じがとても心地良く感じた。
小指を絡め合わせたままで、青木は聞いた。
「赤い糸の話って、どう生まれたんだろうな?」
「うーん、青木的には、あまり深掘りしない方が良いと思うぞ。」
「って事は、井田は知ってるのか?」
「こういう昔からある話って、だいたい諸説あるだろ。俺が知ってるのはその一つだけだが、とてもロマンチックとか、素敵な話とかからはかけ離れてるし…何より、お前が一番苦手そうな分野の話だし…」
「えー、でも、井田は知ってるのに年上の俺が知らないって、なんか悔しい。」
「ふっ…そこは年齢関係無いだろ。」
「朝にでもネットで調べてみれば良いんじゃないか?」
「朝にそんな暇無ぇー。今教えろよ井田、気になっちゃうだろ?」
「教えても良いけど…後悔すんなよ?」
「?」
「昔の男女って、親のいざこざとか身分とか、まぁその他諸々で愛し合ってる者同士が結ばれることって難しかったんだよ。だから『離れていても私はあなたの事、ずっと思っていますよ』っていう証に、自分の小指を切断して相手に送ったんだ。それが、『赤い糸』の伝説の始まりという話だ」
「…………………………。」
「青木?大丈夫か?ギュッてするか?」
「怖いってより…なんか、切ないな。」
勿論昔々の、そのまた昔くらいの話なのだから、青木の知り合いに当事者なんて居る訳が無い。でも、そんな存在すら知らない人たちへ、こんなに思いを馳せる事が出来る恋人を、井田は誇らしげに思った。
「俺とお前の赤い糸、見てみたいな。」
「あ、裁縫セットの中に、赤い糸あるかも!」
「でも、寝てる最中は絡まったりして危なくないか?」
「だよなー。」
「「………ピンキーリング!」」
二人の声が揃った。
「今度時間合わせて、買いに行こう。」
「うん!」
声が揃ったことが嬉しくて、自然とお互いに顔と顔の距離を近付けていた。お互いの一番柔らかい部分をそっと触れ合わせて
「「おやすみ。」」
━━━おわり━━━
◇◇◇『夜もヒッパレ復活SP』から懐かしの曲をリピートしてることが多いのですが、浜崎あゆみさんの『Trust』聞いててなんかすごくイダアオっぽいな~って思って書きました。◇◇◇