七風リレー小説④廊下で留守番していた筈の七ツ森の姿がなく、風真は辺りを見回した。がらんと静まり返った廊下には人の気配はない。どこへ行ったと言うのだろう。風真はスラックスのポケットからスマホを取り出し、七ツ森に電話を掛ける。プルルル、プルルル――…、呼び出し音はいつまでも続き、風真は諦めてスマホを仕舞った。着信に気付かないなんて、暇さえあればスマホを弄っている彼らしくない。(もしかして先に下駄箱へ向かったのかも?)そう思い、風真は昇降口へと向かった。
「七ツ森?」
名を呼ぶも、そこには誰の姿もなかった。七ツ森の靴箱を覗き込めば、随分と乱雑に上履きが突っ込まれていて、もう校内に彼はいないのだと風真に伝えている。
「なんだよ……あいつ、先に帰ったのか?」
どこかへ寄っていくかと話していたのに、何故黙っていなくなったのか。風真は上履きを丁寧にしまい、靴に履き替え、校舎を後にする。
――もしかしたら、彼の身に何か起こったのかもしれない。風真は茜色の空を見上げて目を細めた。
そろそろ逢魔時が近い。昼と夜の境目は〝魔〟に出会う時間帯らしい。昔、祖父の書庫にあった妖怪絵巻物を見て知った知識だが、ひょっとしたら彼は、何かわるいものに連れ去られてしまったのかもしれない。だって、何も言い残さず自分を置いていくなんて事、七ツ森ならきっとしない。攫われてしまったのだとしたら、探し出して、連れ戻す他ない。
(どこの誰だか知らないけど、俺の大事なものを奪うなんて――…許さない)
風真は自身の小指を見下ろし、その付け根をするりと撫でる。
先程、彼と結んだ小指の魔法は、まだ生きている。きっと七ツ森の居場所は、この小指が知っている。さっきからずっと引っ張られるような感覚がするのだ。まるでふたりを引き合わせようとするかのように……。
風真は顔を上げ、一歩、また一歩と脚を進める。奈落の底のように、建物や木の影が通学路を暗く覆っているけれど、無敵状態の風真はそれに引き摺りこまれる事なく進んで行く。
小指が導く先に、七ツ森がいると信じて。