君は可愛い女の子? ボツ その後伊地知が男であるということは皆が知ることとなった。
とは言っても教師や補助監督達は勿論知っていたが、女装をしている伊地知に気を遣い公言しなかったに過ぎない為、実際知らなかったのは学生達だけだ。
伊地知の予想に反して驚きはされたものの存外あっさり受け入れられた。
「ま、男でも私は気にしないよ。伊地知が可愛い後輩なのは変わらない」
そう言って笑う家入に伊地知はとても感動したしそれ以降もふたりだけで買い物に行ったり変わらぬ関係を築いている。
そして七海との関係は──。
「ね、七海先輩。明日ここ行きましょう?」
「あぁ、伊地知さんの好きそうな場所ですね。いいですよ」
学生寮の伊地知の部屋でふたりで並び合って雑誌を覗き込み明日のデートの行き場所を決めている最中だった。
ふたりが付き合い始めるに当たって男同士ではあるが、それについても誰も疑問に思わなかったらしい。
どうやら伊地知の知らぬ場で七海思っていたよりもずっと恋心をからかわれたり応援されたりしていたようでそれが大きな要因らしい。それを聞いた時伊地知はちょっぴり恥ずかしいような気持ちになった。
そんな諸々の事情が重なりふたりは晴れてみんなに祝福されお付き合いを開始するに至ったのである。
だが伊地知としては一つだけ悩んでいることがあった。
「やった」
嬉しくて伊地知はにっこり笑うとそのまま七海にぴとりともたれ掛かるようにくっつく。そうすると七海はいつも固まって困ったような顔をするのだ。
付き合い始めて暫く経つがくっついたり手を繋いだりするのはいつも伊地知の方からで七海からの接触は一切ない。
伊地知としてはそろそろキスくらいしたいものなのだが。
(僕から言ったら、はしたないって思われるかな……)
ちらりと盗み見た七海は伊地知と反対方向を見ていて視線が合わない。
やはり男の自分では駄目なのかと伊地知が不安に思うのも致し方ないことだろう。
もしかしたら本当に男との交際に嫌気が差してはいるが、責任を取れと迫った手前言い出しにくいのかもしれない。
(もう少し、もう少しだけ……)
ただもしそうでも七海と別れたくなくて伊地知も一歩踏み出せないでいるのだった。
七海は非常に困っている。
最近片想いをしていた相手が男だと判明するという大事件が起きたが、色々あって交際するに至った。それはいい。
問題は恋人になった伊地知の無防備さだ。
「えへへ、七海先輩」
そう言って笑いぴっとりとくっついてくる伊地知に七海はそろそろ我慢の限界だった。
七海とて年頃の男子高校生なのだから好きな子にくっつかれると色々良からぬことが頭を過る。
「七海先輩の手って大きいですねぇ……」
先程まで読んでいた雑誌は読み終わったのだろう閉じて置かれ、今は七海の手を撫でたり握ったりと興味深げに眺めている。