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    小栗ビュン

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    小栗ビュン

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    水底のカタルシス部活の終わりに、西谷の誕生日が近いという話になって、例のアイスを奢るか、昼飯を奢るか、どうするかなんて話で少し盛りあがった。本人は多分遠慮してアイスでいいと言っていたのだろうが、照れながらもとても嬉しそうにしている顔は自然で可愛いものだった。嬉しいことに、素直に喜べるやつは、きっとどこでも可愛がられる。素直で、正直で、率直な言葉を出せる西谷は、どこまでも真っ直ぐなんだなと思った。

    でも、それは一般的な西谷の印象であり、もしかしたら、西谷がそう意識して育ててきた部分かもしれない。

    そしてその逆の、人に言えないことや、隠し事で渦巻く体内かもしれない。誰かが寝ている隙にマーキング紛いのことをするような。それを知られたくないという気持ちを持っていたりするような。西谷にも、もう少しドロっとしたものがあるのかもしれない。

    いいじゃないか。
    俺はそういうドロドロした感情があったことを、西谷に教えて貰ったんだよ。
    俺は好きなのかもしれないって思った瞬間、もう獲物を狙う目付きに変わってしまった。

    捕まえて、抱きつくして、好きかもしれない気持ちを確かめたいよ。

    結果、泣かせることになるのだろうけれど。

    もっと、触ってみたい。
    そう思うのって、ダメなことかな。

    けれど、単純に気になる子の誕生日なんて、機会を逃すこともないよな。可愛い子には、甘やかしてやりたい。何かしてやれることはないか?なんて聞いたら、なんて返すのだろう。遠慮して何も要求してこないだろうな。彼氏や彼女がいるなら迷惑なだけだろう。けれど、今思えば、その彼氏や彼女って、できた瞬間西谷は自分からできたって発信しそうだし、田中に話していないわけがないだろう。話をさらに繋げると、俺をあたためていたのとが、俺に気づかれてはまずくて、他の人にもバレるのはまずいのはなぜなのか。付き合ってはいないけれど、好きな人がいるっていうことになるな。

    好きな人ね。

    ふうん。

    それなのに、自分のフェロモンを俺に付けちゃうんだ。だったら西谷って、ずるいよね。間違えてつけちゃったから、誰かにバレるのがまずかった?誰かに誤解されたくないから?西谷の好き人に?バレるってことは、うちの学校の子なんだ。

    あ、そう。

    誰かに置き換えて、俺に付けちゃったのかな。そうだとしたら、尚更タチが悪い。西谷のそういうところは意外だし、嫌いだし、腹が立つ。けれど、なんで俺は今、こんなに刈り取りに行きたくなるくらい、変な気持ちになっているのかな。

    西谷の全部を根こそぎ刈ってしまって、しっぽまで這わせて抱き締めたい。

    西谷、俺って多分強いよ。負けないよ。
    好きかもしれない子には、出来るだけ優しくしたい。
    だからあんまり、惑わすようなことはしないで欲しいなあ。

    惑わすなら、逃げるなら、俺だって、多分黙っていないから。



    結局、西谷には何かは送りたいと思って、土曜日の部活が終わったその足でひとり駅ビルなんかに行ってみた。いつも変なシャツを着ている印象が強い。服やアクセサリーは趣味が合わなかったら申し訳ないことになる。部活で使用するようなものは、こだわりがあるだろう。雑貨屋から洋服やアクセサリーと見て回ったが、どれもピンとこなかった。

    「あれえ、東峰旭じゃん。」

    フルネームを呼ばれて振り向く。女性だ。顔は田中だった。つまり、田中の姉だった。田中冴子。ちなみにこの人も猿人類だ。今日も生足魅惑のお姉さんである。

    「どうも。」

    猿人類といえど、この人はオーラが違う。

    「いつもお世話になっています。」

    なんてどう話していいかわからず会釈をする。

    「ってことは龍も帰る時間ね。時間的に夕飯の準備はバッチリだったな。」

    いい姉をしているようだ。俺の姉は離れたところにすんでいるが、元気でいるだろうか。俺の姉は、母に似て蛇の目だった。

    「今日は和太鼓のプロがこっちのホールで公演やるんだよね。グッズも狙ってるから、またね!」

    「あ、はい、どうも。」

    どうもしか言えてない自分のコミュニケーション能力は絶望的だ。新潟のプロの和太鼓楽団がツアーをしているらしく、駅ビルの中にも何ヶ所かでポスターを見かけた。

    「グッズね。なるほど。」

    駅ビルを離れて、スポーツ用品店が入っている百貨店へ向かった。サッカーやバスケ部のような中学生や高校生がそこそこ来ている。そんな中、俺が通路を通ると十戒のように道が開ける。いつもの事だが、慣れない。店内をひと回りして、あるものに気が付き、足を止める。

