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    dakkokumai

    手直しした話と🔞

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    dakkokumai

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    ⚠同級生学パロ(高校生?)
    💜+🧡メイン。💙←❤️←🧡描写あり
    前垢で書いた泡沫のピエロ+続き
    キャラ解釈違いすみません。

    泡沫のピエロ 横断歩道の白いところ以外を踏んだら死ぬ。
     小学生の時に流行った遊び。どこからか現れたルール。
     ミスタも他の子と同様、楽しそうにその遊びをしていた。もちろん僕も一緒に。
     初めてその遊びを知った時、我先にとミスタは軽やかに白い線の上を跳ねた。渡りきった先は、コンクリートの黒。他の友人たちは躊躇していた。それはそうだ。ルールは白い所以外は死、なのだから。
     一度立ち止まったミスタも、そのまま立ちすくむだろうと。僕を振り向いて、どうしようシュウと言って助けを求めてくるだろうと思った。幸い車通りの少ない、信号機のない道だったので僕はゆっくりと歩いていた。あと少しで追いつくので、声をかけようとしていた。遊びはここまでだと。しかし予想を裏切り、ミスタはそのまま地面に降り立った。オレンジのランドセルが楽しげに上下する。そうしてこちらを振り返って笑った。
    「あーあ。死んじゃった」
     ゾッとした。
     遊びであろうとも、死は死だ。いとも簡単に彼は死んだ。
     ちょうど良く車が通りかかり、ミスタが先に黒いコンクリートに降りていたため、みんな次々と白線を降りていく。ミスタが一番最初に死んじゃったね、なんて年下の女の子が笑った。しょうがないなミスタは、弱いなあ。口々に笑いながらミスタに掛けられる言葉。だって白線がないならしょうがないじゃん。ふざけて小突かれ囲まれるミスタ。僕は輪から少し離れたところで、苦々しくその様子をみていた。
     幼心ながら思った。きっとミスタは、目を離したら泡のように消えてしまうだろう。
     彼は根は真面目だ。けれどどこか危うい。例えば綱渡りをしていたとして、必死に人並みには生に執着しているとしよう。しかし他人が後ろや前で落ちかけたら、いの一番に綱から降りてしまいそうだ。それも、笑顔で。自分の価値は他人よりも低いと言外に物語る行動を、時たまするのだ。
     この時から、僕の中でミスタに関する印象がガラリと変わった。
     ミスタは中々に型破りな性格をしていた。最初は大人しいが、慣れくると破天荒な言動が顔を出してくる。人が笑っているところが好きらしく、よくおどけた行動を取るので、いつの間にか中心にいるタイプだ。
     無茶振りをされ、失敗してもミスタだからと許されるが、したくない事もしなくてはならない。関係の無いことも関わりがあったことにされる。良くも悪くも何かあると直ぐに名前を呼ばれる。それがミスタだ。
     調理実習でフライパンを焦がして笑われ、放送委員を引き受け噛みまくり下ネタを言い、上級生との喧嘩の原因になり怒られる。はたから見たらとんだトラブルメーカーだ。
     実際の調理実習は、同じ班の友達が火力をいじってイタズラをしていた。放送委員はクラスメイトの大人しい女の子が押し付けられそうになっていたので、ミスタが立候補した。上級生との喧嘩は、近くにいたミスタは巻き込まれただけだ。彼は止めようとしていたのに。何故かミスタの所為になっていた。鼻血を流し、膝を擦りむいて下校の待ち合わせ場に来たミスタに、僕は度肝を抜かした。慌ててポケットからティッシュをだして、彼の鼻を抑える。
    「どうしたの、その怪我っ」
    「ちょっと転んだだけ」
     困ったように笑うミスタ。深く聞いて欲しくない様子に僕はただ、きちんと足元を見なくちゃ駄目だと言うしかできなかった。聞いてこないことに安心したのか、彼はため息をそっと吐いていた。
     後日、伝わってきた噂に僕はミスタにどういう事だと、問い詰めてしまう。放課後の誰もいない教室に、僕の声が反響する。膝小僧を覆う大きなパッドの白が痛々しい。怒りに顔が熱い。全く関係ないはずのミスタが、何故原因になっているのか。きちんと先生に話さなくては。職員室に行こうと足を踏み出すと、左の手首を掴んで止められた。
    「ミスタ! 手を離して!」
    「シュウ、オレなら大丈夫だよ。だいじょうぶ、だから」
     せっかく、あの二人仲直り出来たんだよ。
     震えた、水分を含んだ声音。手首を両の手でぎゅう、と締められた。主要の二人の仲が直ったからなんだと言うのだ。全く関係のない人間の犠牲の上に再構築された友情など、なんの値打ちもない。きっとまた壊れる脆い関係だ。きりきりと自分の目がつり上がっていく感覚がする。離してと怒鳴ろうとした所で、弱々しい声が僕を刺した。
    「オレの所為で、で終わるなら、それでいいよ」
     なんで、笑うんだ。
     大粒の涙を流しながら、自分の犠牲で終わるなら。そう言うのか。痛いのに、悲しいのに。誤解されたままでいいと。
