七ツ森とギャルの修学旅行修学旅行の自由時間。人によっては一大イベントで楽しみで仕方がないだろうが、人によってはとにかく憂鬱。俺の心境は言わずもがな憂鬱だ。
(小波…はどうせカザマが声かけるだろうし、となるとダーホン…は俺一人じゃ無理だ)
モデルのNanaだとバレないようにあまり関わりを作らないように生活している弊害か、他に一緒に観光するような人は思いつかない。長崎という土地に興味があるわけでもないから適当にブラつけばいいかと考えたけれど、修学旅行という大義名分があるからレポートのことを考えるとそうもいかない。修学旅行で一週間空けることもあって、直前まで詰め込んだ撮影スケジュールのせいで下調べもろくにできていない。
いっそのこと強制的に班でも組まされればラクなのに、と一足先に修学旅行を終えたらしい中学の友達の話を思い出して思う。さすが名門と呼ばれるだけあって、こういうところでも生徒の自主性を尊重という名の自由行動が許されてしまうのがはばたき学園の弊害か。これを弊害だと思っているのは多分俺だけだけど。
「あ、みのくんじゃん。一人?なら一緒に回ろーよ」
諦めて一人で出ようと入り口に足を向けた瞬間、気怠げな声がして足を止める。
聞き慣れた同じクラスのアイツ。丁寧に巻かれた長い髪に、ガッツリ盛られたアイメイク。はば学生にしては珍しくギャルと呼ばれる分類で、関わらないよう目立たないように生活していたはずなのに何故か俺は絡まれて続けている。何度やめてくれと言っても流される『みのくん』呼びにはもう慣れてしまった。
声をかけられたところでもう不思議ではないレベルにはなっていたけど、先週あたりに話していた内容を思い出した。
「あんた友達と回るって言ってなかった?」
「なんか先週彼氏できたらしくてさ、さっき『彼氏と回るからごめん』って。おめでたいけどタイミング今?って話ー」
直前のドタキャンなんて怒ってもいいだろう案件なのに、当の本人は気にしていないのかカラカラと笑った。マジでギャルの思考回路はわからない。まあ、なるべく人と関わらないようにしている俺と違って、その場で声をかければ大抵のグループには混ざれるだろうから大きな問題じゃないのかもしれないけど。
「みのくん見かけてラッキーと思って声かけちゃったけど、誰かと回るなら断ってくれていいからね」
こういうところが憎めないなと思う。一方的に絡まれてはいるけど、ちゃんと引き際を弁えている。無理強いはしないし、ちゃんと察せられる。つまりは一緒にいて嫌なことはないわけで、まぁいいかと頷こうとして口をつぐむ。
「他校の彼氏がうるさいんじゃなかった?」
「あー、別れた」
「は?展開早くない?」
記憶が正しければ「男友達といるだけなのにうるさいんだよね、自分は女友達と遊ぶくせに」と愚痴をこぼしていたのは先週の話。彼氏がいるなら、というかそんな彼氏なら男と二人で回ったとなると厄介なことになるんじゃないかと聞けば、間髪入れずにダルそうな返事が返ってくる。
「よく考えたらさー、あんなんに時間取られるのダルない?嫉妬はいいけど一方的に強いてくるのは愛じゃないじゃんね」
「それはなんとも…」
だったら初めからそんなやつを選ばなきゃいいのに、そう言ったところで返ってくるのは「それなー」の一言なのは予想ができるので言葉を濁す。
話を聞いている限りでは最初はそんなことないのに徐々に彼氏側の態度が変わっていくらしい。男運が悪いのか、はたまたコイツの態度に安心してそう変わってしまうかはわからないけれど、どっちであっても別れて正解だとは思う。
「ま、そーゆーことだから一緒にど?」
「まぁ、いいけど」
「まじ感謝ー。とりま映え狙ってこ」
そうなれば断る理由もないので頷けば、楽しそうに笑う。いつもと同じ。絡まれたなと思えば、結局絆されてまぁいいかとこっちが折れている。
まぁ、さっきまでの憂鬱がなくなったことを考えればこういうのもアリかと考えているあたり、だいぶ絆されているんだろう。