    「要らないよな。」

    呟きながらも手に取ってしまうのは、自分が使っているものと同じ、細いヘアバンドだった。普段の髪型的にも必要がない。けれど、どうしてもこれがいい気がしてならない。この程度なら、誕生日プレゼントだなんて言わなくても押し付けてしまえる。

    「…、」

    渡せなかったら、自分がまた、使えばいい。自分が使っているものと、全く同じものを選んだ。包むまでもなく、買ったままの状態で持ち帰ることにした。プレゼントと称して渡すものは、みんなと同じくあのアイスでもいい。

    それからバッグの中に入れていつでも押し付けられるようにしてはいたが、やはり誕生日という特別な日を意識してしまうと、簡単に渡せるはずもない。本人を前にして、押し付けるか否かという思考が巡るのだが、本能は今ではないと判断するようだ。

    誕生日まであと少し。
    あと三日。
    あと一日。

    「ノヤさん誕生日おめでとうございアす!」

    「へへ!ありがとう!」

    一年生に祝われて嬉しそうな西谷を早朝から見た。谷地が撮った、西谷のレシーブの瞬間がいわゆるブロマイドみたいに印刷されていたのを受け取っていた。どうやら未公開画像というものらしい。

    「俺かっけえ!」

    背中しか写っていないのだが、逆光の中でその一球を受け止める背中はとても雄々しく見えた。

    「すげーな!」

    覗き込んだスガが加わり、大地が加わり、ついでに俺も加わる設定で数に入る。

    「よく撮れてるね。」

    俺が言うと、谷地と一緒に何故か日向が照れてくる。

    「旭さんのもあるんじゃないすか?ね?」

    西谷が谷地に聞いた。谷地が頷く。

    「じゃあ誕生日に見れるんだ!」

    バースデーブロマイド化が始まろうとしているが、残念ながら俺の誕生日は一年の始まりの日のため、誰かと会うような日でもなかったりするわけだ。何より、春高を前にして自分の誕生日とかなんて、どうでもいいことになっているはずだ。しかも自分が写っているものなんてあまり見たくない。どうせ鬼の形相か中年ぐらいの社会人に見える顔をしているのだろう。そんなもの、欲しくない。

    「…、」

    しかし、何故西谷はまたそんなことを言うのかな。

    西谷、お前、そういうところだぞ。

    「俺はいいよ、誕生日元旦だし。」

    「誕生日終わってる俺の身にもなって。」

    そのままを伝えると、既に誕生日を迎えていたスガが笑いを取ってその場を締めくくったのだった。朝練を終えて、各々の教室に向かう中、俺は大地らと部室を閉める為に最後まで残っていた。
    手が冷たい。手の甲の鱗が光る。俺の中のヒグマの魂元はすっかり冬眠してしまったのか。

    結局渡せていない、ヘアバンド。

    「腹減ったあ。」

    西谷が一時間目を前にしてそう言う中、清水がやって来てプロテインバーを与えていた。

    「誕生日、おめでとう。」

    「……!」

    そして清水は去っていった。

    「ほら、西谷早く出ろ、閉めるぞ。」

    「やべえ、勿体なさすぎて食えねえ…、」

    着替えも半端な状態でプロテインバーを両手に持ち、ふらふらと歩き出す。上の空の西谷の荷物をスガと俺が持って、大地が無理やり部室を施錠したのだった。学ランを着ないままでいる西谷の首筋を見下ろす。漂う匂いは、あの時のものじゃない。