     まるで、道化だ。ピエロだ。周囲の人間に利用され、踊らされ、賑やかしにされるピエロ。
     ぼろぼろと泣き続ける小さなピエロを抱きしめる。まだ十を超えたばかりの子供が、どうして容易く自己犠牲ができるのか。
     目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとする。肩口が濡れる感覚がするが、きっと僕の涙も相手の肩に染みているだろう。
     本当は繊細で、脆いくせに。優しい人間は、あまりにも儚い。
     彼は、泡沫のように消えてしまうピエロのようだと、僕は思った。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     よくある雑談の中、死ぬなら何番目がいいか、そんな話題があがった。高校も一緒になったミスタと僕は、グループから少し離れた机に座っていた。クラスメイトが俺は最後がいい、私は真ん中、と言い合っているところで、窓の外をぼうっと眺めていたミスタに振られた。
    「なあミスタ。お前は何番目がいい?」
    「え、なに」
    「友達の中でさ、死ぬなら何番目がいい」
     何だそれ、と言いつつ、ミスタは考えるように顎に手を当てた。熟考するかと思ったが、いつも通りの笑顔で言った。
    「死ぬならオレは一番最初か一番最後がいい」
    「あー確かにミスタは一番最初に死にそう」
     シュウもそう思わない? クラスメイトに振られ、一瞬口を噤む。酷い話題だ。
    「…….そう、だね。すぐに消えてしまいそうだとは、思うよ」
     答えれば、僕たちの近くにいたルカとヴォックスとアイクも話題に入る。三者三様の答えが返ってきた。
    「ミスタは消えてもまたひょっこり出てきそう!」
    「殺しても死ななそうじゃないか、こいつ」
    「そうだね。なんやかんや生きてそうだけど、死ぬ時はあっさり死ぬかもね」
     そして本人は。
    「まぁ、運が悪くて死ぬんじゃない? オレの事だから」
     ことも無いように、ミスタは言ってのけた。あまりの興味の無さに、悲しさと怒りが湧いた。
     チャイムが鳴り、慌ただしくクラスメイトは席に着きはじめる。ミスタは変わらず、窓をただ眺めていた。ざわめく周囲に、彼一人だけ取り残されているような風景だった。
     学校が終わり、いつも通りミスタは僕の家に来ていた。ベッドに寝転び、漫画を読んでいる。宿題を終えたので、ミスタの足側の空いている場所に腰掛けた。ずっと言いたくて溜めていた言葉を口にする。
    「ミスタ、なんで一番最初がいいって言ったの」
     不思議そうにして、肩越しに顔を向けられた。
    「なんの話?」
    「今日話してたでしょ」
    「ああ。まぁ、後腐れないと思って」
     隣を二回叩くと、座れという意図が伝わったらしくのそのそと起き上がる。這うように近づき、胡座をかいた。くわり、欠伸を一つ。真面目に取り合う態度ではない。
    「どういうこと。ちゃんと話して」
    「えぇ……。んー。一番最初ならさ、忘れられるのも早いでしょ? 時間が経てば経つほど思い出になる。最初にいなくなれば、誰も気にしなくなるし」
     答えに愕然とした。どれだけ彼の中の自分の存在価値が低いのだろう。
    「じゃあ、一番最後はなんで」
    「ほんとは一番最後がいいよ。みんなを見送って、待っててもらえる。誰もオレなんかの為に泣かなくて済むし」
    「オレなんかって」
     言葉を被せるようにして言い放ち、ミスタを見る。なんのことはない通常通りのミスタだが、僕にはずっとどこか感情が抜け落ちているように思えた。
    「なんかって、言わないで。僕の大切な人を、蔑ろにしないでよ」
     目を瞬きせずに真っ向から見れば、ミスタの特徴的な瞳が揺らいだ。親を探す迷子の子供のような、心細さに泣き出す寸前の幼子のような顔。何層にも塗り固められたミスタ・リアスの外側が、ほんの少し剥がれ落ちる。なにも答えないミスタが、今にも消えてしまいそうで、シーツに置いていた彼の右手に左手を重ねる。
    「君は、何も言わずに急にいなくなりそうで、僕は怖いんだ」
    「シュウ」
    「いなくなる時は、僕には言って。自分の存在を軽く扱わないで。君がいなくなって、悲しんで、探す人間はここにいるんだから」
     僕達、親友で兄弟だろ。
     本当の兄弟ではないけれど、幼稚園から一緒だった。二人は本当の兄弟みたいだと言われ、喜んでいたミスタ。シュウは親友で、兄弟だ。君が言ってくれた言葉だよ、ミスタ。僕も嬉しいよ。僕の、大切な片割れ。
    「そうだね。シュウには、言うよ」
    「約束だよ」
     小さい頃のように指切りをしなくとも、違えることがないことを願っている。
     ミスタは足を伸ばし、僕と同じようにベッドのへりに並ぶようにして座った。擦りつくようにして、肩に頭を預けてきた。僕もミスタの頭に頬を寄せる。温かい。生きている。
    「大好きだよ、シュウ」
    「……僕も、大好きだよ。ミスタ」
     だから、置いていかないでね。という言葉に、ミスタは静かに目を細めただけだった。
     
