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    @C32190419

    類司のなんかをあげます

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    没ったので!!大泣き 私もう文字書けないんじゃないかとか思いました。

    僕のこと好きなくせに!僕はいつもどおり野菜サンドを買って、彼と二人並んで昼食を広げている。もちろんこの野菜サンドは僕が食べるものではない。彼の口の中に突っ込まれたそれは今頃噛み砕かれはじめているだろう。
     ぴし、と固まった彼は驚いた顔をしながらも咀嚼を始めたので思わず笑ってしまう。ちなみに今日の彼のお弁当は自分で作ってきたものらしい。

    「……おい! 急に何を突っ込んでいるんだ類!」
    わざとらしくおや、と彼の顔を見ると頬を膨らませて声を張り上げている。わかりやすく左手で拳まで作って。
    「そう言いつつ食べてくれただろう?」
    「吐き出すのはお行儀が悪いからだ!大体お前な──」
    彼の言葉を遮るように弁当箱から卵焼きをつまみ、口に放り入れる。「ん〜?」と聞いているようで聞いていない声を漏らし、それを味わった。
    「おい!オレの卵焼きが……!」
    「フフ、美味しいね」
    「それはよかっ……ではなーい!」

    彼のコロコロと変わる表情に目が離せない。しかし、と口の中にある卵焼きを再確認する。甘い。きちんと甘いのだ。それのどこがおかしいかって、天馬家はしょっぱい派だと話を聞いていたから。そして僕の家は甘い卵焼きなんだよ、と返した記憶。
     彼の方を再び見ると、心底嬉しそうにお弁当を見て微笑んでいた。もう一つ卵焼きを摘んで、そんなに美味しいなら食べるか?と聞いてきた彼に、僕は確信する。

    (やっぱり僕のことが好きなんじゃないの!?)

    大前提として僕は彼のことが好きだ。もちろん、恋愛的な意味で。片思いのときに両思いだと錯覚してしまうのはよくあることだと言われているが、この場合はどうだろう。寧々の「その甘い雰囲気見せつけないでほしい」のお墨付きだ。やはり好きなんじゃないのか、と思ってしまう。
     よく考えてみても、しょっぱいものも食べられる僕に甘い卵焼きをわざわざ作ってくるだろうか? 妹の分と別々に作って?
    ……いや、ないだろう。やはり彼は僕のことが好きだ。大変可愛らしい。僕のために尽くしてくれる彼を想像するのは照れてしまう。
     食べるか?と向けられた箸にかぶりつき、再び卵焼きを味わう。甘い。さらに僕好みときた。
    「……どうだ?」
    「美味しい、美味しいよ司くん。僕は幸せで胸がいっぱいだ……」
    目の前の彼にいくらか知能指数が低下している気がする。彼は困惑しつつもそんなに美味しかったか、と嬉しそうに少しだけ頬を赤らめて笑っている。
    「まぁ、オレの作ったものだから当然だな!」
    瞬時にいつもの彼に戻ってしまったが。
     彼が愛おしくてたまらない。僕が好きな彼が、僕の言動で赤面して、吃って、うまくいかないなと困惑している様子が可愛くてたまらないのだ。そして、彼にもっと近づきたいと思ってしまう。
     彼が僕のことが好きなら、多少のスキンシップだって許されるはずだろう。むふふ、と笑みが溢れる。隣で彼が怪訝そうにこちらを見ていた。



     こいつが今日つまんでくるなら卵焼きだろう、と彼好みの味に仕上げ、お弁当に詰めた。決して美味しいと褒められたいからだとか、胃袋を掴もうだとかそんなことは思っていない、決して。だから美味しいと満面の笑みで言われたってときめいたりしていない、ぞ。
     ……彼の食べる姿が好きだ。それから、どこまで行っても人のことを考えているところ。オレを爆発させてこようとするくせに、余計なところで紳士なところ。ずらりと高い身長に大人っぽさを身にまとっているくせに野菜は苦手なところ。あぁもう、これでは彼が好きみたいじゃないか。
    (いや、好きだが……!)
    問題はそこではないのだ。どうやら恋愛というのは『好きバレ』というものをしたら相手に嫌われてしまうらしい(ネットのブログに書いてあった)。つまり類に好きバレをしてはいけないのだ。
     今のところ上手く行っていると思う。だから彼はオレの弁当に手を突っ込むし、今日試してもらう演出はねと紙束を持ってきたりするのだ。

    ──しかし、抱きつくのはいささか距離が近すぎやしないか!?

    休み時間に隣のクラスを尋ねると急に彼が正面から抱きついてきたのだ。いつもの言動も意味わからないが、これはもっと意味がわからない。
    「司くん補給だよ」
    肩口に顔を押し付けてすぅーーっと深呼吸をしている。匂いを嗅いでいるのだろう。それにとんでもなく恥ずかしくなって類の肩を持ち、引き剥がそうとする。
    「ばかるい〜〜!人がいるだろう、場をわきまえろ!」
    腰に回された手は馬鹿力かと言いたくなるくらいびくともしない。一通り力を出し切ってしまったあとはぽかぽかと彼を軽く叩くくらいしかすることがなくなってしまった。

    「人がいないならいいのかい?」
    「〜〜!そういうことではないが!とにかくッ!はーなーれーろー!」
    「え〜…わかったよ……」
    「そう言って力を強めるな!!」
    「フフ、バレてしまったね」

