果たして、夢は逆夢か 佐野万次郎が、とうとう龍宮寺堅がを殺したらしい。
(やめろ...。)
柴八戒もやられたし、他の幹部も佐野に殺されるのは時間の問題だろう。
(マイキーがそんな事するわけねぇだろ...!)
それより元黒龍10代目の柴大寿が、天竺と黒川イザナのことを調べて回っているらしい。下手に探られる前に手を打たないと。
(やめろ!!)
――
「三ツ谷。」
「っはぁ...あっ...」
目の前に、大寿の心配そうな顔が広がる。
「あ、たいじゅくん...俺、また魘されてた...?」
「あぁ、大丈夫か。」
「ん...もう大丈夫。大寿くん、昨日寝るの遅かったのに起こしてごめん...。」
「んな事気にすんじゃねえ。」
と言って、大寿が冷や汗で濡れた三ツ谷の前髪をそっと額から避ける。額に感じる手の温かさに安心して、三ツ谷はもっとと求めるようにその手に擦り寄った。大寿の体温に触れて、やっと息が出来た気がする。
最近、三ツ谷は何故か悪夢を見ることが増えた。夢の内容は覚えていないけれど、目が覚めた瞬間、自分の大切な人達がいなくなったらどうしようという底なしの恐怖感に襲われて、息が上手く出来なくなる。
「少し待ってろ、水持ってくる。」
と言ってベッドから立ち上がった大寿の背中を見た時、朧げだった夢の一片が突然蘇ってきた。
『下手に探られる前に手を打たないと。』
「...三ツ谷?」
気づけば三ツ谷は、無意識に大寿の寝巻きの裾を、震える手でキツく握りしめていた。
「あ...ごめん、俺...」
離さなければと頭では分かっているのに、どうにも身体が言うことを聞かなくて、中々手を離すことができない。今大寿と離れることに、足元を掬われるような不安があった。
呆然とする三ツ谷を前に、大寿は再びベッドに戻り、三ツ谷の隣に腰を下ろす。そして三ツ谷を持ち上げると、自身の伸ばした足の上にその身体を乗せた。腕の中に囲い、自分の体温を届けるように、震える背中を摩る。大寿の腕の中に収まった三ツ谷は、大寿の体温に安心して、徐々に息の仕方を思い出した。厚い胸板に擦り寄ると、トクン、トクン、と心音が聞こえる。
(大寿くん生きてる...。)
当たり前の事実にとてつもなく安心して、そっと閉じた三ツ谷の目からはぽろりと涙が零れ落ちた。
――
(花垣...。)
悪夢を見る三ツ谷を見るたびに、大寿は何故か花垣武道の顔が思い浮かんだ。これ以上、三ツ谷が恐ろしい夢を見ないように。頼む、どうか。
(ヤツに、神の加護を。)
どうして花垣の顔が浮かぶのか、大寿自身も分からない。けれど、今日も三ツ谷の背中を摩りながら、大寿はそう心の中で呟かずにはいられなかった。