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    東間の保管庫

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    東間の保管庫

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    久々知×タカ丸さんのペーパー

    #くくタカ
    commonBuzzard

    くくタカペーパー春コミペーパー

    笛と太鼓の音が聞こえる。
    初めて来た街をふらふらと散策していると、大通りの奥から微かにお囃子が聞こえてきた。その音につられて、音のする方に歩いていくと、小さな神社が見えた。小高い丘の上に鳥居とお社がある。石畳の階段を昇って行くと、小さな社のわりには大きな境内があって、沢山の人がいた。人垣の真ん中で色鮮やかな衣装をまとった獅子舞が舞っていた。
    赤い顔をして、歯をかたかたと慣らしては見物人の頭を噛んでいく。その度に歓声が上がり、獅子舞はまたひらりひらりと舞った。
    「へぇ…」
    お囃子の音にまぎれて、昔の記憶が甦って来る。
    あの時は、大好きな人と一緒だった。学校のお使いの後にたまたま寄った村でやっていた小さな祭り。今聞こえているお囃子とは全く違う笛の音が頭の中に響いた。

    また、一緒に祭りに来よう。

    そんな約束をして、果たされたのは1回だけだった。約束をしてくれた人が卒業して、一年遅れでタカ丸が卒業をした。忙しいだろうと手紙もそんなに出さなかったのだが、いつしかそれも途絶えた。
    きっと委員会の後輩の事なんて思い出すこともないのだろう。
    祭りを楽しみにしていたなんて一度も言わなかったから、きっと忘れてしまったのだ。
    悲しかったけれど、それは仕方がないことだった。
    時は戦乱。
    自分たちは忍者だった。
    生きていいるのか、死んでいるのか。それすらも解らない。結局卒業してからは一度も会えないまま、タカ丸は室町での生を終えた。
    好きだと言えないまま、一度も会えないまま。

    久々知君

    一つ年下の彼は、辛い人生を送ることなく生きてそして寿命を全うしたのだろうか。自分とは違い優秀な忍たまだったから、きっと大丈夫だとは思うけれど。
    できることなら、一緒に生きたかった。好きとも言えない間柄で、タカ丸の片思いで終わったのだから、到底無理な事だったのかもしれない。

    わっと湧いた歓声にはっとする。
    一瞬、ここがどこだったか解らなくなって瞬きを何回か繰り返し、神社の境内にいた事を思い出した。昔と今とがごっちゃになる感覚にタカ丸は溜息をついた。
    昔、一緒の時代を過ごした人たちには会えなかった。生まれ変わるタイミングがまたずれたのかなぁと悲しくなる。せめて誰かに会えれば違うかもしれない。
    恋心と郷愁の念を抱えたまま、また一人で生きて行くのかと思うと、辛かった。誰も知らない記憶をもったままなのは寂しい。寂しすぎた。

