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    類司のなんかをあげます

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    ワンドロ『浮気』 です。🎈🌟

    不器用な彼とせっかちなオレ「類が浮気してるかもしれないんだ。」
    真面目そうな顔で向かい合う男女の一人はそう言った。寧々はため息を吐き、そんな訳ないでしょ、と吐き捨てる。だが、とオレは話を続けようとするが「もういいから、そういうことなら帰って」と遮られてしまった。彼女はうんざりした顔でグレープフルーツジュースを飲んでいる。
    運が悪かったのかその言葉に目の奥がツンと熱くなる。類だけではなく寧々にも、なんていつもどおりのことを悪く考えてしまう。
    「な、泣かないでってば。……話、聞いてあげるから」
    恥ずかしそうに目をそらした彼女はそう言い、ため息をついたあと「で、類がどうしたの」と聞く体勢を取ってくれた。

     最初に違和感を覚えたのは必ず一緒にフェニランに行くのに断られたこと。彼いわく、委員会が長引きそうだと。緑化委員の植え替え作業がある、と妙に現実味を帯びた嘘を言うものだから当初は信じてしまった。嘘だとわかったのは翌日になっても花壇の花が入れ替わってないことに気づいた時だった。その時横を通り過ぎた類が気まずそうにおはよう、と言ったのだ。気まずそうに。疑わしいな、と彼を見つめるとよよよ、と泣き落としを食らってしまう。疑っていても好きな人のその顔には勝てず、結局なにも言えなかったが。

     仮説が徐々に立てられていったきっかけは、類とご飯を食べようと誘ったとき、断られたことだ。これも必ず一緒に食べるようにして、オレが断ったら「司くんは僕に愛想を尽かしてしまったのかい?」と上目遣いで訴えて来たのに。彼の隠された右手に可愛らしい巾着がぶら下がっていたのも見えていたぞ。嬉しそうに微笑んでいた席に座っている類もな。

     確信に近づいたのは類が女性と廊下で並んで歩いていたことだ。ぴったりとくっつき、手が触れてしまいそうなほどだった。流石に怒ってしまいたかったが、類がもとから自身のことも好きではないのではないかと思い始めてしまった以上、何も行動に移すことができなかった。

    別に良かった。告白をしたのはこちらだったから。同性愛者だと打ち明けた時に好きだと口から溢れだしていたのだ。彼は少しフリーズしたあと、「本当かい?嬉しいなぁ」と幸せそうに笑ったような記憶があるから、オレが舞い上がっていただけかもしれないのだ。「好き」も「あいしてる」も彼からはほとんど聞かなかった。距離も短くなったが、ところどころ線を引いているような感じがしたのだ。

    ああそうか、考えてみれば答えは簡単だった。類はオレのことが好きではなかったんだ。それならそれでいい、彼を開放してあげなければならない。最後にぎゅー、と抱きしめてもらって、次からはショー仲間。それならばユニットにも迷惑はかからないだろう。

    儚い日々だった。初恋の人だった。思い出したら涙が出てしまいそう。類も類で、はっきり言ってくれたら良かったのに。こんな失恋の仕方なんてあんまりだろう、と口から出てしまった。

    「……確かに、それは最低。」
    聞いていた寧々はドリンクを飲み一息し、そう言った。
    しかし、こうも言ったのだ。
    「でも類ってそんなことする奴だったっけ……」

    幼馴染でもわからないなら直談判あるのみ。
    オレは類に真偽を問い詰め、別れを告げにいくことにした。



    「やあ、司くん。そんな険しい顔してどうしたんだい?」
    上機嫌に笑う類に、オレはぐい、と近づく。そんなに近づかれたら照れちゃうよ、なんて言われるが、それを気にしている場合ではない。
    「類、オレに隠し事してないか。」
    改まった口調でそう問うた。
    「隠し事…?していないよ。」
    しらけるつもりか。

    「類は、女性のほうが良かったんだろう?」
    は、と彼は息を呑む。

    「言い返せないのか」

    だんだんと類の態度に苛ついてくる。

    「あぁそうか。オレが告白したときから、ずっと嘲笑っていたんだろう!? 普通じゃない、気色悪い、と……ッ!!」

    声を荒げてしまう。そんなこと思っていなかったのに、口からぽろぽろと溢れる。類はそんな酷い人じゃない。わかっているはずだったんだ。

    「そんなわけないだろう…!!」

    類が何かを言っているが、何も聞きたくなかった。

    「もういいッ!!もう信じない!信じたくない!!類なんて知らん……ッ!」

    「こんなことになるくらいなら、最初から付き合うなんて──」

    オレの言葉が遮られたのは、目の前の彼に塞がれたからだ。ちょっと落ち着いて。合わせられた唇が離れたあと、添えた手で頬を挟みながら彼は言った。
    「そんなこと、言わないでよ。」
    泣き出しそうな目だった。いつものわざとらしい上目遣いではなく、よよよ、が付きそうな抑揚でもない。ただ寂しがっているような口調だった。



