チルい午後正しくChillという状況でヴォックスとミスタはソファに体重を預けていた。ヴォックスの長ーい腕はミスタの頭を超えて肩に添えられていて、ミスタはそれが当たり前のようにヴォックスの肩に頭を預けてスマホをいじっている。
穏やかな昼下がりだった。アンティークショップで購入した書見台は一目惚れの割に上手く機能している。ヴォックスは空いた方の手でペラリとページをめくった。シェイクスピアは何度読んでも色褪せずじんわり染み込む言葉が心地よくて愛読していた。
ねぇ、daddyと声をかけてきたのはどれほどそうしていた後だったかな。ヴォックスはうん、と短く返事をして本の真ん中ほどに栞を挟んだ。思ったよりも進んでいるからそこそこ時間が経っていたのだろう。今気がついたがミスタの頭を支え続けていた方がじんわりしびれている。
「俺とこうしてて楽しい?」
「楽しいとも、坊やはそうでも無い?」
うんにゃ、そんなこたないけどさ。
ミスタは長いまつ毛を重たげに下げてヴォックスの目も見ずにうーんと唸る。なんとなく落ち込みそうな時かな?理由もなく嫌になることがある子だし、この子の頭の中は全自動洗濯機にパンパンに洗濯物を入れた様子とよく似ているからそんな気分なんだろう。
「坊や、おいで。ハグしようストレス軽減にいいらしいから」
「…ん、」
自分で素直に言えない可愛いミスタを膝の上に乗せて同じくらいの身長だからえらくミスタの視線が上から降ってくるがまぁこの際それはいい。
ヴォックスは優しく包み込みつつ、力強く愛情深くこの細い可愛い恋人を抱きしめた。ミスタはヴォックスの肩に頭をころんと乗せて広いおでこを首筋に埋める。両手は横に力なく垂らしている。ヴォックスを包む気なんてまるでない。
「どうやら少し疲れているかな」
「そこまでだけど、こうされると落ち着くからもうちょいしてて」
ヴォックスはえらく素直になったな〜と上がる頬を内側から噛み締めた。緩んだ顔なんてしてしまえばこの天ノ弱は甘えてくれるのにまた時間をかけてしまう。今回は素晴らしいタイミング芸でミスタを甘えさせるのに成功したものだからヴォックスの喜びは殊更だった。
「抱き返さないのに文句ないの」
「それが愛情表現だと知ってるからね、頼ってくれて嬉しいよ」
ミスタの赤くなった耳にヴォックスはまた反対側の頬を噛み直した。