本丸夜11時【くわぶぜ】さりさりと音がする。
さりさりさりさり……。
少ししてパチン、パチンと乾いた破裂音。
俺は立ち尽くしたまま、その音を少しだけ緊張した面持ちで聞いている。
「何……」
「いや……別に……」
さりさりさりさり……
パチン、パチン
俺は無意識にゴクリとつばを飲み込んだ。
「もう、ただつめ切ってるだけで、そんなに熱っぽい目でみやんといてよぉ……」
桑名はなんか恥ずかしいやん、と後ろを向いてしまった。
夕食後、風呂に入り部屋に帰ってきたらすでに布団が敷かれていた。桑名が敷いてくれたのだろう。
ふたり用の大きな布団がひとつ。意味ありげに掛け布団はよけられている。
机の上には水のたっぷり入った水差し。
大きめのタオル。
枕元に置かれたジェルの入った小瓶。
整えられたシチュエーション。
そして明日は二人とも非番……。
そんな夜に桑名は布団の上でゆっくりじっくりと爪を切っている。
その意図することがわかりすぎるくらいにわかってしまって俺は……体の奥が嬉しそうに悲鳴を上げるのを必死で抑えた。
「よし、良いかな。」
桑名の声に俺はびくりと体を震わせる。
ゆっくり、桑名が振り返る。
俺は……いったいどんな顔をしているのだろう。
「豊前……おいで……」
息が詰まって返事は声にならなかった。
体だけがのろのろと桑名を求めてすすんだ。
「だいぶ、お待ちかねみたいだけどね、もう少し待ってね。」
「……何?」
桑名は抱きかかえるようにして、俺を膝の上に座らせると俺の手を握り……。
パチン、パチン、パチン……
爪を切られた。
「ネコじゃねーんだけど?」
むぅと膨れる俺の頬に桑名がチュッとキスをする。
「僕の背中だって痛いんだよ。今日はいっぱい楽しみたいんでしょ。」
だから、もう少し我慢してね。
耳元で囁かれる声。キレイに切りそろえられた爪。そのごつごつと節くれだった男の手に、俺の腰はすでに砕けそうだった。