ダメと言ってもきかなくて 【くくタカ】押し倒されて、しがみ付いてきた手が背中をのそのそと這いずるのを感じながら、タカ丸は悩む。
なんでこんなことになっているのだろうか?と。
自分にしがみついてキスを繰り返しているのは1つ年下のお隣さんだ。出会ったのはタカ丸が7歳で、6歳になったばかりの子供が隣にいると聞いた時には嬉しかった。引っ越してきました、と挨拶に行けば、顔を真っ赤にして「くくちへいすけです」と挨拶をしたのが思い出される。
それから10年、本当にいい友達だと思っていたのに。
そう思っていたのはタカ丸だけで、お隣さんはそうではなかったらしい。
気がつけば、手を握るのが当たり前になって、そばにぴったりとくっついているのが普通になった。お隣さんの家は両親が働いていて忙しい。だから寂しさをタカ丸にくっつくことで寂しくないようにしているものだとばかり思ったのに。
「タカ丸さんが好きです」
そう言われたのはお隣さんが14歳の時。今から2年前の出来事だった。
恋愛の対象として好きと言われて混乱した。タカ丸はそういう風にお隣さんを見ていたわけではない。だから、その時は「ゴメンね?」と素直に言った。
「どうしたら好きになってもらえますか?」
「僕は兵助君のことは好きだよ?」
「じゃあ恋人になってくれますか?」
「ええと…そういう好きじゃなくて」
「どういう好きなんですか?」
ぐいぐいと責め寄られて、言い淀んでいる間にお隣さんにファーストキスを奪われた。
それから二年。毎日キスをして、好きだと言われる。
「だめ」と言えばしゅんとするし、「ダメ」と言わなければキスをされる。
どうしたもんか、と悩んで友人に相談したこともあった。好きだと言ってくれた子が毎日キスをしてくるんですが、どうしたらいいでしょう?という間の抜けた質問は笑い飛ばされた挙句に「キスをしてくれるなんていい子じゃないか」と。
完璧にお隣さんを女の子だと勘違いしている答えにタカ丸は項垂れた。お隣さんは間違いなく男の子で、最近はキスばかりではなく、隙あらば押し倒してくるようになった。さすがにそれは許せないので、その度にゲンコツをくれているが、いっこうに止める気配はない。このままではいつか押し倒されて勢いのままに致してしまいそうでタカ丸は困った。
キスをされても嫌いにはなれないのも困る。
「タカ丸さん…」
しつこく口を吸ってくるお隣さんの目がいよいよ怪しくなってきたので、ぐい、と肩を押して体を離す。
「もー、だめ!」
「いいじゃないか。減るもんじゃないし」
「だめったら、だめ!」
「…じゃあもう一回で終わりにする」
「もー!」
ダメだよ、と言おうとしてキスをされる。触れるだけのキスが、いつからか舐めるようなキスになった。ここで歯を食いしばっておかないと、舌を入れてくるので気が抜けない。
ふ、ふという短い息をしながらキスをしてくるお隣さんを見た。閉じた瞼と長い睫毛が可愛いとは思う。ふは、と息をつきながら唇に触れる距離でお隣さんはまた告げる。
「タカ丸さんが好きだ」
「うん…」
「そろそろ諦めて恋人になってよ」
「諦めて恋愛するのは嫌だなぁ…」
「大事にするから」
「人を押し倒して言う台詞じゃありません」
ぽかりと後頭部を殴ってタカ丸は体を起こす。泣きそうな顔で見てくるお隣さんの頭を撫でながら、溜息をついた。
「なんでこんなになっちゃったんだろうねぇ…」
「しょうがないだろ。一目ぼれの初恋の相手が隣にいれば」
「あのねぇ…」
「なぁ、タカ丸さん。好きだよ。一番好き。だから俺のになってよ…」
しがみついてくる手をふりはらうことも、抱きしめ返すこともできなくて、タカ丸は黒い髪をそっと撫でる。
「どうしたもんかね、兵助君は…」
「俺の事を好きになってくれれば丸く収まる」
「そうじゃなくてね…」
頭を抱えたくなるような事を言われて、タカ丸は溜息をついた。
本当に困った。お隣さんのすることが口で言うほどイヤではないし、お隣さんの事が思っている以上に好きかもしれない事が。
ああ、きっとこれが絆されたということなんだろうな、と深く深く溜息をつき、最後の一回のはずだったキスをもう一度する羽目になった。