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    pk_3630

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    拗れ練習用に書いた現代AU 曦澄 第10話

    ついに本当のことと長年の想いを打ち明けた澄
    澄の告白を聴いて曦は?
    だいぶ焦って書いたので後日手直しします

    想・喪・葬・相 ⑩スマホの画面にあいつの名前が表示された瞬間、先程までの空気が一変した。
    「まずい」と思い、どうしようか戸惑った。その一瞬の隙にスマホを取られてしまった。
    今日こそ真実を打ち明けようと思っていた。けれど、自分の口から全てを語るつもりだったのだ。

    (なんでよりにもよって今電話をかけてきたんだ)

    この状況では、いつ同僚の話しから嘘が暴かれるかわからない。この通話はまさにいつ爆発するかわからない爆弾だった。
    通話を早く切りたくても、元来話好きな同僚は次から次へと話を振って来る。
    今日ずっと優しい笑顔だった曦臣が、通話の声が響く度にどんどん表情が削げ落ちていった。
    そしてついに、爆弾は思わぬ爆発の仕方をした。

    『江澄、僕こっちで恋人ができたんだ』

    どう返答すればいいのか、混乱しきった頭では相槌を打つのが精一杯だった。
    それまで無表情に近かった曦臣の顔が、みるみるうちに怒りに染まっていく。
    そんな顔は見たことがなかった。
    何をどうすればいいのか分からず、目線があちこち彷徨う。
    すると、曦臣がスマホの向きを変えたのがスローモーションのように目に飛び込んできた。

    (それだけは駄目だ!)

    飛びつくようにスマホを取り返し、奪い返されないよう強く握りしめた。
    声も身体も震えさせながら問い質す曦臣は、今までで一番悲痛な表情をしていた。

    (そんな顔をさせたかったわけじゃない。怒りで震えたそんな声を出させたかったんじゃない)

    曦臣は俺が一方的に振られて、弄ばれたと勘違いしている。そのために怒っている。俺のせいで悲しんでいる。


    「違うんだ、曦臣」

    俺は曦臣にそんなふうに思ってもらえるような人間じゃない。自分のために曦臣を嘘で振り回した最低な人間なんだ。

    (もう言わなければ)

    嘘を吐いて、曦臣を傷つけた罪を。そして裁かれないといけない。
    この世で一番愛している曦臣に、今までもこれからもこの人しか愛せないと想い続けた相手に。

    「阿澄!!」

    叫びのようなその声が、己の罪状を読み上げる合図になった。

    「ごめん、曦臣。嘘なんだ」
    「嘘?」
    「本当は、彼氏なんていないんだ。あいつとは付き合ってない」
    「え…?だって、展望デッキであんなに仲良くしていたのに」
    「あの日、あいつは俺に好意を持っていたと告白した。けど俺はそうじゃなかったから断った。その話はとっくに終わってたんだ」
    「じゃあ、あのキスは何だったの」
    「あいつが最後に口づけだけさせてほしいって言ったから。勇気出して告白したんだし、これから一人きりで海外に行くのにも同情して、一度だけ許した」

    曦臣の顔を見ることが出来ず、俯いたまま言葉を紡いだ。訊きたいことは全て正直に答えるつもりだった。けれど、沈黙が流れると針の筵に立たされたようだ。

    「どうして彼氏がいるなんて嘘を吐いたの?」

    軽蔑しているだろうか、怒っているだろうか。声だけではわからないがきっと両方なのだろう。
    長く隠し続けた想いを、破滅にしか向かわなかった恋を、最も汚い形で曦臣に曝け出す。
    それが自分への罰なのだとわかっていても辛かった。

    「ずっと、中学生の時から曦臣が好きだった。でも、叶わないこともよくわかってた。曦臣は昔からもてたから、俺みたいな奴、しかも男なんて想われるだけ迷惑だって。だからずっと隠してた。幼馴染として側にいられればいいって思ってたんだ。でも本当は、曦臣に彼女が出来る度に辛かった。早く諦めたくて、曦臣が結婚すれば諦めきれると思って、藍叔父さんに協力した。でも、曦臣の彼女からの土産見た時にどうにも抑えられなくて。曦臣は彼女と結婚するかもしれないのに、自分はこれからも失恋することしか出来ない。曦臣が他の女と幸せになる未来を指をくわえて見てることしか出来ないのが惨めだった。だからくだらない嘘吐いて見栄を張ろうとした」

    話ながら本当に酷い恋愛遍歴だと思った。
    想い続けて、勝手に失恋して傷ついて、拗らせて。、
    挙句の果てに告白してくれた同僚を利用して嘘を吐いてまで、曦臣の目に留まろうとしたのだ。

    「本当に最低なことした。謝って許してもらえることじゃない。けどごめんっ……ごめんな、曦臣」

    もうこれで全てが終わった。
    後は曦臣にどんな見捨てられ方をするかだけだ。
    一番気が済むようにしてほしいと思う。「二度と顔を見せるな」と言われれば仕事を辞め遠い場所へと引っ越すし、「死ね」と言われればなるべく迷惑のかからない方法で死ぬつもりだ。

