Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    pk_3630

    @pk_3630

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 41

    pk_3630

    ☆quiet follow

    笑毒2創作邪祟プチ参加作品です。
    邪祟の呪いにより右手が開かなくなってしまった江澄のお話です。
    呪いを解くには条件があり困り果てた江澄が曦臣を訪ね頼んだことは・・・

    笑毒2開催おめでとうございます。

    右手を繋ぐ「ようこそ、江宗主。どうぞこちらへ。」
    「急に伺ってしまい申し訳ない。」
    「お気になさらず。まずはお茶でも如何です。」

    快く寒室に迎えられ茶まで用意してもらったことを江澄はひどく気まずく思った。これからのことを思えば、緊張で喉が渇いているにも関わらず茶の味もまともにわからなかった。

    「して、ご用件はどのようなものでしょうか。」

    『俺と殴り合ってください。』

    これを言った瞬間、この部屋の空気は凍り付き居た堪れなさに身を滅ぼしかねないと分かっている。
    しかし、やるしかないのだ。

    (それもこれもあの邪祟のせいだ…!)

    遡ること一週間前。

    江澄は門弟を率い夜狩に出ていた。図らずも藍氏との合同夜狩になったものの、滞りなく事は終わった。
    しかし帰ろうとしたその時、とある墓地から強い邪気が発せられていることに気づいた。
    未熟な門弟を連れて行っては危ないと判断し単身その邪祟に対峙し、結果として言えばこちらも無事に対処することができた。
    が、その邪祟は最後の最後で謎の煙を放った。江澄は慌ててその場を立ち去ったが、少しばかり煙を吸い込み、それにより呪いにかかってしまったらしい。
    右手が拳を握ったまま開かなくなってしまったのだ。

    「これでは剣はおろか紫電も振るえないじゃないか!あの邪祟め!」

    このままでは生活にも支障をきたし、何より雲夢江氏にも影響してしまう。何とか方法を考えようとあの墓を調べたところ、さらに頭を抱えることになった。
    あの墓に眠っている女性には、生前ある奇妙な現象が起きていた。
    彼女は生まれた時から右手が開かなかった。しかし、彼女が心から愛した人がその手に触れたところ不思議なことに右手が開いたのだそうだ。晴れて二人は結ばれたが、その後彼女が愛した男は悲劇的な死を迎えてしまい、女性はその悲しみの果てに邪祟となってしまったらしい。

    「つまり、俺が心から想う相手に触ってもらえなければこの右手はいつまでもこのままってことか?!」

    事実を知った際はあまりのことに紫電で文献を破壊してしまいたい気分だったが、生憎右手が開かないため紫電を扱うこともできなかった。

    この右手を開けそうな者には心当たりがある。
    しかし、その者に正面から触ってくれとは決して言えないのだ。
    昔から知っている仲ではあるが、男同士であり、仕事以外に話をしたことはほとんどなく、間違っても打ち解けた間柄ではない。
    そんな相手にいきなり右手を触ってくれと言えば奇妙に思われるだろうし、最悪事情を調べられてしまうかもしれない。
    事情を知られ恋慕の情を抱いていることを相手に知られる。それだけはどうしても避けなければならない。これは一方的な慕情で、江氏宗主として終生隠し通さねばならない想いなのだから。

    「要は右手に触ってもらえればいいんだな。だったら・・・」

    江澄は意を決して藍曦臣に伝令蝶を送った。


    そして今に至る。

    「江宗主、どうされました?」
    「ああ、いや、その・・・だな。沢蕪君、私と手合わせをしていただけないだろうか。」

    手合わせで曦臣に右手で攻撃をしかけ、それを防いでもらう。これが江澄の策だった。己でも無茶苦茶だとわかっているが、これしか思いつかなかったのだから仕方ない。
    案の定、曦臣は驚いた目をし僅かに口まで開いていた。

    「その・・・江氏で少々問題が起きて、修練を見直したいと思っていて。私自身の武術も今一度見直してからにしたいのだが、こういったことを頼める者がいなかったもので。」
    「ああ、そういうことでしたか。私で良ければお付き合いいたしましょう。」
    「本当か!?助かる。」
    「いえ。宗主同士ですし、助け合っていきましょう。」

