一口サイズの風物詩 ふと顔を上げると部屋に差し込んでいたはずの明かりが翳り、窓の外では街頭がちらほらとつき始めていた。慌てて家中のカーテンを引きながら、壁にかかる時計に目をやればまだ時刻は十七時を回ったあたり。日没がすっかり早くなったものだと季節の移り変わりを感じる。
今日の夕食はどうしようか、悟の帰宅時間を思い出しながらテレビに目をやると、そこには暖かなオレンジの光に包まれた食卓が映っていた。
「あ、そうだ」
私は冷蔵庫の中身を覗くと、そそくさと買い出しに出かけた。
◇
「たっだいま~」
「おかえり」
はー疲れた、と呟きながら悟が帰宅する。彼が帰ってきた途端に部屋の中が賑やかに感じるのは私だけだろうか。少しだけ感傷に浸ったような心地で「急に冷えてきたでしょ」と声をかけると「全然分かんなかった! でも確かにみんなコート着てたかも!」と洗面所から大声が返ってくる。がたがた、ばしゃばしゃ、様子を見ずとも悟が何をしているのか物音だけで手に取るように分かる。これは私の気持ちの問題ではなく、存外物理的にうるさくなっているだけかもしれないな、と苦笑した。
「傑ご飯もう食べた?」
「いや、一緒に食べようと思って待ってた」
「あーごめん、用意ありがと」
リビングを通り過ぎて悟が自室に消える。その間に用意しておいたメニューを並べ、準備は万端だ。
「あ! シチューじゃん!」
「そ、なんか無性に食べたくなって」
二人で席に着き手を合わせる。いただきます、と声を合わせてから湯気がのぼる器に手を伸ばした。
一口含むと、とろりとした温かさが身体いっぱいに広がっていく。冬って感じ、と言い合って笑った。
「僕さ、コレ入ってるの見ると、あー傑のシチューだなーって感じするんだよね」
そう言って悟が大きな木製のスプーンで掬ったのは、一口サイズのベビーコーンだった。
「そう? 結構メジャーな具材じゃない?」
「僕、昔傑が作ってくれたシチューがさ、コイツとの初対面だったんだよ。それ以外だとあんまり合わなくない? コイツ」
「まぁそうだね、家庭料理ではあんまり登場しないか」
「だから、傑のシチューと言えば、コイツなの。もはや風物詩って感じ」
だから僕コイツ好き、と悟が嬉しそうに頬張った。
私も、子供のころ母が大きいまま入れてくれたベビーコーンがお気に入りだった。しかし、学生時代に悟がコーンばかり拾って先に食べてしまうものだから、実はそれ以来一口サイズに刻んで入れている。コロコロとしたベビーコーンを見るたびに、私もあの頃を思い出して懐かしい気持ちになる。
「これ食べるとさ、なんか、」
「うん、そうだね、」
――君と過ごす冬が今年もやって来たんだね。
end.