    処刑を待つ罪人の様に、項垂れながら沙汰を待った。



    阿澄の告白はあまりに予想の範疇を超えるものだった。吐いた嘘など最早どうでもよかった。それよりも、江澄が抱えていた想いの方が余程衝撃的だった。

    「私のことが好きだった…?そんな…、私はずっと気が付かずに」

    江澄から好意を持たれていたことを嬉しいと素直に喜ぶことは出来なかった。
    自分は長い年月江澄を傷つけてきたことになる。

    (私の言動はあまりに無神経だった)

    彼女が出来た時、見合いの相談をされた時、江澄はどんな気持ちでそれを聴いていたのだろう。
    江澄に彼氏がいると知ってから、自分は優しく接することが出来なかった。自分が知らない姿をした江澄が、遠く離れていってしまう恐怖で頭が一杯になり、己の辛さをそのまま江澄へぶつけていた。

    (私は自分の気持しか考えていなかった。それどころか、阿澄の気持ちを踏み躙り、いいように身体を貪っていた)

    傷心を癒してほしいと縋れば、優しい江澄は見捨てないで側にいてくれるだろう。そんな算段すらしていたのだ。
    あんな形で抱かれるのは彼にとって大きな傷になると分かっていたはずなのに。
    誰よりも大切な人から目を背け、自分の心を守ることばかりに固執した。
    あまりにも卑怯で、救いようがない程に愚かだった。

    (私は何を思い上がっていたのだろう。こんな私が救われていいはずがない。阿澄の側にいる資格なんてあるはずがない)

    「ごめんね、阿澄。本当にすまないことをしてしまった」

    ずっと俯いていた江澄がばっと顔を上げた。その瞬間、驚愕に見開かれた目からポロリと涙が流れた。
    (あの日から泣かせてばかりだ。いや、本当は自分が知らないところで何度も涙していたはず。こんな非情な男のどこを江澄は好いてくれたのだろう)
    江澄に申し訳なくて、己が恥ずかしくて仕方なかった。

    「曦臣?なんで、謝るんだ」
    「ずっと、私は阿澄に酷いことをしてきたから」

    江澄はそうじゃないと言おうとしているのだろうが、言葉が詰まったようで、頭を横に振るだけだった。

    「阿澄を抱いたのはね、どうしようもなく苛立っていたから。ああ、阿澄に対してではないよ。私自身を怨んだ」

    阿澄に選んでもらえない自分、側にいられない異国の彼より劣っている自分、そして阿澄を独占したいという気持ちにずっと気がつかなかった己の愚鈍さを許せなかった。

    「でも溜まり続けるこの感情をどう消化すればいいかわからなかった。阿澄とどう繋がっていたいのか、この先どうすればいいのか。何も答えが出ないことが辛かった。阿澄をあの男から奪いたくて必死だった。だからと言ってあんなことをしていいはずがないのに。最低だね、私は」
    「違う!俺が嘘を吐いたから、曦臣はそうなっただけで」
    「優しいね。でも私に同情なんてする必要はないよ」
    「そうじゃ…、そうじゃない!俺がくだらない嘘を吐いたせいだ。あんなこと言わなければ、曦臣は今でも彼女と付き合ってた。婚約だってしてたかもしれない。あのままだったら、藍叔父さんからも、皆からも祝福されて幸せだったはずだ。全部、俺がぶち壊した」
    「阿澄は何も悪くないよ。私があまりにも自分勝手だった。私が阿澄を追い詰めて嘘を吐かせた。だから、責められるべきは私だよ」

    なおも首を振って否定しようとする江澄に一歩近づき、怖がらせないように手を握った。
    まるで幼い頃、初めて出会って仲良くなったあの日のように。

    「今日はね、阿澄との関係が少しでも以前のように戻らないかと思って付き合ってもらったんだ。阿澄の笑顔を久しぶりに見られて本当に幸せだった。これから先もずっとこの笑顔を見ていたい、自分は生涯阿澄の側にいたい、阿澄の唯一の人になりたいって、心からそう思った。でも、やっぱり駄目だ。こんな私が阿澄の側にいては」
    「曦臣?何言っているんだ?」
    「辛い想いばかりさせて本当にごめんね。好きって言ってもらえて嬉しかった。その想いを散々踏みにじってきたのに…、阿澄を大切にしてあげられなかったのに。でも、本当に嬉しい」

    江澄は何を言われているのか理解が追いつかないという顔をしている。握った手が少し震えている。その手を一度だけ撫で、そして手放した。

    「もう、こんな最低な男のことで思い悩まないで。きっと阿澄は素晴らしい人と巡り合えるから」

    愛しくて愛しくて、誰よりも大切な人。誰よりも幸せになってほしい人。
    (だからこそ、私はもう阿澄の側にいてはいけない)
    私こそが、彼の不幸の元凶だったのだから。

    「終わりにしよう、阿澄」
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