     落ち着いたあと、類に浮気を疑った理由について白状させられた。それを聞いた彼はふっと笑ったあと、嬉しそうに言ったのだ。
    「嫉妬してくれたってことだよね。」
    少し考え、うむ、と頷くと彼は僕ばっかり嫉妬して情けないと思ったからなんだ、と説明をしだした。
     委員会が長引きそうだ、というのは本当で、それは花の植え替えではなく次の花についての話し合いだということ。花が入れ替わってないことに気づくだろう、という敢えての嘘だったらしい。
     ご飯を断られたのは、珍しく母親に作ってもらった弁当を見られたくなかったから。可愛らしい巾着は昔類の母親が使っていたものらしい。
     女性と廊下を並んで歩いていたのは偶然だと言う。仲良くなりたい、と言い寄られて断っているうちにああなったのだと。メールアドレスも電話番号も交換しなかったと言っていたが、なんとなく悔しい。

    すべて言い終わったあと、オレは最後の疑問を類に投げかけることにした。
    「では、なんであんなにオレと関わるときは慎重そうにしているんだ?」

    類はぴしりと固まり、そのまま動かなくなった。
    …は? ここで否定できないとなると、先程の言葉は全く信用できなくなる。視線をせわしなく泳がせたあと、彼は小さく言った。
    「……笑わないで、聞いてくれるかい。」
    不思議で首を傾げてしまう。ここからどこに笑う要素に持っていくつもりなんだ、と。
    あぁ、いいぞ。困惑を添えた肯定で、話の続きを待つ。
    「もっと、欲しくなってしまって、抑えきれなくなってしまうかもしれないんだ。」
    困惑がもっと困惑を極める。なんだって? 抑えきれない、と。それだけのことでオレは悩んでいたのか。なんなんだ、と彼の方をじっと見る。
    「抑えなくていい、と司くんは言うかもしれないが、がっつきすぎて引かれちゃうと思ったら、うまく動けなくて…」
    あはは、僕、情けないねと彼は笑う。彼も彼で悩んでいたようだった。なんだ、浮気なんてしていないじゃないか。そう思ったら不思議と笑えてくる。
    もう、笑わないで言ったじゃないか、と赤面して彼は言った。
    彼が照れるなんて滅多にないので得意げになる。
    「がっつかれたほうがオレは嬉しいぞ!」
    そう言うと彼は「その言葉、覚えておいてね」とオレにとっていい思い出がない表情で返してきた。
    あ、これはやってしまったな。そう思うには遅すぎたようだ。



    「司くん、おはよう!!」
    校門を抜けようとすると、類が後ろから抱きついてくる。あれ、シャンプー変えた?と匂いで当ててくる。どうしてわかったのだろう。考えていると類は耳元で「司くんのことなら何でもわかっちゃうんだ、僕」と囁いた。
    顔が熱くなり、はくはくと口を動かす。そんなオレを見て彼は言った。
    「がっついたほうが嬉しいんだろう?照れた顔も可愛いね、司くん。」
    何も言い返せなかった。図星を突かれたからというのもあるかもしれない。しかし、何よりこれは悪くないな、と思ってしまう自分がいたからだろう。
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    DONEワンドロ『浮気』 です。🎈🌟
    不器用な彼とせっかちなオレ「類が浮気してるかもしれないんだ。」
    真面目そうな顔で向かい合う男女の一人はそう言った。寧々はため息を吐き、そんな訳ないでしょ、と吐き捨てる。だが、とオレは話を続けようとするが「もういいから、そういうことなら帰って」と遮られてしまった。彼女はうんざりした顔でグレープフルーツジュースを飲んでいる。
    運が悪かったのかその言葉に目の奥がツンと熱くなる。類だけではなく寧々にも、なんていつもどおりのことを悪く考えてしまう。
    「な、泣かないでってば。……話、聞いてあげるから」
    恥ずかしそうに目をそらした彼女はそう言い、ため息をついたあと「で、類がどうしたの」と聞く体勢を取ってくれた。

     最初に違和感を覚えたのは必ず一緒にフェニランに行くのに断られたこと。彼いわく、委員会が長引きそうだと。緑化委員の植え替え作業がある、と妙に現実味を帯びた嘘を言うものだから当初は信じてしまった。嘘だとわかったのは翌日になっても花壇の花が入れ替わってないことに気づいた時だった。その時横を通り過ぎた類が気まずそうにおはよう、と言ったのだ。気まずそうに。疑わしいな、と彼を見つめるとよよよ、と泣き落としを食らってしまう。疑っていても好きな人のその顔には勝てず、結局なにも言えなかったが。
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