運命の分岐点怖怖とオレの髪に触れた、その手は震えていた。そんな壊れ物を扱うみたいにしなくても、オレは大丈夫だ。
「どうしたラーハルト。おまえらしくない。」
「力加減を見誤ると、おまえを壊してしまいそうだと思ったから優しく触れようとした。それだけだ。」
事実、先の大戦で深手を負ったヒュンケルは満身創痍の状態であった。身体中傷だらけ骨は何ヶ所もひび割れていつ骨折してもおかしくないといった具合で、戦士としての役割を果たす事は不可能と言える有様である。少しずつ容態は良くなっているが未だに病室から出られてはいない。
吹き荒れる真冬の北風が窓を叩き、不安を掻き立てる。
「その、ラーハルト…」
「何だヒュンケル。」
「ダイは見つかったのか」
「否、まだ消息不明のままだ。黒の核晶の爆発の巻き添えに遭ってしまわれたダイ様は、今いずこにおられるのだろうか、竜の騎士の忠実な僕(しもべ)たるこのオレが本来の役割を務められず、などという事があってはならん。」
ラーハルトは怒気を含んだ声色で焦りを隠そうともしない。
「ラーハルト、オレもおまえの力になりたいと思うのだが……」
ヒュンケルが恐る恐るラーハルトに協力を申し出た。が、しかし
「何をたわけた事を言うのだ今のおまえでは足手まといにしかならんぞ馬鹿が」
激昂したラーハルトがヒュンケルに掴みかかる。その途端――
「くっ…」
ヒュンケルの顔が苦痛に歪む。
「あ…」
さすがにこれはまずいと思ってラーハルトはヒュンケルの肩から手を離し、包帯が巻かれた腕に優しく触れると慣れた手付きで包帯を巻き直した。
「すまん…」
「なあ、ラーハルト。」
「何だヒュンケル。」
「どうしておまえはオレに優しくしてくれるんだ人間をあれ程激しく憎んでいた筈のおまえが毎日のようにオレの病室まで来て何かと世話を焼いてくれて…」
「人間を憎んでいたのは魔王軍にいた頃のおまえも同じだろう。魔族の血を引くオレだけではなく同じ人間である母まで迫害した連中をオレは決して許しはしない。だが、ダイ様の側にいるのは善良な人間達だ。あの日おまえと戦場で相見えた時、おまえの流した涙を見てオレは変わることができた。」
切々と語るラーハルトにヒュンケルは微笑みかけた。
「だからオレはおまえの側にいるんだ、ヒュンケル。己の過酷な境遇を恨み、何も信じられずにいたオレは初めて運命だなんてものを信じてみようと思った。」