明日は買い出しへ買い物に行く日は週に一度と決めている。自宅から徒歩十五分のスーパーは金曜が特売日で、カードで支払うと5%値引いてくれる。一週間分買いだめした食材を小分けにして冷凍し、作り置きのおかずを作っていれば「主婦みたい」と緑の瞳がいつも笑う。
食材がほとんど底をつく木曜は俺の腕の見せ所だった。すかすかの冷蔵庫の中にはシチューの残りとサラダに使ったブロッコリーの残り。冷凍庫の中には食パンとピザ用チーズ。戸棚の中には使いかけのマカロニ。
今日の夕食は決まりだ。残り物を工夫してそれなりの料理に変化させるのは意外と楽しい。まず冷凍の食パンを常温に戻す。その間にシチューをあたため、マカロニを湯がく。マカロニは少し芯がある位でざるに上げ、グラタン皿に盛りつける。その上からブロッコリーを乗せ、常温に戻した食パンを一口サイズに切り、同様に皿に盛りつける。その上からシチューを流し込み、冷凍してあったピザ用チーズを振りかける。それからオーブントースターで約8分焼くだけ。すると、チーズのいい香りに誘われたのか、ふらふらと実がキッチンへやってくる。
「いいニオイ、このニオイは……」
「なんだと思う?」
「シチュー……いや、グラダンだな」
「正解」
そんなやりとりをしながらグラスを二つとウォーターピッチャーをテーブルに運ぶ。自然な流れでカトラリーと鍋敷きを二人分用意しテーブルまでやってきた実とすれ違いざまにキスをして、俺はオーブンの前に戻る。
「昨日シチューだったからさ、翌日は大体グラタンに変身するじゃん? うちのシチュー」
「今日はマカロニと食パン」
「先週はパスタの上からビーフシチュー掛かっててグラタン風にしてたな」
「ワンパターンだって笑うか?」
「ううん、スキ」
オーブンが焼けたよと知らせてくれて、ミトンをはめて熱々のグラタン皿を取る。テーブルの上に用意された鍋敷きに一つずつ置いて、夕食の時間だ。二人合わせて手を合わせ、フォークを刺す。こんがりきつね色に焼けたチーズがブロッコリーに絡み、とろりと伸びる。
「うまー」
「お口に合ったようで」
「玲太の作るご飯スキ。冷蔵庫あんなスカスカだったのに、よくこんなウマいもん生み出せるよな」
「残り物料理なのにこんなに喜んでもらえるなんて、作り甲斐あるよ」
明日一緒に買い出し行こうな、と声をかければグラタンから立ち上る湯気に眼鏡を曇らせながら実が頷いた。