    バレるも何も離すつもりなんて毛頭なかったじゃないか!
    なんなんだこいつは、と頭を抱える。

    「そもそもこういうのは好きな人とやるべきだろう!」
    「司くんは好きだよ?」
    「そういう好きではない!」

    好きという言葉に都合よく受け取ってしまいそうになったオレは慌てて否定する。これは友愛の好きだ、オレのとは違う、と。
    近い距離に胸が高鳴って、体が浮きそうなほどの高揚感と目眩がしそうなほどの恥ずかしさに頭がパンクを起こしそうだ。彼はずっとオレに抱きついてふふ、と笑っている。
    思わせぶりならそう言ってくれないと期待してしまうだろう、なんて言えるわけがない。仕返しだと彼の頭を雑に撫でた。

     ふむ、と考える。2階へ続く階段を下り、一年生が使う廊下へ出た。彼はオレのことをどう思っているのだろう。放課後、彼は委員会があるからクラスで待っていてと言われているのだ。暇を持て余したオレは校内散歩というものをしている。紫苑色を見つけたいと教室の中を見るこの目はどうにかならんのか。
     司くん補給だよ、と抱きついてきた今日の休み時間。あれは彼の中でどういった意味を持たせていたのだろう。
     彼は話を聞く限り気のおける友人がいなかったらしいから、距離を図り間違えているのかもしれない。それが合っていてほしいと思う自分と、両思いを願っている自分がもやもやと腹の中で渦巻いている。

     あ、と足を止める。無意識に探していた彼と、その後輩。
    「──でね、───フフ」
    「─!はははっ……類───」
    幸いオレには気づいていない。というか、委員会というのは嘘だったのだろうか。仲睦まじく笑い合うその二人の影に思わず嫉妬。オレは勝手に痛む胸に顔をしかめる。そうだ、中学が同じだったんだ。仲が良くて当然だろう。

     突然静まった教室の空気に動揺する。見つかってしまったか、と心臓が早く鼓動を打つ。

    「──ねぇ、───の…好き──」

    好き、の二文字に反応してしまったのは、類がいたからだろう。
    どこか彼はショーが恋人のようなところがあるから大丈夫だろうと高を括っていた。恋愛に最も遠いところにいると勝手に思っていたのだ。思えば彼も高校生。不意打ちを食らった気分だ。
    ここで気になるのが彼の回答。きっと類は瑞希のことが好きなのかという質問だろう。じくじくと心臓だけでなく手の先までも痛んでいくが耳を傾ける。

    「……好きだよ」

    頭が白く染まる。なんだこれは……ショック、だ。
    今日はとんでもない厄日だ。友人として、いや、それ以上の感情を持ってされていたのだと期待したかった物事がすべて否定されてしまったのだから。
    美味しいね、と笑った顔は友人の天馬司に向けられたもの。
    朝おはようとスキップ気味で近づいてくるのも。
    休み時間に急に抱きついてきたことも。

    だめだな、と熱くなったまぶたに知らんふりをする。慌ててその場を走って去って、それから階段裏で蹲った。流れ出る液体に自身の膝小僧を押し付ける。

    (好きバレ、していなくてよかった……)
    心底、そう思った。それだけが救いだった。震える肩がうざったい。
    まだ、大丈夫だと言い聞かせる。彼とは友人のままでいられるのだから。一番恐れていたのは彼がオレから離れていってしまうことなのだから、このくらい。
     暗くなった視界に映るのは瑞希と類の、後ろ姿。聞こえる先程の楽しそうな笑い声。思い返してみればそれも熱をはらんでいたような。
    (そうだ、それで類が幸せになれるなら)
    無視したい、オレの思いもきっと邪魔になる。そう思いたいのに恋心は許してくれなくて、ずっとずっと胸が締め付けられていて。
     どうしようもない苦しみの中、失恋を味わって涙を流していた。



    瑞希と司くんについて話し合った結果、司くんが僕のことが好きという現状に満足してしまったばかりに付き合うという選択を忘れてしまっていたらしいことに気づいた。

    「……好きだよ」
    「告白する気はあるの?」
    「…………いや」

    あのときの彼女の表情と言ったらもう今思い出しても吹き出してしまう。あの司先輩にいつもくっつている類が、と目をまんまるにして。

     いや、告白まがいなことはしたのだ。近付いたときの匂いが恋しくて司くん補給だと抱きついてしまった休み時間。
    ──司くんは好きだよ?
    冗談交じりに言うんじゃなかった、と後悔する。だってあれは確実に友愛として受け取られていた。ゴン!と勢いよく伏せたから机に額がぶつかる。痛い。
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    DONEワンドロ『浮気』 です。🎈🌟
    不器用な彼とせっかちなオレ「類が浮気してるかもしれないんだ。」
    真面目そうな顔で向かい合う男女の一人はそう言った。寧々はため息を吐き、そんな訳ないでしょ、と吐き捨てる。だが、とオレは話を続けようとするが「もういいから、そういうことなら帰って」と遮られてしまった。彼女はうんざりした顔でグレープフルーツジュースを飲んでいる。
    運が悪かったのかその言葉に目の奥がツンと熱くなる。類だけではなく寧々にも、なんていつもどおりのことを悪く考えてしまう。
    「な、泣かないでってば。……話、聞いてあげるから」
    恥ずかしそうに目をそらした彼女はそう言い、ため息をついたあと「で、類がどうしたの」と聞く体勢を取ってくれた。

     最初に違和感を覚えたのは必ず一緒にフェニランに行くのに断られたこと。彼いわく、委員会が長引きそうだと。緑化委員の植え替え作業がある、と妙に現実味を帯びた嘘を言うものだから当初は信じてしまった。嘘だとわかったのは翌日になっても花壇の花が入れ替わってないことに気づいた時だった。その時横を通り過ぎた類が気まずそうにおはよう、と言ったのだ。気まずそうに。疑わしいな、と彼を見つめるとよよよ、と泣き落としを食らってしまう。疑っていても好きな人のその顔には勝てず、結局なにも言えなかったが。
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