     
     ○○○
     
     
     
     人が恋に落ちる瞬間を見た。
     映画のようだと思った。
     文化祭の出し物で、ステージの上に立つアイク。風が黒髪を攫って端正な横顔が現れる。視線を釘付けにするヴォックスの瞳が、伸びやかな歌声が響く中緩やかに開かれていく。徐々に興奮に染まる頬。上がる口角。突如、金が桃色に蕩けた。
     これが、恋に落ちた人間。
     同時にオレの中のナニかが弾けた。
     目の前が発光したように白む。音が止んで、ステージのアイクとヴォックス、そして空気のようなオレしかいない空間ができた。心臓が波打つように鼓動を打って、体を揺らす。ヴォックスの唇が名前を形取った。
     アイク。
     ガツリ、右足の甲に衝撃。バウンドしたのかガツンと床にそれは落ちたらしい。はっとして下を見れば、スマホが足元に転がっていた。震える右手に、滑り落ちたらしいと理解した。周りにいた数人は振り返ったり横目で見やってきたが、数秒でステージへと意識が戻っていく。
     腰を折り曲げ、スマホを拾う。指の先が冷たくて、二回空をかいた。やっとの事で手に収め、真横を見上げる。相変わらず綺麗な鼻筋は正面を微動だにせず向いていた。
     自分の中心が痛い。心臓だろうか。それよりも奥深くが握りつぶされるように苦しくて、鳩尾辺りが切ない。
     これはもしや、失恋というものか。よく恋に敗れると心に穴が空いたような、空っぽになる表現が使われるが、違う。
     無だ。
     器すら残らない。凍りついてひびが割れて塵になる。
     この時、オレの一部は跡形もなく消えた。
     
     
     
