最悪軸たいみつ⑥ 六月十一日の夜更け、三ツ谷は大寿を自分のセーフハウスのひとつに招いた。一軒家と単身者向けの低層マンション、アパートが入り混じる、都心を少しだけ外れた穏やかな住宅街にひそむ一室だ。三ツ谷にあらかじめ渡されていた合鍵で解錠し、静かに部屋に立ち入った大寿を、三ツ谷は玄関まで出てきて歓迎した。恋人の体温とキスを受け止め、大寿はゆっくりと部屋を見渡す。
「良いところがあったもんだな」
周辺の雰囲気も、マンションの気高い慎み深さも、「あの東京卍會の幹部」と聞いて大方の人間が思い浮かべるであろう普遍的で象徴的なイメージとは結びつきづらい。
「うん、我ながら運が良くって……。あんまり自慢することじゃねぇけど、架空名義用意して実際にマンションの契約までこぎつけるのってそれなりに大変だろ。だけどここのときは何もかもがトントンで進んでさ。まるでもともとオレのために用意されてたみたいだった」
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