1日1K暁②11
橙から濃紺へ変わる空を、隙間を開けた窓越しに眺める。手元からふわりと上がる白煙が外へ流れて消えた。夢を見ていたような気がする。KKと二人、なんてことない日々を過ごして夜を迎える、幸せの日常を。
吸えもしない煙草を小さくする赤い光をぼんやり見つめる。冷えた風が煙をたなびかせていた。
『幸せの終わり』
(白昼夢のような)
12
通り雨に降られじっとりと湿ったTシャツを脱ぎ、洗面所の籠に放おる。お風呂先入る?と聞いてくるアイツに返事ができない。上裸でタオルを頭から被った暁人が首を傾げた。むき出しの肌に雫が伝い、胸から臍、その下へ流れ落ちていく。無意識に喉を鳴らすと、脱衣所に鍵をかけ暁人を浴室に押し込んだ。
『据え膳食わぬは男の恥、だし?』
(言い訳)
13
手を引いて歩く男に見覚えがある。曖昧な記憶の中、自分はこの男と一緒にいたような気がしたが、何故か不安が拭えない。何処へ向かっているのだろうか…本当にこれでいいのか。突然後ろから腕を掴まれ、男から引き剥がされる…同じ顔の男だ。腕を掴む男が顔色を変えずこちらを見ている男を睨み言った。
『お前ごときに、救えるものか。』
(2つの欲)
14
「おやすみ」
「おう」
欠伸を噛み殺しながらした間の抜けた返事に暁人が笑う。このあと課題をするらしく、先に寝ててという言葉に甘えベッドに倒れ込む。程よい疲労感に促されるまま目を閉じた。
「…もう1日」
暁人は古い懐中時計を逆さに回しながら小さく呟く。気づくと空は茜色に染まっていた。
『真実って必要ですか』
(繰り返す幸福)
15
ひと仕事前の腹ごなしも済み、食休みにお茶を啜って聞き流していたテレビに意識を向けた。どうやらバディもののようで、信頼し合った相棒同士の連携アクションが見事だ。洋画ならではの軽快な軽口に、ふと真似したくなって隣でスマホを見ていたKKに、演技がかった声音で話しかけた。
『えっ、俺がハニーなの?』
(予想外)
16
「暁人くーん、お口開けな」
「嫌だ!」
「ほれ隙きあり」
無遠慮につき入れられ咳込み、楽しそうに見下ろしてくるKKを睨んだ。
「オマエまだ若いんだからいけるだろ。あの夜はもっといってたじゃねえか」
「ムグ、ンッ…今日はもう無理なんだってっ」
「そう言ったって本当は欲しいんだろ?三色団子」
『素直に言えよ!』
(紛らわしい)
17
両親、思い出の物そして妹たくさんのものをオマエは失い、今頼れるのはオレだけだ、そうだろ?疲れたなら寄りかかれオマエ一人くらいじゃ倒れやしねえよ。背を押して欲しいならそうしよう。甘やかして欲しいなら抱きしめてやる。だから必ずここに帰って来い。悩みなんてすぐどうでもよくなるからな。
『愛が歪んだ』
(独占欲)
18
「戻った」
「ん?…一人?」
「今日はいつもの巡回だけだから先に行かせた。本当はまだ一人は早いと思うんだが、アイツがどうしてもって言うから仕方なくだ。戦闘はまだ良いが俺がいないと知識面で心許ないらしくてな、やっぱりオレがついててやらねえとだめだな」
「…暁人くんも大変ね…それで?」
『惚気はいいので、用件を』
(満更でもない)
19
異様に白く長い腕が暁人を貫いた。崩れ落ちる体を支え、片手で火のエーテルショットを連続で撃ち込む。核が消えていくのを見届けることなく暁人の体を抱えて走り出した。徐々に冷えていく命を強く抱きしめる。
駄目だ、まだ終わるな。頼む!オレの力でも命でもなんでもくれてやる。だから、だから…!
『いくらでもくれてやる』
(懇願)
20
首筋に唇を這わせ、耳に口づけると、肩を震わせる暁人の濡れ羽色の髪がシーツに散らばった。恍惚とした表情をもっと蕩けさせたくて、ゆっくりと焦らすように下腹部を優しく撫でる。
すると暁人は首に腕をまわし、首筋に顔を埋めた。
「焦らすから…仕返し」
歯型を指先でなぞって暁人は小さく笑った。
『飼い犬に手を噛まれる』
(仕返し)