     
    「見て、ヴォックス先輩とアイク先輩! かっこいいー!」
    「今日も美人だわ」
    「顔がいいー。あ、あの噂って本当なのかな」
     心地よい空気が舞い込む窓際。 きゃらきゃらと高い声がさざめく。二人組らしい女子は窓の外でも見ているのだろう。廊下を歩いているオレの友人を見つけ興奮しているらしい。放課後は生徒の気を緩めるので、女子二人はテンションが高い。
     噂という言葉に、微睡む意識が引っ張られる。突っ伏している腕を動かしてしまいそうになり、深く息を吐いて誤魔化した。
    「噂って、二人が付き合ってるってやつ?」
    「そうそれ! どう思う? あたしは本当だと思うんだよね」
    「えーどうだろ。まあヴォックス先輩は分かりやすくアイク先輩のこと好きだよねー」
    「でしょでしょ! 絶対付き合ってるって!」
    「うーん。私ミスタ先輩とヴォックス先輩の組み合わせが好きだな」
     言いたい放題の会話。オレに気づいていない二人の会話は盛り上がっていく。頭を乗せている重ねた腕に爪を立てた。食い込む鈍い痛みが、自分が今ここにいることを教えてくれる。
    「ええ! ミスタ先輩もいいけどさー、正直お似合いなのはアイク先輩じゃない? 綺麗で優しいしさ、ヴォックス先輩も態度違うじゃん」
    「そんなのこっちの見え方でしょ、」
    「君たち」
     清涼感のある声が場の雰囲気を変えた。苦笑気味の柔らかい声音が諌める。
    「ここは図書室だよ。もう少し小さな声で話してね」
    「しゅ、シュウ先輩っ。ごめんなさいっ」
    「私たち帰ります煩くしてすみませんでした!」
     ばたばたと走り去る音が小さくなっていく。真向かいからぎぃと椅子を引きずり、腰をかけた気配がする。腕は冷えているのに熱く、手のひらは汗をかいていた。尻の上あたりに力を入れてずるりと起き上がる。目を閉じていても陽の光が瞼を通して明るい。ぼやける視界に見慣れた紫が見えた。ずっと眉を寄せてしまっていたらしく、眉間が疲れていた。
    「Good morning。珍しいね、ミスタがここにいるの」
    「……図書室ではお静かに、じゃないのかよ」
    「誰もいないからいいんだよ」
     しれっと答える親友は涼しい顔で本のページをめくった。先程下級生を注意した先輩とは思えない言い分だ。
     ぼうっとする頭で窓を見る。眉根を寄せた不機嫌そうなミスタ・リアス越しに、笑い合う友人二人。映画の観客の気分だ。
    「うわさ……」
    「うん」
    「本当だよな」
    「ヴォックスがアイクに片想いしてるって所がね。一回振られてるけど」
     感情の乗らない、ただ事実を口にするシュウ。分厚い本を長い指で支えている。オレならその本を読んで数分で寝てしまうだろう。
    「オレってさ」
    「うん」
    「もしかして、邪魔なのかな」
     パタン。紙の束が閉じて空気を吐き出す。返事が返ってこないので体を元の位置に戻す。シュウから温かみが抜け落ちた、怖いくらい冷たいマネキンが座っていた。
    「君が邪魔? 誰が言ったんだよ」
    「う、まあ」
     三人で歩いていると入ってくる会話。アイクとヴォックスだけなら絵になるのに。聞こえよがしに言ったのかもしれないが、やけに心に刺さった。納得できるから怒りは湧かない。そうかと、受け入れただけ。
     そんな中、クラスメイトに振られた話題。友人の中で死ぬなら何番目がいいか。自分の扱いは承知している。弄りやすい、軽い存在。場を盛り上げるピエロ。だから最初か最後に死にたいと答えた。我ながらできた回答だ。
     ただ、恋愛映画にピエロは必要ない。求められるのは少しのスパイス。当て馬だ。適度に意中の二人を掻き回し、頃合いを見て退場する。
     分かってはいても、殺しても死ななそうと言われたことが結構きているようだ。
     なら、死んだら泣いてくれるのだろうか。オレではない人に心を砕く彼は。いや、きっと悲しんではくれる。失って耐えられる存在か、そうじゃないか。それだけ。そうやって現実を垣間見て時々、泡のように消えてしまいたいと思うんだ。
    「なあ、オレが死んだら泣いてくれる?」
     首を傾げて笑顔を作る。きっとシュウは驚きながらも泣くに決まってるだろうと言ってくれる。優しい彼を困らせるのは分かっているけれど、聞きたかった。オレの為に泣くと言ってくれる人を確かめたかった。
     バンッと辞書のようなハードカバーの製本が叩きつけられしなる。テーブルが若干ずれた。
    「……何を言ってるの。僕を馬鹿にしてるの、ミスタ」
     マネキンに、怒気が渦巻いて吹き込まれた。
     シュウは怒っているのか。シュウが怒りを見せたことは、幼少期の頃から数えても数回だ。怒ったとしても、注意のような言葉をかけるだけ。もし本気で怒り、声を荒らげ罵詈雑言を投げられたらオレは漏らしてしまうだろうと、思っていた。
    「暫く、君と話したくない」
     本気で怒った彼は、静かでそれでいて燃え上がる炎を内に抱えるタイプのようであった。
     つり上がった目のまま、ガタンと勢いよく立ち上がったシュウはオレに見向きもせず歩き出す。買い物中に置いていかれる子供のような気分になり、オレも大急ぎで立ち上がり小走りに追いかけた。オレが後を着いているのを分かっているはずなのに、シュウは振り向かない。いつもなら立ち止まって待ってくれるのに。
    「シュウ! 帰るならオレも」
    「帰らない」
     伸ばした手が振り払われた。身を捩るようにして拒絶される。
    「今日は一緒に帰らない。一人で帰って」
     シュウはオレに一瞥もくれず、足早に去っていく。
     ぶつけられた訳でもないのに、振り払われた行き場のない手がズキズキと疼いた。
     