    「おつかれさん」
    「ああ」
    獅子舞の舞い手が獅子頭をとりながら発した言葉。
    声が似ている。
    彼もよく「ああ」と返事をしていた。機嫌がいい時は少し高めで、不機嫌な時は低く喋る癖を覚えている。その声が似ている。凄くうれしい時の声に。
    そう思って振り返り、タカ丸は目を見張った。
    髪は短いけれど、顔つきは少し大人びているけれど。
    頭に手ぬぐいを巻き、祭りの衣装をまとった大好きな人がいた。
    「兵助君…?」
    瞬きをした一瞬の間に姿を見失って、タカ丸は慌ててあたりを見渡した。何度か生まれ変わったけれど、忘れることができなかった大好きな人。そして数百年一度も出会えなかった人。
    ここですれ違ってしまったら、きっとまた会えなくなってしまう。
    その考えに恐怖すら覚えて、タカ丸は急いで目立つ獅子頭を持った人を追いかける。
    「あの…っ」
    「あ?」
    振り返った彼は、きっと覚えていない。
    それでもよかった。探し続けた人に出会えたのだから。
    「あの、獅子舞、君が?」
    「そうだけど…」
    「あ、あのね、すごくかっこよくて、つい…声をかけちゃった…」
    「ありがと」
    そんなことを言いたかったんじゃない。本当は会いたかった、探していた、と言いたかった。
    「獅子舞に興味があるのか?」
    「う、うん…?」
    「このへんの人か?」
    「電車で一駅向こうなんだけど」
    「なら近いな。興味があるなら一度練習を見に来ればいいよ。俺以外は皆おじさんばかりだからな。若い人が来てくれたら嬉しい」
    「そうなんだ…。一回、行ってみようかな」
    「いつでもくればいいさ。これ、連絡先」
    腹掛けの前ポケットに入れてあった手ぬぐいをタカ丸の手に押し付ける。白字に紺の染め抜きの手ぬぐいにタカ丸は目を丸くする。
    「そこに連絡先が書いてあるから」
    「あ、ほんとだ」
    獅子舞保存会という仰々しい名前と、連絡先らしい電話番号となぜかURLが書いてあって現代的だなぁと笑う。
    「練習は週末にしてるから。気が向いたら来てくれ」
    じゃあ、と言って獅子頭を持って行ってしまった兵助にタカ丸は笑う。
    言いたい事だけ言って行ってしまうのは変わりない。
    くつくつ笑って、それから涙が出そうになる目頭を貰ったばかりの手ぬぐいで押さえた。
    「会えた…」
    もう、半ばあきらめていた。何百年経っても会えないなら、きっと縁は学園で別れた時に切れていたのだと。でも、ここで会えた。偶然と言うよりは奇跡に近い。
    この奇跡を手放すことはタカ丸にはできなかった。ここでまた離れたら数百年会えないかもしれない。もしかしたら、もう、二度と会えなくなるかもしれない。次の生でタカ丸が記憶を持っていないということもある。
    「兵助君」
    大好きな人を、失うのはもう嫌だった。
    「兵助君…!」
    忘れられない恋を、もう一度取り返したい。




    スパコミペーパー
    新学期そうそう久々知兵助はこの上なく凹んでいた。
    「兵助?そんなに眉間にしわを寄せちゃ、可愛い顔が台無しだよ?」
    「もとより可愛い顔なんてしていない」
    むすりとしたまま勘右衛門に言えば、勘右衛門は「まぁまぁ。くじで負けたのは兵助だししょうがないよ」とけたけた笑う。
    新学期の新入生歓迎会の余興を考えていた時に、仮装をしたらどうか、という意見が出た。それに悪乗りした三郎の案で女装になり、その衣装を演劇部で借りてくることになった。そして、その衣装を着る一名を選出するのにあみだくじを作り、一発勝負をしたら、見事に兵助があたりを引き当ててしまった。
    「絶対細工をしただろ!」
    「えー。してないよ」
    「嘘臭い」
    「でも、細工に気がつかなかったのは兵助じゃん。はい、できた」
    「…」
    げっそりしながら着付けの終わった自分の姿を見て溜息をつく。
    一生着る事のないものだと思っていたのに。
    「わー。兵助、似合うね。ウエディングドレス」
    眉間にしわを寄せたまま椅子に座ると、勘右衛門が廊下に向かって声をかけた。
    「終わりましたよー」
    「ちょっとまて、誰がいるんだ、廊下に!」
    「着付けだけじゃダメでしょう」
    にまっと笑った勘右衛門の後ろのドアがあき、ひょこりと顔を見せた相手に兵助は目の前が暗くなるのを感じた。


