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    riuriuchan1

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    #たいみつ

    モブとたいみつ「いる。すっげぇ、かわいい人だよ」

     三ツ谷先輩がそう言った瞬間、列島──厳密に言うと渋谷センター街鳥貴族第3テーブルが──震撼した。


     三ツ谷先輩は俺の憧れだ。同じ専門学校を卒業、同じ会社に就職し仕事でもいろいろとお世話になっている。専門学校時代から三ツ谷先輩のセンスは群を抜いていて、卒制では滅茶苦茶厳しいと有名な先生からもベタ褒めされていた。将来有望なデザイナー、しかもイケメンときたらモテないわけがなく。うちの女性社員たちはみんな三ツ谷先輩に彼女がいるのか、気になって仕方がないらしい。
     そんなハイエナたち(口が裂けても本人たちには言えないが。ぶっとばされるので)から白羽の矢を立てられた哀れな存在が俺だった。つまりは、退職して独立する先輩を送迎するこの飲みの場で、彼女の有無を聞き出せと命令を受けたのだ。
     そして早くしなさいよと鋭利な肘で脇腹を攻撃されながら言った『三ツ谷先輩って彼女いるんですか?』に対する返答が、冒頭である。

     いる。
     すっげぇ、かわいい人だよ。

     たった2センテンス。しかし俺たちに打撃を与えるには十分だった。砂糖とはちみつをありったけ溶かしたような、甘い笑顔。垂れた目元は酒のせいで赤く染まり、直視できないほどの色気を纏っている。三ツ谷先輩はその人が好きなのだと、たまらなく好きなのだと、いやでも思い知らされる笑みだった。
     俺の斜め前、斉藤さんが箸を落とす。その隣の宮崎さんが勢いよくテーブルに突っ伏したせいでカシオレの入ったグラスが倒れる。カシオレがこちらまで侵食してくるのにも気づかず、俺の同期の岡本は呆然と三ツ谷先輩の顔を眺めていた。テーブルの惨状にも気づかず、酔っ払った先輩は「ちょっとトイレ行ってくる〜」とふらりと立ち上がる。
     第3テーブルに残されたのは今しがた失恋した女子たちと俺。意気消沈してゾンビのように唸る女子たちの代わりに、おしぼりでカシオレを拭き取る。……いや、あれはちょっと、反則っすよ、先輩。
     先輩の堂々とした惚気に当てられて俺もちょっと顔が熱い。ったく、イケメンってずるいよなあ、クソ。


     明日朝早いからと二次会の誘いを断った三ツ谷先輩と別れ、次の会場のカラオケへと向かう。女子たちは「ええー!来ないんですかあ!?」「坂田だけじゃつまんないですよぉ」と嘆いていたが、先輩は爽やかに「今日はありがとな」と手を振っていた。てか、なにが『坂田だけじゃつまんない』じゃ、オラ。イケメンじゃなくて悪ぅーござんしたね。
     しかし、明日から仕事場に先輩がいないとか、さみしいな。才能溢れる先輩のことだから独立してもすぐ軌道に乗るだろうけど。数年後には『若者に大人気のイケメンファッションデザイナー!』とかいってテレビで紹介されてたりして。うわ、余裕で想像できるわ。
     ……本当、先輩には良くしてもらった。ダメダメだった俺をここまで育ててくれたのは三ツ谷先輩だ。面倒見のいい、兄貴みたいな人。やっぱり名残惜しくて振り返れば──長身の男に腕を掴まれて引きずられていく先輩の姿が、見えた。
     「え」ま、待て待て待て。え?なんだあれ。唖然としているうちに二人の姿が路地裏に消える。犯罪、誘拐、暴行、拉致監禁──物騒な言葉が混乱する頭に浮かぶ。先輩は昔ヤンチャしていたらしいが、それでもあんなガタイのいい男に敵うはずない。ボコボコに殴られてあの男にのしかかられる先輩の姿が脳裏によぎった。「ちょっと忘れ物したんで取ってきます!」気がつけばそんな言葉を残して走り出していた。
     いつでも警察を呼べるよう、携帯を握りしめる。キャッチや酔っ払いの声が響きネオンの光でギラギラ輝いた繁華街も、一歩路地裏に入れば薄暗く静まりかえっている。こんなところで乱暴されたらきっと誰からも気づかれない。俺が、先輩を助けないと。決意を固めて路地裏を覗き込んだ。