     
     
     
     翌日、オレはシュウに避けられ続けた。
     朝迎えに行けばもう出たと言われ、休憩時間は毎度いない。昼食もどこかに行っていて、廊下で会うと顔を逸らされた。ルカから喧嘩をしたなら早く謝った方がいいとアドバイスを受ける始末である。なんでオレが悪いって決めつけるんだ。その通りだけれど。
     放課後、やっとシュウの後ろ姿を捉えて、こっそりとつける。立ち止まったところで謝る作戦だ。シュウは迷わず一定の足取りで階段をどんどん登っていく。ギィィと重く錆び付いた扉を開き、吸い込まれる。オレも扉を開けると、長い髪を靡かせた親友が佇んでいた。声をかけあぐねていると、ミスタと呼ばれた。
    「ついてきたの」
    「っシュウ! 昨日はゴメン。オレ、シュウを怒らせるつもりはなくって、」
    「それは何に対して謝ってるの。僕がなにに怒ってるか、分かる?」
     抑揚のない問いかけに言葉が詰まった。後ろ向きな愚痴を零したからだろうか。死、を冗談のように持ち出したからだろうか。心当たりが有りすぎて答えられない。
    「ミスタ、いなくなるつもり?」
    「え、いや、まだ、」
    「いなくなる時は僕に言ってって、前に約束したよね」
     シュウがおもむろに見返った。長いまつ毛に縁取られた瞳が悩ましげに細められる。睨まれているとも言うかもしれない。
    「まだってことは、いずれ僕らの前から消えるつもりだね」
    「そんなこと」
    「昨日から考えてたんだ。君は約束を守らず消えるだろうって」
     だから先手を打つことにするよ。
     シュウは言ってフェンスへと進んでいく。一箇所低くなっている柵を乗り越えると、向こう側へと親友は降り立った。
     オレに向かって、手が差し伸べられる。
    「選んで。僕とこれからを生きるか、僕と今死ぬか。これからを生きるなら、君のそばにずっといる。捨てるなら、君と君の恋心と一緒に僕も逝くよ」
     選んで。
     オレに選択を迫っているはずなのに、シュウの方がオレに懇願しているように思えた。
    「なんでシュウも一緒なんだよ、オレは道連れが欲しいわけじゃない」
    「僕はミスタと一緒がいい」
    「オレは、……オレはっ、シュウには生きていて欲しい」
    「僕も同じだよ。ミスタに生きていて欲しい。笑っていて欲しい。僕の気持ちが分かった?」
     いつものシュウの表情になる。ほっとするが、シュウはフェンスから動かない。
    「分かったよシュウ。だから、こっちに」
    「僕達親友で兄弟だろ、ミスタ。選んで」
     僕を。
     音にはなっていなかったが、そう聞こえた。
     置いていかれた子供はオレのはずなのに、今度はシュウが置いてけぼりだ。
     ゆっくりと足を踏み出す。秋風がシャツを通り抜けていった。冷気を感じる風に、もうすぐ冬だと知らされる。
     シュウの手を取ってこちらに引っ張るか、オレが向こうに行くか。それは数秒後のオレが知っている。
     今のオレが分かるのは、シュウと一緒にいたいという気持ちだけだ。
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