お題:「無防備」「腹筋」5/29 腹をまるだしにして眠っていた柴犬のことを思いだした。無防備すぎやしないか、そう言ったら、安心している証拠だと言われた。自分の近くにいる存在を信頼しきってまあるい腹をみせてすやすやと眠る犬はとんでもなく無防備で、動物としてそれでいいのだろうかと思ったが、その信頼を裏切りたくないと、何故か自然とそう思った。安心して眠れる場所が在るのはいい、心から信頼できる存在が在ることも。今、この家には二人しかいない。こいつは腹をだしてすっかりと眠ってしまえるくらい俺のことを信頼してくれているのか。いや、でも、こいつの他人を信頼するハードルはずいぶんと低そうだ。誰にでも腹をだしてみせるのか、誰のそばでもこんなふうに無防備な顔をして眠るのか。そんなことを悶々と考えながらリビングのソファで眠るルークをながめていたアーロンはずいぶんと険しい顔をしていたらしく、しばらくして目を覚ましたルークがまだ半分とじたままの目をこすりながら傍らにいるアーロンに気付くと、ぎょ、として、よく状況が掴めずにぎこちなく笑った。
「……おはよ、アーロン、どうした」
「……別に、」
アーロンの顔から険しさは失えたが、なんとなく不機嫌そうだ。
「もうこんな時間か、ついうっかり眠っちゃったよ、……アーロン、僕どれくらい寝てた?」
「一時間」
ずいぶんと長い時間居眠りをしてしまった、ルークは呆、とした頭で、……もしかしてアーロンは一時間ずっと見ていたのだろうか、眠る、自分を。そう思ったら何だかとても恥ずかしく、早々にソファから起き上がり衣服を整えた。
「あ、もしかしてアーロン、おなかが空いてるのか。ごめん、すぐ何かつくるよ」
キッチンへ足を向けたルークの腕が強く引かれ、ふたたびルークの身体はソファへと戻された。ルークの身体はふかふかのソファの上ではなく、アーロンの大きな胸と硬い腹筋の上にのしかかるように倒れた。
「……無防備すぎるんだよ、てめえはよ」
アーロンの身体の上に倒込み、そのままうしろから身体をまるごと抱きしめられてしまったが、いかに屈強なアーロンといえどさすがに成人男性の全体重がのしかかったままでは重いだろうと、ルークは何とか身体を起こそうとしたが、アーロンはルークを抱いている腕の力を緩めるつもりはないらしい。仕方なくルークはその体勢のままアーロンの身体に背中を預けた。
「そりゃ、いま家のなかには君と僕しかいないんだ、警戒する必要ないだろう」
「……いつも、誰といても、こうなんじゃないのか、てめえはよ」
その声がどことなく苛ついているように聞こえたがその理由がまったく解らず、ルークは意図不明ながらも絡んでくるアーロンのその様子が、何だか猫みたいだなあ、と思い、いつかネットで見た、飼主に暴力的なまでに体当たりであまえまくる猫の動画を思いだした。
「僕だって警官の端くれなんだぞ、何があるかわからないんだからいつだって細心の注意ははらっているつもりだ。君のまえでだけだよ、君になら何をされてもいいと思っているし」
アーロンの腕の力が、不意にゆるくなる。ルークは身動きが出来ることを確かめると、アーロンの手首に口吻けた。
「、何、」
「だって君、あまえているんだろう」
そう言って、また手首に、そして前腕、肘窩、二の腕へと口吻けをして、唇が腕のやわらかい部分までたどりつくと、そこを強く吸った。この男は、無防備なくせに隙がない。こちらのどんな攻撃もまるで通用しない。それどころかこんな反撃を仕掛けてくるとはまったく思ってもいなかった。唇で、アーロンの腕を侵略しながら、あまい、微笑みの爆弾を抱えて挑んでくるルークの挑戦を、……望むところだ、その挑戦受けて立ってやる。アーロンは不敵な笑みで、応戦した。
【そんなこんなでいちゃらぶセッ…になる、おまけ】
「アーロンのおなか……、ほんとうに綺麗だなあ、うらやましい、この腹筋……」
ルークはアーロンの腹の上に顔をのせて指で腹の筋肉をなぞりながら、舌で舐めた。
「てめえは俺の腹、舐めんの好きだよな」
「うん、すごくきれいでひんやりしていて、弾力があって歯ごたえもあって……おいしい」
「……食うなよ」
「僕はそんなに悪食じゃないぞ?!」
「いやわからねえ、俺の腹がクソ甘くなくてよかったぜ」
ルークはアーロンの臍のまわりを舌の先端で舐め、その虚に噛みついて、強く吸った。痛み、と云うよりも、腹のしたがあまく、疼く。突然の刺激にアーロンの剥きだしのままの無防備な部分が反応した。
「……別の意味で食べさせていただきます」
「……くそったれ」
食いしん坊とおいしいお肉のいつもの、じゃれあい。