【HQ】書きかけ「俺に遠慮しねえでいいんですからね」
サンティアゴに着いてすぐ予約していたホテルにチェックインし、スーパーで買い漁った食事を小さなテーブルに広げたささやかな晩ご飯。互いのビールの瓶をぶつけて笑いながら乾杯を唱えた直後の西谷の言葉に俺は戸惑った。
「なんの話?」
「せっかくの旅行なんだし。旅先でいい出会いがあったら俺のことは気にせず楽しんでくださいねって言ったんです。……でも連絡はくださいよ。何かあったら困るから」
だから何の話だよ、と再度口にしかけて思い出す。
レジで西谷が会計を済ませるのを待っていた時、溌剌とした女性二人に声を掛けられた。世界ツアーに繰り出してから日本語と英語以外の言語で話しかけられるのにもだいぶ慣れたとはいえ、何を言っているのかまではさすがにまだわからない。笑顔でやんわり首を振れば彼女たちは笑って手を振りながら去っていったけど、今思うとあれは何らかのお誘いだったのだろう。何の用だったんだろう、と去っていく二人を見送る俺のところに会計を終えて駆け寄ってきた西谷には、彼女たちの意図がわかっていたのかも知れない。
そう思い至ってから、俺は慌てて首を横に振った。
「無理無理。知り合ってすぐの人とだなんて俺にはハードル高すぎるって。第一いまは観光客なんだし、どうせすぐにお別れすることになるだろ」
「一夜のランデヴーってやつでもいいじゃないですか。もったいねえ」
「そういう西谷はどうなんだよ」
しつこさにいささかムッとして問い返す。彼はからりと笑うと「俺は、当分はそういうのいいや」といった。
「当分って……えっどういうこと?」
「お付き合いってやつですよ。北極行く前に別れちゃいました。俺が間借りする形で同棲もしてたけど、セフレみたいなもんだったし」
「彼女いたのか」
「今回の人は彼氏の方ですよ」
矢継ぎ早に飛び込む初耳の情報にくらくらと眩暈がする。美女のマネージャーだった同輩を全力で慕っていた後輩の姿が一気に過去へと遠のいてしまったようだった。
「西谷、ゲイだったんだな……」
なんでそんな重大そうな顔するんすか、とけらけら笑って西谷はチャーハンを掬いながら首を傾げた。
「その前までは女の人と付き合ってたし、俺の場合はバイになるんじゃないですかね。よくわかんねえけど」
「意外だなあ。お前、清水大好きだったし、しょっちゅう女の子に騒いでただろ」
〜以下詰まってる〜