首輪鏡の前で欠流はじっと立つ。首にあるのは真空色のチョーカー。一斗から贈られたこの"Collar"を指でなぞり、首を傾け、鏡の前まで身体を翻しあらゆる角度からCollarを眺める。一斗とパートナー契約を交わしたその日にプレゼントされたこのCollarは、欠流に想定以上の安らぎを与えてくれていた。
かつては"犬の首輪"__カケルの為のものとしか認識できなかったからか、服を身に纏った状態で首輪を身に付けていると"似合わない"と思う事が多々あった。そのせいか、あまりCollarに対し良い印象を抱いていなかったのだが、こうして常時身に付けるようになると印象は変わるものだなと欠流は思う。
チョーカーが無いと外を出歩けない、ということは無い。
チョーカーを外していると不安感に苛まれる、という事もない。
一斗と仮契約を交わしてからも、Collarを常時外した状態で十年以上生活してきた。その為、これが無いと生活に支障をきたす場面は全くない。
しかし、このチョーカーを指でなぞるたびに、自分は人として一斗の隣に立っていいのだと、堂々とあいつのSubなのだと名乗っていいのだと、強く思えるのだ。
「___ぅわっ!?か、一斗?」
満足するまでCollarを眺めた後に洗面所を出ると、出てすぐの廊下の片隅で一斗が三角座りでうずくまっていた。
「一体どうしたんだい?」
「あにきい……僕兄貴の事絶対に幸せにするから……」
「は?……あ、お前!さてはずっと見てたな!?」
弟が急に泣き始めた理由に思い当たり、欠流は気恥ずかしさから声を荒げる。しかし一斗はそんな怒りなど怖くないと言わんばかりに立ち上がり、欠流をその腕に収めてしまった。
「僕頑張るから。何年もしんどい思いさせたぶん兄貴の事目一杯大事にするから~」
「ああもうっ!分かったから、泣き止めってばあ!」
びいびい泣きじゃくる一斗が欠流を解放してくれたのは、欠流が洗面所を出てから30分以上たってからの事だった。