    相変わらず顔も性格もいいな。
    計画通りに事が進んだことで気が緩み、そんな呆けたことを考えていた。
    しかし、いざ素手での手合わせが始まると事はそう容易ではなかった。
    素早さではこちらに分があると思っていたのだが、曦臣もあの体格の割に身のこなしが軽く、ギリギリのところで拳を躱されてしまう。
    腕力ではどうしたって敵わない相手なのだから、あまりに距離を詰め過ぎれば右手に触られる前にやられてしまう。
    本気の打ち合いではないが、手を抜いているわけでもない。それなのに何度目かの右手での攻撃も曦臣は指二本で手首を払って軌道を変え躱してしまう。
    曦臣からの攻撃を躱していくことに体力が取られていっているのか、動きがどんどん重く鈍くなっていくことに焦りが生じた。ついに、曦臣からの攻撃を躱しきれずに腕で防御したがその拍子に体勢を崩し、その次の攻撃は左手の手刀を首につけられてしまった。
    「江宗主。手合わせはこのあたりで大丈夫でしょうか?」
    「いや、まだだ。少ししたらもう一度お願いしても・・・」
    「ですが、お身体が辛いのでは。少しお休みになられた方がいいでしょう。」
    その言葉を最後に江澄の意識は落ちていった。


    「江宗主、目が覚めましたか。」

    目が覚めてから一瞬で先程のことを思い出し、寒室の寝台からがばりと身を起こした。
    計画が上手くいかなかったばかりか、手合わせ中に意識を失うなど失態どころの話ではない。
    己のあまりの情けさなにくらりと眩暈がした。

    「ああ、まだ動かない方がいいですよ。もう少し横になっていてください。」
    「そんなわけにいかない。申し訳ない、藍宗主。こちらから頼んでおきながら、こんな無様な姿を晒してしまうなんて・・・鍛錬不足もいいところだ。」
    「・・・いえ、本当にお気になさらないでください。それより、もしかしてお怪我をされているのでは?」
    「いや、どこも痛くはない。」
    「そうですか。眠っている間もずっと右手を強く握りしめたままでしたので、もしやどこか痛むのかと思っていたのですが。…もしよかったら少し診せていただけませんか?」

    江澄は心臓が口から飛び出さんばかりに驚いたが、これは好機だとすぐに思いなおした。
    ここで右手を診てもらえれば万事解決するのだ。
    そう思い何も言わずにそっと右手を差し出す。
    曦臣は左手で江澄の手を支えながら、右手の指を手首にあてて脈を診ていた。その間、江澄の目をじっと見つめてくるので、居た堪れなさからつい目を逸らしてしまう。

    「脈が速いですね。」
    「そ・・・そうか?いつもこんな感じだ。」
    「いつもこれ程強く脈打ってるのですか。・・・江宗主、右手を開けますか?」

    江澄の額に汗が滲んだ。
    もしこれで開かなかったら一体どうすればいいのだろうと、またくらりと眩暈がした。
    しかし、それは杞憂に終わる。曦臣が右手拳をそっと撫でた瞬間、まるで固い蕾が花開くかのように、指がゆっくりと開いていったのだ。

    (ああ、やはり俺はこの人のことを好いていたのだな。)

    この想いを目の前の男に知られなくてよかったと安堵しほっと息をついた。この想いは墓まで大事に持っていく、改めてそう己に誓った。

    「江宗主、ここに来る前に右手で何かに触りましたか?」
    「いや、何も触ってはいない。」
    「本当に何も触っていないのですね?」
    「ああ。何故そんなことを訊く?」
    「掌が汚れています。」

    見ると確かに掌は土で汚れていた。あの邪祟を退治する際に地面に右手をついたためだろう。

    「きっと先程の手合わせの時のものだろう。」

    曦臣から指摘され背筋に冷や汗が滲むが、表情を変えずに何とかやり過ごそうとした。
    しかし、曦臣はやや鋭さのある目で江澄の目をじっと見つめた。瞳の奥に隠された何かを読み取ろうとするように。

    「江宗主、あなたは今日私に会ってから一度も右手を開きませんでしたね。茶も左手で飲んでいたし、手合わせ中も開いてはいませんでしたよ。」
    「そうだったか?藍宗主の見間違いだろう。」
    「いいえ、ずっと江宗主の右手に注意を払っていましたから間違いありません。それにこの汚れは土だけでなく僅かですが苔も混じっています。この苔は珍しいもので当然雲深不知処には生えていません。この近辺ですとある墓地にしか自生していないものです。」

    呼吸がどんどん浅くなる。

    「正直におっしゃってください。江宗主の右手はあの墓地の邪祟を対処した日から開かなかったのでしょう?」
    「違う!」
    「何故否定するのです?」
    「違うものは違うからだ!時間をつくってもらって申し訳ないが、もう帰らせていただく!」
    「待ってください、江宗主。お帰りになる前に是非ともお願いがあります。」
    「何だ!」