    「だからっていきなり椅子を投げつける事はないと思うんだけど…」
    「だから…それは…すみませんって」
    「もう…はい、目を閉じてね」
    「何をつけるんですか、今度は」
    顔にぺたぺたとファンデーションを塗られ、瞼にも粉をつけられて兵助はげんなりとした。正しくはげんなりした顔を作った、だ。
    化粧箱を持って現れたタカ丸を見たときには、本気で逃げてしまいたかった。こんな姿を見られたくはなかったのだが、タカ丸の「わぁ!兵助君、きれいだねぇ!」の一言にかっとなって思わず椅子を投げつけてしまった。
    きれいと言われるより、かっこいいと言われたいのだ。
    こっそりとタカ丸に好意を抱いている身としては。
    「兵助君は睫毛が長いからつけまつげはいらないねぇ」
    「そんなのつけたら瞼が重い」
    「そうでもないんだよ。はい、じゃあ次はリップとグロスね」
    紅筆で色を作りながら、兵助の顎を持ち上げて、ちまちまと塗っていくタカ丸の顔が近くて、兵助はどきりとした。
    もう少しでキスができそうな距離なのに。
    恥ずかしくて、目を閉じることしかできない自分が情けなかった。
    「はい、できた。完成!」
    満足そうなタカ丸に、つられて頬が緩むがウエディングドレスを着た姿を褒められてもちっとも嬉しくないのだ。
    「おお、兵助、きれい」
    「やかましい」
    がすんと勘右衛門を殴ると、勘右衛門はいててといい、ポケットから携帯を取り出した。
    「せっかく、ツーショットを撮ってやろうと思ったのに」
    「え?」
    「兵助君とのツーショット?いいの?」
    一瞬固まった兵助の横でタカ丸が嬉しそうに声をあげる。
    「あ、ああの、タカ丸さん?」
    「撮ったら僕の携帯にも送って?」
    「いいですよ。ほら、兵助。笑えって」
    にまにま笑った勘右衛門にプチンと何が切れて、兵助はガッとタカ丸の肩を掴む。
    「そんなに写真が撮りたいなら撮らせてやりますよ」
    「へ、兵助君?お顔が怖いんですけどぉぉぉっ?」
    「ふんっ!」
    「あはははははは!兵助、うける!」
    シャッター音が聞こえないほど勘右衛門は笑い転げて、タカ丸は「ひぎゃぁぁ!」と情けない声をあげた。

    数分後、肩で息をする兵助の携帯にも、ウエディングドレス姿でタカ丸を抱き上げて、勝ち誇った顔をした写真が送られてきた。兵助にしがみつくタカ丸が可愛くて、でも自分の姿が情けなくて、消すに消せない兵助を勘右衛門が笑い飛ばした。




    オンリーペーパー
    彼には隙がない。
    真っ黒い髪の毛には寝ぐせがついている事もなかったし、授業も遅刻なんてしない。退屈だと言われる講義にもきちんと予習をしてくるし、授業中に教授から質問されても、答えに窮することなく質問に沿った答えをすらすらと言える。休み時間もたいてい本を読んでいるし、時々は英語の本を原書で読んでいる時がある。
    きちんとした服装で、きちんとした言葉使いで、礼儀正しい態度は「優等生」と絵に描いたようだ。
    「久々知君はすごいよねぇ…」
    「なんでですか?」
    「きっと追試なんか受けないんだろうなぁって思ってさ」
    溜息をつきながらタカ丸は白紙のままのレポート用紙を見て溜息をついた。
    タカ丸の正面に座ってカフェオレを飲んでいた綾部はそんな事を気にしなくてもいいのに、と舌打ちをする。テストの結果がいまいちよくなくて、追加のレポートを書くように言われたタカ丸の方が、頑張っていると綾部は思う。努力が簡単に表面に出る人間と、一生懸命に頑張っても成果がいまいちな人間だったら、後者の方が好感が持てる。タカ丸に好意を抱いているからそう見えるのかもしれないし、タカ丸が好きだからこそ久々知に反感しか持てないのだろう。
    二歳年上の同級生は現在進行形で、久々知兵助と言うミスター・パーフェクトに片思い中で、綾部はそんな男に恋をしているタカ丸に片思いをしている。久々知兵助は学生の本分は勉学だとけろりと言ってのける人物で、タカ丸も綾部も片思いのまま結構な月日を過ごしている。久々知はタカ丸の好意に気が付いていないし、タカ丸は綾部の好意に気がつかない。タカ丸のレポートに付き合いながら、溜息をつく日々なのだ。
    「タカ丸さん」
    「なあに?」
    「僕はちゃんと頑張っているタカ丸さんの方がすごいと思います」
    「でも毎回追試だったり、追加レポートなんだよ」
    「でもちゃんとクリアしてます」
    「一回で合格する方がいいなぁ」
    へにゃりと笑うタカ丸に綾部は「そうですか」とだけ答えてカフェオレを飲む。
    隙だらけでどうしようもなく世話を焼きたくなるタカ丸が、こっちを向いてくれたらいいなぁと思いながら、「ここ、計算違いますよ」と指さして教えた。
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