    「…、」

    フェロモンなのは違いないとは思う。けれど、あの時の匂いとは違うものだ。今の西谷の匂いも可愛くて好きだけれど、今漂うものは、もっとコンパクトに浅いものだ。

    さて。

    俺は四人で渡り廊下を歩く中、ふと足を止めた。
    出てくるウミヘビの俺。眠るヒグマの俺。

    「……悪い、ちょっと保健室行くわ。」

    「、」

    全員が心配そうに俺を身構える。俺想像以上に普段から相当な心配をかけているようだ。さすがに良心が痛むな。

    今、そこまでの体温は下がっていないから。

    大地の視線が西谷に一瞬だけ移って、また俺を見る。ごめんな、大地、スガ。西谷のこと呼ばなくていいって言ったけれど、今度は俺から西谷を呼ぶよ。

    ふたりになりたいんだ。

    何も話さなくてもいいから、受け入れてくれるなら、少しだけふたりだけでいたい。嘘つきって言われてもいいから、少しだけ黙って閉じ込めたい。

    「ごめん、西谷、ちょっと手伝ってくれる?」

    冷えきって鱗が露になった手を西谷に向かって差し出す。大地とスガが俺を見る。言いたいことは分かる。断っといて、これはなんだよって言いたいよな。わかるよ。

    でも、俺だって、心ぐらい変わるみたいだ。

    確かめてみたいんだ。
    抱いているものが恋なのか、そうじゃないのか、それとも、ただの欲情なのか。

    「いいすよ、早く行きましょう。」

    大地とスガは驚いた顔をしていたが、俺の気持ちの発展に関しては、後でフラれても実っても話すから。今だけは、ふたりでいさせて欲しい。

    「西谷の担任には俺から言っておくよ。」

    大地がそう言うと、「アザっす」と答え、スガから荷物を受け取った。西谷は俺の手を掴み、保健室へ向かってズンズンと先を歩くように進んでいく。きっと本当に俺の体調を心配してくれているんだろう。騙すようで心苦しい。それでも、この時間は逃せない気がするんだ。

    「失礼します。」

    保健室にたどり着くと、養護教諭が出てきて俺の顔を見ると一番奥のベッドを開けてくれた。それから内線で担任に連絡を入れてくれる。

    「すみません、西谷も借ります。西谷のことは、担任に伝えてあります。」

    養護教諭に伝えると、今度は西谷が教諭に頭を下げた。カーテンを引いて閉める。久しぶりのふたりきりの時間だ。

    「腹減ってるのに、ごめんな。」

    「あ、どうせこれ、勿体なくて食えねえっす、大丈夫ス。」

    あの憧れの清水に貰ったものだもんな。とてもよくわかる。俺だって、西谷にそんなもの貰ったら、期限を迎えるまで精一杯所持してるだろうな。

    ベッドの外で立っている西谷に向かって手を伸ばす。蛇の鱗がとても強く出ている。冷えているには違いないようだ。ヒグマの魂元が出なくなったら、俺はウミヘビとしか生きていけないのだろうか。

    まあ、それならそれで、もっと西谷が必要になるだけかな。

    西谷の手を掴んで引いてみる。簡単に傾き、西谷はベッドに座った俺の腕に収まった。西谷の匂いはするけれど、あの匂いはしなかった。

    そのままベッドに倒れてみて、西谷の体を大きく拘束した。上履きは履いたままだし、制服の上着がごわついて気持ち悪い。それでも、西谷の高い体温は俺にとってやはり心地よく、帰る場所のような気にさえさせる。

    「……、西谷が俺の体温上げてくれてたのって、一回だけ?」

    「…、」

    西谷の上履きが、床にぽろぽろと落ちていった。ぱた、と床につくひ弱な音がした。

    「本当は、何度か手伝ってくれてたんでしょ。」

    「……、」

    だからかな、結婚する相手のこととか、好きな人がいたらいいのにだなんて考えてたのって。そういうことか、なるほどね。

    「大地とスガに言われてたから?」

    「それは、」

    それは何。
    教えて。

    「好きな人にバレたらまずいんじゃないの。」

    閉じ込めた体が僅かに震える。分かりやすいところも、西谷っぽいな。

    なんだ、やっぱり、そういう存在がいるんだ。

    傷つきはしないけれど、心が黒くなる気がした。俺の中の黒いものが、日に日に強くなる。いつかきっと、真っ黒になって、西谷から離れらなくなってコートにも戻れなくなるんじゃないかな。

    こうして西谷の意思なんかどうでもいいみたいに閉じ込めて。

    「好きな人、いるんだ。」

    真綿で首を絞めるように。

    弱っていく西谷を見届ける。

    馬鹿だな、そんなことをして、西谷の気持ちが俺に向けられるはずもないのに。むしろ、遠退いて、消えていくだけなのに。

    ああでも、どうせ卒業して会わなくなるのなら、卒業するまでは、こうして閉じ込めておくのもいいかもしれない。

    閉じ込めたい。
    閉じ込めたいよ。
    誰にもあげない。

    そう言って、駄々を捏ねたい。


    「…、旭さんは、どうなんですか。」

    振り絞るような声だった。

    「俺は、俺はねえ…、どうかな、わからない。」

    「、」

    「でも、好きな人も付き合ってくれる人も、俺の子生んでくれる人も欲しいなとはいつも思ってる。」

    それは震えるのを止めようとする心臓を、西谷にあたためてもらっている時に思っていることなんだ。結局は寂しいやつだってことなんだけれど、人としてのぬくもりの大切さを教えて貰っているということだよな。