    そもそも頼みごとをした手前聞き入れないわけにもいかないという考えと、そんなことはともかく早くこの場を立ち去りたい思いで冷や汗がますます止まらなくなる。

    「私の右手を江宗主から触っていただきたいのです。」
    「は?」
    「さあ、どうぞ。」

    突然の言葉を脳内で咀嚼する間もなく、曦臣の右手が江澄の前にずずいと突き出された。その右手は人差指と中指だけがぴんっと伸ばされた状態で握られており、その指二本に胸を突かれると思い咄嗟に両手でぱしっと掴んでしまった。

    「・・・ふふっ」

    先程までの緊張感が薄れ、曦臣は何故か嬉しそうに微笑んでいる。

    「江宗主、私の右手の親指を見てください。」
    「ん?これは・・・」
    「ね?土で汚れているでしょう。江宗主と一緒です。私もあの日から右手が開かなったんです。ただし、江宗主が対処した後に駆け付け煙をそんなに吸い込まずに済んだので、人差し指と中指は開けたんですよ。」
    「は?え?あの場にあなたもいたのか?」
    「ええ。呪いにかかってしまったので、あの墓地に葬られた女性を調べまして。心から慕っている者に触れてもらわないと解けない呪いだと知り、私も江宗主を訪ねようと思っていたところだったのです。だって、・・・私の想い人は江宗主ですから。」
    「ん??」
    「けれど私が慕っていると知ったら、きっと江宗主は迷惑だと感じるだろうし距離を置かれてしまうかもと思えば怖くて、・・・その・・申し訳ないと思っていたのですが茶に一時意識を失う薬を入れました。」
    「んん!?!?」

    曦臣が頬を染め口元を袖で隠し恥じらいながら打ち明ける内容は、江澄に雷に打たれたような衝撃を与えた。

    「しかし、どうやら意識を失った相手に触らせても解けない呪いだったようですね。たった今、江宗主に触ってもらいようやく呪いが解けました。ありがとうございます。おや、江宗主?どうされました?」
    「あ、あなたは・・・まさか知っていたのか?俺が藍宗主を想っていたと・・・」
    「いいえ、江宗主の右手が開く時まではわかりませんでした。今日お会いして右手を握ったままのあなたを見た時にもしや同じ呪いにかかっているのではと思いましたが。」

    曦臣は開いたばかりの右手を江澄の右手に絡めた。

    茶杯を左手で持っていたことに違和感を持ち、手合わせ中も右手での攻撃が全て拳であったことで疑惑へと変わり、気を失っている際に右手を触ったことで確信へと変わった。
    眠っている江澄の右拳を触りながら曦臣はとても平常心でいられなかった。
    江澄の心を開かせるようにこの右手を開かせる者がこの世に存在していて、その者と江澄が仲睦まじくしている様子を思い浮かべれば狂おしくて頭がどうにかなってしまいそうだった。

    「江宗主が眠っている間、ずっと思っていました。江澄の右手を開かせるのは私であってほしい、もし目覚めたあなたの右手を開かせることが出来なかったら好きになってもらうまでこの寒室に留めてしまおうと。けれど、あぁ・・・何て嬉しいのでしょう!ね、阿澄とお呼びしても?」

    まさかの両想いだった事実に江澄は頭がついていかなかった。
    長年の片思いがまさかこんな形で成就するとは想像もしていなかったのだ。こんな幸運が起きうるのか、もしや本当に夢なのではないかと、曦臣の右手を確かめるようにむぎゅっと握った。

    「夢・・・じゃないんだよな?本当に?なんで沢蕪君が俺なんかを・・・?」
    「せっかく想い通じたのに夢になんかさせませんよ、阿澄。これからは私のことを藍渙と呼んでくださいね。ほら、呼んでみてくださいな。」
    「ら・・・藍渙」
    「はい!阿澄」

    すっかり浮かれている曦臣を前にし、江澄も戸惑いながらも小さく微笑んだ。

    もうすっかり自由になったはずの二人の右手は、お互いの熱を分け合うように繋がれ一つになっていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💜💙💜💙💜👏👏✌👊👏👏👏💙💜👏👏👏👏👏😭🇴Ⓜ🇪↩🇪🔟🎊🎉㊗🙏🙏🙏👏💜👏💙💛💙💜💗💗💜💜💜💜💜💜💜💜💜💜👏❤💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works