     そして視界に飛び込んできたのは、男と先輩が抱き合ってキスしている光景だった。

     っえ、と喉から出かかった声を咄嗟に飲み込む。代わりに耳に入ってきたのは、「は、ぁ……」となんとも艶かしい吐息だった。……多分、三ツ谷先輩の。
     口を離していたのも一瞬で、またすぐふたつの唇が重なる。一目見て高級品だとわかるジャケットに身を包んだ男の背中が丸まり、三ツ谷先輩が背伸びをして男の首に腕を絡めた。男の手が先輩の細い腰を引き寄せれば、二人の間に空白はなくなる。
     見ちゃいけないと思うのに、目を逸らせない。先輩があざとく舌を出せば、男が絡め取って擦り合わせる。唇を離せば唾液の糸が引き、それが切れるのを待たずにまた重ねる。洋画で見るような熱烈なキスだった。普段の爽やかで清廉な三ツ谷先輩からは程遠い姿。髪が長いから余計に男に溺れる女に見える。ゴクリ、と無意識に生唾を飲み込んでいた。
    「……結局迎えに来てくれたの?ほんと、大寿くんってかわいいね」
    「酔っ払い放置したら何しでかすかわからねぇからな」
    「ちょっと、俺のことなんだと思ってるの」
    「泥酔して道頓堀に飛び込みかけたやつ」
    「まだあのこと根に持ってんの!?」
    「テメェ抑え込むのにどれだけ苦労したと思ってやがる」
     ごめんって〜と子猫が甘えるみたいに男に体を預ける三ツ谷先輩。この光景と『大寿くんってかわいいね』という先輩の言葉から導き出されるのは……つまり、そういうことで。ゲロ甘笑顔で語った”すっげぇかわいい人”というのは、この長身でガタイのいい、しかも襟首から刺青まで見え隠れしている、男、らしい。
     う、うわ〜マジか、……マジか。先輩、この男の前で、さっきキスしてた時よりもっとエロい顔とかすんのかな。乱れに乱れまくって、あられもない姿になっちゃったりとか、するんだ……、あの先輩が。う、うわ。やばい。やばすぎる。
    「で、どうする」
     男の膝が三ツ谷先輩の足の間に割り込む。
    「このまま家に帰るか?」
    「……俺に言わせるの?」
    「俺は察しが悪いからな。言われねえとわからねえ」
     ニヤリと悪どい顔をする男。うわ、意地悪じゃんと俺が思うのと同時に三ツ谷先輩も「いじわる」と唇を尖らせた。頬が照れ臭そうに赤くなっている。さっきまでノリノリでエロいキスしてたくせに、そんなとこで恥ずかしがんの?かわいいんですけど……なんか目覚めそうなんですけど……。
     先輩にジャケットの裾を引っ張られた男がかがみ込み、先輩と目線を合わせる。先輩は彼の耳元に口を寄せた。何を言っているのかはこっちまで聞こえてこない。けれど、それはもうとびっきり甘い言葉に違いなかった。
     恋人のおねだりにキスで答えた男が先輩の腰を抱く。そのまま二人は俺がいる方とは反対方向──ホテル街へと歩いて行った。
     
     潜めていた息を思いっきり吐く。すごいものを見てしまった。会社の女子たちには絶対に言えない。
     とりあえず二人の幸せを願いながら、俺は踵を返したのだった。

     その夜ベッドの上の先輩を想像して眠れなかったのは、まあ、当然の結末である。
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