    西谷に抱かれている間の平和なぬくもりの奥に、自分という無言の闇がある。

    けれど、西谷が俺の好きな人なら、究極のぬくもりに変わることになるな。そして俺の闇は、大きくなるのか、消えてくれのか。

    俺の感情のピークって、いつ来るんだろう。
    十七年生きてきてるうちでは、多分今が最高値なんだろうとは思う。

    黙ってしまった西谷の頭を、腕と胸に閉じ込める。鼻先で感じるヘアワックスの香り。そして思い出す、西谷への誕生日プレゼントの存在。

    「あのさ、」

    「…はい、」

    「ちょっとごめんね。」

    西谷の体をひっくり返して下にする。ベッドの軋む音が卑猥に聞こえた。

    「、」

    少しだけ赤面していた顔が眼下に見える。なんでそんな顔するんだろうね。なんでかな。

    ねえ。

    なんで。

    「渡したいもの、あったんだ。」

    バッグに手を伸ばし、中を探す。指の先にぶつかる例のアレ。指に引っ掛けて手繰り寄せ、バッグから取り出す。ブランドも、色も、形も全く同じもの。スポーツ用のヘアバンド。

    「それ、」

    「うん、西谷はこういうのあんまり使わないだろうけど、」

    言いながら、西谷の手首に引っ掛ける。くるりと捻って、もうひとつできた輪っかに自分の手首を通す。

    さあ、これで、繋がった。

    捕まえた。

    「髪の毛伸びてきたら、使ってよ。」

    「、」

    驚いた顔。
    そしてまた赤くなる顔。
    耳まで染まる様子。
    可愛いね。

    「オソロイ。」

    ついでに、キスのひとつでも貰おうか。
    舌の先まで冷たくなったそれを、唇へ、そしてその中へ。

    触れた。
    入った。

    西谷は引かないし、逃げない。触れたところがとても熱い。犬神人てこんなに熱いんだ。それとも、西谷が熱いのかな。

    俺の舌、ふたつに割れていないかな。

    西谷ってこんなに唾液多いんだ。小さく声が漏れ始めている。耳に触れると、とても熱かった。

    「っ、ん!」

    「…ああ、耳、感じる?」

    俺の冷たい唇が耳朶に触れる度に、西谷の体が跳ね上がる。声と一緒に、魂元をおさえようとしているのが感じる。柴犬の可愛い尾でも出るのだろうか。耳の中をくるりと舌でなぞってやると、西谷はなんとか動く片手だけで口元を押さえて声を防いだ。

    「んんん、ん!」

    漏れているけどね。
    嫌だったらとっくに殴ってでも逃げているだろうな。それとも、そんなに重種の力ってやつが働いているのだろうか。だとしたら、俺がどうこうじゃなくて、重種とその他の階級というだけの関係になる。でも俺は、今それを求めているようなものだ。西谷の気持ちなんてひとつも考えずに、組み敷いている。

    「………西谷、」

    毎日自分が重種だってことを押さえているというか、忘れて生きているようなものだ。だから俺という個人ではなく、ただの階級の問題だとしたら、俺はこの小さくて可愛い生き物を、どんなふうに触れたらいいのだろう。ただこうしているだけで、見えない力で西谷は逃げられないのだとしたら、ただの暴力でしかない。

    重種だとか、軽種だとか、それを抜きしてみたら、俺と西谷には何が残るのかな。

    それでも、やっぱり、西谷は可愛い。泣きそうになるのを必死に堪えて、全身を熱くさせて、ティーシャツ越しに胸まで立たせて。

    感じてるじゃん。

    「俺のこと、嫌い?」

    嫌いだったら、乳首なんて立たせていない。

    嫌いだったら、生命維持の為に体温なんて貸さないよな。犬神人なんて、他にもいるんだ。それだったら、別に犬神人じゃない大地やスガだっていい。でも、西谷は自分から頷いて手伝いに来たんだろう?

    その理由が、知りたいんだよ。

    「…好き?」

    俺は好きだよ。
    可愛いところも、強いところも、耳は弱いってところも。
    みんな好き。

    別に好きでいて貰えなくても。

    俺は勝手に、好きだから。

    「嫌いじゃなかったら、それでいいよ。」

    重種の力だけで、そんなふうにさせているだけのことでも。嫌だって言葉を発しないうちは、俺はこの悪戯を止められないかもしれない。

    割と真剣な、悪戯。

    もう一度、キスを貰って。
    それでも応えてくれるから、調子に乗ってまた舌を入れる。ヘアバンドで繋がった手と手を握ってみる。

    嫌がらないから、俺もマーキングさせてもらおうかな。

    首筋から出るフェロモンを、西谷の首に擦り付けるように肌を合わせる。ついでに西谷の匂いもたっぷり吸って、胸にしまい込む。

    「…く、ふっ、」

    西谷、泣いてた。無抵抗な軽種を組み敷いて、力で捩じ伏せて、泣かせている。欲しかったものを刈り取る。

    俺のものって匂いをつけて、教室に返す。

    好きな人がいるのにね、西谷、その子に嫌われたりするのかな。そしたら、俺は西谷に恨まれて、嫌われるのかな。

    いいよ、卒業まで、あと少しだから。

    それじゃあ、西谷のあと一年は、どうしてくれるんだ。

    今の俺には、無責任にも程がある。

    だから、俺のものになってくれたいいのにっていう暴論にしか行き着かないんだけどね。なんだか、それ程に、西谷が欲しい。

    欲しいな。

    「ごめんな。」

    謝って、触れるだけのキスをして、手首を解放して、抱き締める。起こした体はぐったりとしていて、俺の体にのしかかっていた。息を荒くして、涙を零して、唇を噛んでいる。

    悔しいよな、こんなにされて。

    嫌だったよな。

    「嫌だったら、教室戻って。」

    西谷は何も言ってくれない。けれど、俺の腕の中から出ようともしない。西谷は今、何を思って、何を考えているのだろう。わからない子だな。

    行為をするのは、好意を持つのは、きっと何かきちんとした言葉が必要なんだ。けれど、今の俺たちにはその言葉がひとつもない。確かな気持ちと言葉が、俺たちの間には存在していない。

    それでも、この腕を離せないことも、この腕を離さないことも、何なのかな。

    西谷。

    教えて。

    西谷片手には、ヘアバンド。片手には、俺の背中。もうそれが、答えでいいと思っていいかな。

    「二時間目までの残りの時間、もう少し、一緒にいてくれる?」

    「……はい。」

    自惚れてもいいかな。好きな子のことは諦めて、俺に負けてくれるかな。

    「ありがと。」

    鱗が緩む。
    西谷にわけてもらった体温で、ヒグマが目覚める。小さな西谷の体を出来るだけ優しく包んで、背中に鼻を押し付けて、背中の匂いを吸い込んだ。汗の匂い。柔軟剤の匂い。

    それから、あの匂い。

    「旭さん、」

    香ばしくて、甘い、あの匂い。

    首と首を合わせるように、少しだけ擦り付けて来る。それはまるで、子犬の戯れ。

    けれど、ゆらりと見えた魂元は、もっと大きく、もっと「高貴」なものだった。

    「いい匂い。好きだな、これ。」

    もっと欲しくて、首筋を合わせて強請る。西谷の肩がぞくぞくと震えるのがわかる。そのままキスを貰って、西谷は出てきた魂元の耳を隠すように手で押さえた。その手を剥がす。
    現れたのは、柴犬の可愛いあれなんかじゃない。それはまるで、狼のような、長く立派なもの。

    「…西谷、お前、」

    「…、」

    日向が言った、「高貴」な理由。

    それは、西谷の魂元が、ニホンオオカミだったからだった。











    続くのかは知らない。
    個人的には満足です。

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    Replies from the creator

    小栗ビュン

    DONE東西真ん中バースデー!!
    大人時代からさらに十年後の東峰旭とモブ女子の会話。
    十年後のバースデー「東峰さん、お疲れ様でした。」

    春の新作の発表を無事に終えることができて、そのお披露目ショウが終わった会場でただ立ち尽くしていた時だった。後輩の女子社員から労いの言葉を貰い、ふと我にかえる。

    「ありがとう、細かいところも手伝ってもらえて、本当に助かった。」

    いつの間にか後輩が出来て、追い抜かれたりする焦りも感じて、あっという間の十年間だった。ヘーゼルナッツのような色の柔らかい髪が、微笑んだ際に揺れた。

    「お疲れ様でした、先輩。」

    「ありがとう。」

    それからちらほらと後輩がやってくる。片付けを手伝ってくれる事務所の後輩達を見ていると、つい最近まで一緒にコートの中にいたあいつらを思い出す。あの時から、倍の年齢を生きている。三十代はあっという間だなんて言うけれど、全くその通りだった。俺は最初に入ったデザイン事務所に籍を置きながら、フリーの仕事も手がけて生きている。アパレルデザイナーだけあって、皆個性的な服で働いている姿を見ると、あの二色で統一されたユニフォームを着た排球男児が恋しくなるのは何故だろう。大きな仕事を終えた日に限って、何故懐かしむ感情が強くなるのだろう。
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